「ここが禁書庫」
夢子が立ち止まり、目の前に聳え立つのは他と違う異質なオーラを発する部屋の扉。いや、正確には部屋の中からだ。
古びた木製のその扉は、なんとも言えない貫禄を感じられる。
中には、どれだけ興味深い書物が眠っているのだろうか…。
「さ、殴ってみて。あなたの力なら、こんなもの簡単に破壊できるでしょう?」
挑発するようにそう言って笑う夢子の顔は、さっきとは打って変わって「してやったり」という感じだ。先程と言ってることが全く違う夢子に、クロロはなんて分かりやすい女だと笑みを溢す。
多分力を跳ね返す…というのなら、オレがここを殴った分だけの力がオレに跳ね返ってくる。面白いカラクリだ。クロロは試しに扉をコツコツと叩いてみる。すると、クロロの拳に軽く力が跳ね返った。
「力じゃどうにも出来ないということだな」
一応扉に取り付けてあるドアノブを引いてみる。びくともしない。扉は閉ざされているのではなくくっつけられているのではないかとも思った。
「…いいのよ?思う存分殴っても」
「自分自身に痛め付けられるのなんてごめんだな」
「あっそ」
自爆してくれないとわかった夢子は不機嫌そうに腕を組むと、「じゃあどうするのよ」と呟く。
そんな夢子の様子に、クロロは弄ぶようにふっと笑って言い放った。
「何かあるんだろ、遺されたヒントみたいなものが」
「…あんたどこまで知ってこの屋敷に来たの?」
「さあな」
カマをかけたつもりが、当たりだったようでクロロは満足げに再び微笑む。不機嫌そうに舌打ちをした夢子は踵を返すとズカズカと廊下を進む。
それにクロロもついていく。
「暗号が遺ってたの。意味はよくわからなかったわ」
「それには何と?」
「もう一度、約束して。私に危害を加えないことと、私のコレクションには触れないこと!!!」
「コレクションに命令されてもな」
「…どういう意味?」
振り返った夢子にクロロは「さぁな」と笑って返す。夢子は不可解だとでも言うような表情を浮かべ、再び前に向き直る。
先程の書斎に戻ると、夢子は引き出しから鍵を取り出し後ろの金庫まで近付いた。
「暗号は見せてあげるけど本当に私には解けてないから。まぁ部外者のあなたにはもっと無理でしょうけど」
「どうかな、やってみないと」
「あっそ」
カチャリ…と金庫の鍵が回った。