小鳥のさえずりと木々のざわめきが心地よい。
窓からは日差しが流れこみ、床に散らばった無数の本を照らしている。
振り子時計の針は一定にその時間を刻み、ただ無機質な音が部屋に響く。
少女は一冊の本を片手にハーブティーに口付けると、ふぅ…と溜め息を吐いた。
車の一台も通らない国道から外れて暫く歩けば森林地帯が広がる。
誰も近寄らず人の手を施されていない樹林は力強く空に向かい、大自然を感じることができる。
そこからさらに、森に足を踏み入れて暫く歩けば身体に変化を感じる。
ひどく体力を消耗し、脱力する。しかしどこか心地よい。
例えるならまるで、性交渉後の余韻のような…そんな感覚に襲われる。
歩を進めればそれは強くなり、だんだんと気圧されるような威圧感に変わる。
__間違いない。ここだ。
クロロは確信すると右手に本を出現させる。
いつでも戦えるようにと警戒し戦闘体勢に入る。相手はこの広範囲に念による威圧…いわば選別を施せるほどの手練れだ。
早々に殺して全て奪うつもりであったが、すぐには終わらないかもしれない。相手の力量によっては長引くだろう。
今宵、盗賊であるクロロが目をつけたのは、古書や禁書など一般に出回っていない本が多く眠る古い私設図書館。
ほんの半世紀前までは人の出入りを許し、貸し出しもしていたその図書館だが司書が代わると人の出入りを禁じ、森へ足を踏み入れることさえ拒んだ。
何度か館に目をつけた輩がいたが、その後帰ってくることはなかったという。
今は地図からも消され、タブー視さえされている。
そこにはどんなお宝が眠り、どんな古書が溢れているのか。
__興味深い。
道中、散らばった無数の骨を見かけてクロロは思った。
(正体不明の念に圧されて干からびたのか…)
念の威圧がいっそう強くなると、目の前に巨大な館が現れた。
異質なオーラを放つその建物は、蔦に覆われ荒れ放題で、本当に人が住んでいるのかすら怪しい。
クロロは絶をしたまま一息つくと、特に異質なオーラを放つ塔の上を見上げた。
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