第133話 オークション
アレンはキールの件をグランヴェル子爵が預かった話を、キールを含めて仲間達全員にした。
キールからは「分かった」とだけ言われた。本人を目の前にして王家の使いの話が嘘っぽい話は濁してしまったが、キールには伝わってしまったように感じる。本人もうすうす気づいていたのかもしれない。
その上で、ダンジョンを攻略する日々は今まで通りやっていくと言う話だった。
どういう結果になろうと、家族のためにお金がいるのに変わりはないとキールは思っている。
8月も中旬に入った。
学園は夏休み中なので、ダンジョンばかりの日常だ。
ダンジョン以外にもやることはあるので、週6日のうち4日はダンジョンに入る。
2日については、日課としてやっているBランクダンジョン2つ、Cランクダンジョン3つの最下層ボスを倒すだけにしている。最下層ボスだけなら半日もあれば終わる。
今日はそのどちらでもない日だ。
一日掛けてやる用事があるのでダンジョン休みの日だ。
アレン達は5人で冒険者ギルドに来ている。冒険者ギルドには基本的に魔石の回収と募集依頼に来るだけだが、今日は別件だ。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」
「冒険者証の更新と魔石の依頼に来ました。あと確認したいことがあります」
アレン達は、夏休みになりダンジョンに入る日にちも増えたので、とうとう3つ目のB級ダンジョンを攻略した。
少々お待ちくださいと言われ、2階の一角で順番を待つ。
(やっぱり生徒が多いな。夏休みは皆ダンジョンに通うんだな。1年生だけじゃなくて2年生も3年生もいるだろうし)
冒険者ギルド2階の学園の生徒専用フロアには、多くの生徒がいる。
これだけ生徒が来るなら、専用フロアを設けるのは分かるなと思う。
2年生の夏休み以降習う魔王史のことを考えると、3年生はかなりいそうだ。3年生なら、あと半年かそこらで戦場に行くことになる。
少しでも鍛えておきたいと思うだろう。
そんなことを考えていると順番が回ってきた。
いつものようにローカウンターに案内され、用件を聞かれる。毎週のように魔石を募集しているので職員もよく見た顔だ。
「本日も魔石の依頼でしょうか?」
行きつけの定食屋のように、依頼内容を理解してくれている。
「はい、魔石の依頼もなのですが、B級ダンジョンを3つ攻略したので冒険者証の更新に来ました」
職員は少し驚いたが、更新するので今お持ちの冒険者証を預かりますと言って、預かりカウンターの奥に持っていく。
「変更に少しお時間がかかります。その間に依頼を済ませておきますか?」
「はい。これまでDランクの魔石を募集していましたが、Eランクの魔石の募集もしたいです。募集の個数に上限はありますか?」
「そ、そうですね。Dランクの魔石と同じくらいには募集できるかと思います」
アレンは、3年後の戦場に備えてEランクの魔石の収集を始める。
職員から月10万個程度の募集、週だと2万個にしてほしいと言われるので、分かりましたと了承する。EとDランクの魔石の依頼書を記入する。なお、Dランクの魔石については月で5万個が上限だ。
「これからA級ダンジョンに行かれると思いますが、ご注意ください」
職員の話を聞く。何でもB級ダンジョンに比べても危険なダンジョンで、A級ダンジョンを中心に活動している冒険者はほとんどいないとのこと。
そもそもA級ダンジョンは最下層ボスがAランクの魔獣のため、攻略する意味がほとんどないとまで言われる。
皆がダンジョンに行く理由は最下層ボスを倒して報酬を貰うこと。
Aランクの魔獣が倒せなければ行く理由はないということだ。
以前も聞いたが、5から10くらいしか攻略するパーティーはいない。
「分かりました。あとで資料を確認したいと思います。それと、もう1つ教えていただきたいことがありまして、よろしいですか?」
「もちろんです」
しっかりお答えしますと言ってくれる。
「オークションについて教えていただきたいです」
アレン達の武器は、C級ダンジョンの攻略からほとんど変わっていない。アレンが金貨200枚ほどかけて投資して皆の装備を揃えた。
ミスリルかそれに近い価格帯の装備を買ったためか、それから装備の更新はない。
CやB級ダンジョンでは、そこまで高価な装備は出なかった。
レベル上げだけが強くなる方法ではない。レベルは上がれば上がるほど上がりにくくなるものだ。そんな中、装備を良くしていかなくては強くなれない。
店売りの商品もいいが、今後視野に入れないといけないのが、価格が時価や需要で動く高級装備の入手だ。
そのためのオークションである。
武器屋には金貨百枚もする武器が並ぶし、防具屋も同じだ。
武器屋や防具屋に聞いたのだが、どうもこの辺りの武器と防具の最高装備のようだ。
この学園都市は王都にも引けを取らない武器や防具があると言う。
アレン達はB級ダンジョンも日課で最下層ボスを倒しているので、1日1人当たり金貨数枚を稼いでいる。今後さらに稼げるようになると思っている。
そのお金を使って卒業までに最高の装備を手に入れなくてはならない。
装備の中には当然魔力回復リングが入っているのだが、それだけではない。最強の武器、鉄壁の防具、便利な魔法のアイテムなど欲しいものはたくさんある。
「冒険者ギルドが主催するオークションですね」
職員がオークションについて教えてくれる。
・毎月1日に行っている
・前月20日にオークションの出品が締め切られる
・25日以降、冒険者ギルドで出品状況を確認できる
・落札価格の5パーセントが手数料
・仲介人を雇うなら成功報酬は落札価格の5パーセント必要
・出品も落札価格の5パーセントが手数料
(なるほどなるほど、当然いいアイテムが出ればオークションに出品したほうが店に売るよりいい値がつくかもしれないからな)
聞いた内容を魔導書に記録する。
「オリハルコンの剣とかも出品されますか?」
「お、オリハルコンですか? あまりございませんね。武器の素材ですとアダマンタイトがオークションで出る最高装備になります」
アダマンタイトの剣は金貨1000枚以上で取引されているという。そのアダマンタイト製の武器は毎月出品されるわけではないと言う。
剣のおおよその価格帯
・ミスリル 金貨30枚
・ヒヒイロカネ 金貨100枚
・アダマンタイト 金貨1000枚以上
・オリハルコンの剣は価格なし
クレナやドゴラの武器は剣より大きいので、大剣や斧ならもっとしそうだ。
(ふむ、オリハルコンの武器は手に入りそうにないな。この辺はダンジョンで出したいところか)
アレンの中では武器や防具などアイテムを3つのランクに分けている。
最もランクが低く、入手難易度が低いのは店売りだ。この異世界ではせいぜい金貨数百枚といったところだろう。
次のランクは、オークションや個人間取引など店頭ではなく、時価で値段が変わる武器だ。今聞いた話だと金貨1000枚以上のものもありそうだ。
そして、もっともランクが高い武器はお金では買えない。
アレンは前世で健一だった頃、最強の武器と防具を求めてきた。その武器や防具は決してお金では手に入らなかった。
取引規制がかかっていたり、ステータスやレベルに制限がかかっていたり、装備するのに一定のクエストをこなさないといけなかった記憶がある。
アレンがお金にあまり頓着しないのは、この辺りが原因だ。お金で買える装備など通過点に過ぎない。これまで一度も通過できなかったことはない。今は確かに店売りを卒業しつつあるくらいの稼ぎしかないが、この異世界でも最高ランクの武器も防具も手に入れる予定だ。
「どういうものが出品されるか、大体で結構ですので教えていただけませんか?」
「もちろんです」
オークションでは金貨数十枚から数千枚の商品が出るという。
・体力リング
・攻撃力リング
・知力リング
職員の話ではステータスを上げる指輪もあるようだ。相場は金貨数百枚ほどだと言う。
(どれだけステータス上げるか知らんが中々の値段だな。戦場に行く貴族に需要がありそうだしな)
・毒耐性リング
・眠り耐性リング
グランヴェルの街でその存在を聞いた、この辺りの耐性リングは金貨100枚前後だと言う。
(そこまで値段が上がらないのは、眠り薬や解毒薬も市場で売っているからだな。事前に飲めば解毒してくれるし)
魔法やブレスにかなり高い耐性のある防具も出てくるということも教えてくれる。
ドラゴン素材の防具はとても高く金貨1000枚を超える物もあると言う。
まだオークションに参加していないが、なんだか成長の伸びしろがあってわくわくしてくる。装備の話を聞くと胸が高鳴る。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらが新しい冒険者証です」
「わあ! 新しい冒険者証だ」
クレナが冒険者証を貰って喜ぶ。オークションについてはよくわからなかったようだ。
「じゃあ、ダンジョンを調べて、どうするか対策を考えねえとな」
ドゴラも冒険者証を握りしめ胸が高鳴っているようだ。
(よし、ようやくA級ダンジョンの攻略に行けるぞ!)
明日からA級ダンジョンの攻略が始まるのであった。