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 危機の際には平時と異なる企業支援も必要だ。ただその分、政府の説明責任も重くなることを、忘れてはならない。

 日本政策投資銀行が5月に決めた日産自動車への融資1800億円のうち、1300億円分に日本政策金融公庫との損害担保契約が付いていた。政府による新型コロナ対策の「危機対応業務」の枠組みを用いた契約で、政投銀が一定の補償料を払う代わりに、日産からの返済が滞ったときは公庫から最大1千億円の補償金を受け取れる。

 公庫は政府の100%出資で、危機対応業務にも国の資金が投じられている。事実上、政府保証付きの融資といえる。

 この仕組みは、中長期的に安定した経営が見込まれるのに、コロナ禍で業況と資金繰りが悪化し、「経営上回復し難い損失を被ることが想定される」企業が対象だ。大企業の場合、国民生活の向上や国民経済の成長に及ぼす影響が大きい企業に限るとの条件もある。雇用など地域経済への貢献が高い▽関連産業が幅広い▽高い技術や専門知識がある――などのいずれかを満たすことが必要とされる。

 日本経済はコロナ禍で前例のない打撃を受けた。社会の基盤を維持するために、こうした危機対応策は必要だ。付された条件もおおむね妥当といえる。

 日産を含む自動車産業は販売が急減し、部品供給網にも影響があった。日産は19年度に続き20年度も大幅な赤字が予想され、一時は手元資金も急減していた。支援の検討対象にすることに異論はない。

 ただ、場合によっては一企業のために巨額の公的資金を投入するおそれが生じる以上、透明性を高め、妥当性を検証可能にすることが不可欠だ。危機時に信用不安を増幅しない配慮は必要だが、損害担保取引の対象とする大企業の社名は一定の時期に公表することを検討する必要がある。条件をどのように満たしているかについても、丁寧に説明しなくてはならない。

 確認すべきは、現時点での危機対応の枠組みは、あくまでコロナ禍を乗り切るためにあることだ。以前からの構造的問題を抱える企業に対する、なし崩しの支援や救済につなげてはならない。日産も「ゴーン事件」の前後から経営体制が混乱し、業績が低迷していただけに、金融機関や政策当局には留意が必要だ。日産側にも着実な経営立て直しが求められる。

 コロナ禍の影響が長期化すれば、企業経営への打撃も業種によってはさらに根深いものになりかねない。その際、経済の土台をどのような原則で守るのか。今回の事例も機に、議論を深める必要がある。

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