宏池会分裂の戦犯になるか
岸田氏が長を務める宏池会は、戦後日本の経済成長の道筋を付けた故池田勇人首相が1957年に設立して以来の自民党最古の派閥だが、1991年から93年まで首相を務めた故宮澤喜一氏以降、首相を輩出できていない。「ケンカができない公家集団」と揶揄されて久しいが、そもそも前回の2018年の自民党総裁選で安部首相からの禅譲を期待して出馬を見送るような岸田氏をリーダーに据えておくところからも政治集団としてはあまりに軟弱と言わざるを得ない。闘わずに勝ち取れるほど首相の座は軽くはない。
岸田氏は宮澤氏以来の空白の30年を挽回する期待をかけられてきた。それがこの醜態をさらしたことで急速に求心力は落ちている。宏池会は現在岸田派と呼ばれているが、名称変更の日は近い。
次の宏池会のリーダーは、実力と格から言えば林芳正元防衛相だが、参議院議員で総裁候補にはなれない。となると、統計偽造問題で批判された根本匠衆議や、ハンコ議連会⻑にもかかわらずIT担当相に就任した⽵本直⼀衆議など途端に頼りない面々になる。リーダーシップのなさに辟易した若手などが派閥を割ることも考えられる。
故田中角栄首相は「政治は数、数は力、力は金だ」との名言を残している。永田町では弱った派閥は強い派閥に食われるのが常だ。弱った宏池会が分裂し、他派閥に吸収され弱体化するというシナリオは十分にあり得る。そうなれば、岸田氏は名門派閥を滅ぼした戦犯として長く語り継がれるだろう。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや文春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは @kyuzo_matsuoka
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