モモンガ冒険譚!!   作:ブンブーン

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アンケートの方はここで締め切らせて頂きます。
ご協力誠にありがとうございました。


第12話 モモンガと戦士長

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最初はピリピリした空気感だったが、村長宅へ案内され、モモンガがこの村にしてくれた数々の恩を話すと徐々に誤解が解けたのか戦士長の表情が段々と柔らかくなった。

 

そして、幾つもの村を襲撃した騎士達を残らず捕縛してしまったのもモモンガだと知ったガゼフは改めて礼を言うと深々と頭を下げた。あまり(まつりごと)に詳しくないモモンガでも、それなりの役職を持つ人が頭を下げる事の意味は理解出来るのだが、「事態に間に合わなかったせめてものケジメです!」といくら言っても頑なに頭をあげようとはしなかった。

 

漸く頭を上げたのはモモンガが彼の謝罪を受け取ってからだった。

 

 

「一目見たときから只者ではないと思っていたが…あれだけの数を相手に圧倒し、更に村のためにここまで尽くすほどの素晴らしい御仁であったとは…誠に感服致した。」

 

 

もっと怖い人かと思ったが、このガゼフ・ストロノーフという男は凄く礼儀正しい人物だった。流石に素性が不明という事もあり警戒心は抜けていない。彼の目だけは未だに相手を見定めてるのが何となく分かる。

 

 

「いえ、私はそんな大したことは…」

 

「そう謙遜なさるな。貴殿の行いは誇るべきものだ。…そう言えば、貴殿の名をまだ聞いていなかったな。」

 

 

本当ならもっと早くに名乗るべきだったのだが、村長がすぐに家の中へと案内するや自分の説明を矢継ぎ早にしてきたが為に、タイミングを見失っていた。これは此方に非があると素直に受け止めて心の中で反省する。

 

モモンガは兜を取り、人化の素顔で自己紹介を始めた。彼の素顔を見たガゼフは「ほう…」と少し驚いていた。

 

 

「自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません。私はモモンガと言うもので、遠国から放浪の旅を続けています。」

 

「ガゼフ・ストロノーフだ。リ・エスティーゼ王国で戦士長を務めている。しかし、黒髪に黒目とは珍しい……貴殿は遠国から来たと言っていたが、それは南方の砂漠に囲まれたあの国の事であろうか?」 

 

 

黒髪と黒目がこの辺りでは珍しい事は知っていたが、南方出身にそういった外見的特徴があるのは初耳だ。ガゼフも黒髪に黒目である事から彼も南方の国出身、もしくは南方系の血が入っているのかも知れない。

 

ここは下手に「そうです」と答えるのは不味そうだ。

 

 

「南方?…いえ、生憎ですが…」

 

「そうでしたか。いや、失礼。実は黒髪で黒目の者は南方の国出身である事が多くてな。貴殿もそうなのではと思ったのだが…。しかし、随分と若いな。失礼でなければ歳を伺っても?」

 

 

モモンガは口籠ってしまった。

確かに年若い見た目をしているが中身は三十路のオッサンだ。ここは正直に鈴木悟としての年齢を答えるべきか?いや、それは幾らなんでも不自然過ぎる。やはり見た目通りの年齢を言うべきだろう。

 

こうなるならもっと早くに年齢設定を決めておくべきだった。

 

 

「に、22…。」

 

「なんと…やはり若い!あ、いや、嫌味で申しているわけではなくてだな……その若さでここまで善良な行動が出来る君が少し羨ましく思えてな。」

 

 

彼の言葉と表情にどこか引っかかりを覚えた。自虐的にも聞こえるその言葉に、ガゼフは僅かな苦笑いを浮かべた。単純に考えるなら「自分にはそれは出来ない」と言っている様に思えた。

 

 

(それとも…『出来ない理由』があるのか)

 

 

恐らくだがそれは彼の役職に関係しているのではないかと思えたが、今はそんなことを考えている暇は無さそうだ。

 

 

「では、モモンガ殿。貴殿はどこから来たのだ?南方の国では無いと言っていたが…」

 

 

ここでもモモンガは迷った。

あの時に嘘でも「そうです」と答えるべきだったか?いや、もし王国にその南方の国出身や詳しい人物がいた場合、自分の嘘を見破られる可能性もある。そうなると後々面倒臭い事になるだろう。

 

それなら敢えてここは少し正直に言ってみるのも一つの手だ。正直、ユグドラシルの情報を与える様な事は返って自分の首を絞める事に繋がるかも知れないが、流石に何も行動を起こさないわけにはいかない。

 

 

「…ユグドラシル、というのはご存知ですか?」

 

 

モモンガが国として出した名前はあのユグドラシルだった。最初はナザリックかAOGの名を出そうと思ったが、多くのプレイヤーからの恨みを買っているギルドやその拠点の名を出すのは不味い気がした。

万が一ユグドラシルに関する詳しい情報を持つ者やプレイヤーの耳に入った場合、敵対行動を取ってくる可能性がある。

 

 

(危ないよな。だからここは『ユグドラシル』でいってみよう。それで何か情報を得ることが出来れば良しとしよう。)

 

 

王国戦士長ともなれば何かしらのスジでその手の情報を持っているかもしれない。モモンガは不安半分、期待半分で返答を待つが返ってきた答えは残念の一言だ。

 

 

「申し訳ない…そのユグドラシルなる国の名は聞いた事がない。」

 

 

本当に申し訳なさそうな顔で彼は答えた。

何かユグドラシルに関する情報を持っていたら御の字だったが、王国戦士長という役職を持っている彼でも知らないとなるとユグドラシルやプレイヤーに関する情報は出回ってるわけではなさそうだ。

 

 

(カルネ村の人たちにも遠回しにユグドラシルの事を聞いてみたけど、何も知らなかったし…てっきり田舎だからかなぁ〜って思ってたけどそういう事ではなさそうだな。)

 

 

それでもやはりこの世界に転移してきたプレイヤーは自分だけとは思えない。仮に自分以外にプレイヤーが本当にいなかったとしても、ユグドラシルに由来するアイテムや情報などはあるかもしれない。王国にもガゼフが知らないだけで、もしかしたら権力者しか知らない情報がある可能性だってある。

 

今後、この世界で生きていく上で得られる情報は多いに越した事はない。

 

 

「その全身鎧…随分質が高そうではあるが、貴殿はそのユグドラシルなる国では高名な騎士ではないのか?」

 

「あぁ、これですか。コレは此処まで来る途中に見つけた遺跡から見つけたモノなんです。それなりに気に入ってまして、そのまま自分の装備として使っていました。」

 

「そうであったか。そのグレートソードを扱えるとなるとかなり腕の立つ騎士なのだな。」

 

「いえ、それ程でも…あ、自分は純戦士と言うよりも魔法戦士に近いですね。」

 

「魔法詠唱者でもあったのか!?…つかぬ事を窺うが、何位階までの魔法を?」

 

 

ここは正直に答えるべきではないだろう。しかし、この世界の扱える位階魔法の基準がよく分からない。ンフィーレアが扱える第2位階で天才ならば…

 

 

「第3位階程度ですがー」

 

「なんと!?…そ、それは凄い。私は見ての通り戦士である故、魔法には詳しくないのだが…第3位階を扱える貴殿が天才の中の天才である事は分かる。その若さで騎士としても、魔法詠唱者としても並々ならぬ実力を持つとは…やはり貴殿は只者ではないな。」

 

 

かなり感銘を受けている様だが、同時に警戒心が少し増したように思えた。扱える位階魔法に関しては多分問題ないと思っていたが、第3位階でここまでオーバーに褒められるとは思わなかった。

常識の範囲内である分警戒が増したとも言えるが、4位階以上となるとどうなるか分からなかったしそもそも虚言と思われ、別の形で警戒される可能性もあった。

 

だが一つ確かな事はガゼフは此方の言う事を全て信じている。

 

 

(真っ直ぐというか…正直者というか…)

 

 

だがそれが彼の良い所なのではないかとも思える。モモンガ自身、彼が嫌いではない。寧ろ己の役職をちゃんと熟そうとする姿勢は素直に好感を持てる。職質みたいなのを受けてはいるが、この国の戦士長ともなれば身元詳細不明の人物に対して当然の行動だ。

 

 

「貴殿が何者であれ、この村の恩人である事に変わりはない。本来ならば私が守らねばならぬ民を…不肖なるこの身の代わりに尽力を尽くして頂き誠に感謝する。」

 

 

ガゼフは再び頭を下げた。

彼はモモンガに対して警戒心を抱き続けている事に後ろめたい気持ちがあったのだ。身元詳細不明に対し当然の対応ではあるのだが、民の救出に間に合わなかった自分の代わりに民を守ってくれた人物に対する罪悪感で一杯だった。

 

 

(本当に実直な人だなぁ〜…けど、それも含めて彼の魅力なのかも知れないな。)

 

 

そんな彼の苦悩を知る由もないモモンガ。もう少し相手の言うことに疑いを持つべきではないだろうか。逆にその実直過ぎる彼が心配になってくる。

 

 

「では、あの帝国騎士どもは我々の方で身柄を預からせて貰う。生憎、貴殿の働きに見合う報酬は持ち合わせていない…だが、必ずそれに見合う報酬を贈ると約束しよう。」

 

「そんなに気にしないで下さい。……それと、帝国騎士ですか?」

 

「む?どうかしたのか?」

 

 

モモンガは考え込んだ。そう言えばガゼフ達がここへ来た時も「帝国の騎士達をー」と言っていた。

 

 

「すみません。私はこの辺りの常識に疎いものでして……あの騎士達はスレイン法国の者ではないのですか?」

 

 

モモンガの言葉にガゼフは怪訝に思った。

 

 

「法国?いや、あの装備はバハルス帝国の騎士達の装備だが……モモンガ殿?」

 

「ストロノーフ殿…貴方は狙われています。」

 

「……なに?」

 

 

モモンガが詳しく説明をしようとした時、ガゼフの部下が家の中に慌てて入ってきた。どうやら緊急事態のようだ。

 

 

「戦士長!!大変です、謎の集団に村が囲まれました!!」

 

「何だと!?」

 

 

やれやれまた厄介ごとか。

モモンガの推測が正しければ狙いは間違いなくガゼフだ。今村を包囲しているのは昨晩モモンガが捕縛した偽装部隊が言っていた『陽光聖典』なる連中なのだろう。

 

奴らは何がなんでもガゼフを抹殺したいらしい。

 

ガゼフの方へ顔を向けると、どうやらモモンガが説明するまでもなく全てを理解したらしい。申し訳なさそうに顔を歪ませていた。

 

 

「そうか…俺の…せいか。」

 

 

気持ちは分かるが今は懺悔している暇はない。急いでガゼフは村長宅から出ると部下達に招集を掛けた。モモンガも彼らの後に付いていこうとした時、心配そうにこちらを見つめるエンリの姿が目に入った。

 

彼女を心配させないようモモンガは優しい笑顔を向ける。

 

 

「すぐ戻るよ」

 

 

そう言い残すしモモンガは漆黒の兜を被った。

 

 

ーーーーーー

怪しい集団が村を包囲しつつ、一定間隔を空けながら迫ってきていた。金属糸で編まれた衣服鎧はモモンガからすれば粗末もいいとこだが、明らかにガゼフ達の装備より上質だ。

 

 

(見た感じだと…アレは魔法詠唱者かな?武器らしいものは無いし…。)

 

 

そして、何より目立ったのは連中の一人ひとりに付き従っている存在だ。

 

 

炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)か……召喚モンスターまでユグドラシルと同じなのか。」

 

「モモンガ殿はあのモンスターをご存知なのか?」

 

「ええ、まぁ。第3位階の召喚魔法で呼び出せる天使系モンスターです。」

 

 

「第3位階か…」と呟くガゼフは徐々に迫り来る敵を見据えていた。そんな中、彼の部下達からの物騒な視線を痛いくらいに感じた。恐らく「手を貸せ」と訴えているのだろう。しかし、モモンガとしてはまだ相手の実力が分からないうちに勝負を仕掛けるのは避けたい。

 

 

「モモンガ殿…」

 

 

ここでガゼフが話しかけて来た。彼も部下と同じように「手を貸してくれ」と言ってくるものだと思っていた。モモンガとしては手を貸したいところだが、何も情報が無いうちはどうしても避けたい。その為、幾つか条件を出そうと思っていたのだが、彼が続けて言った言葉はモモンガの予想を超えたものだった。

 

 

「どうか貴殿は村の人達を守っていてほしい。」

 

 

その言葉にモモンガは驚愕した。

普通に考えれば自分を無理やりにでもこの戦いの場に引き摺り込めば相手の戦力にもよるが有利に進めるかもしれない。その考え自体浮かばなかった筈がないのに、彼はそれを選ばなかった。

 

 

「そもそもの狙いは俺だ。自分が出向けば奴らもこれ以上は村を襲う事はないだろう。無論、負けるつもりはない。だが、最悪の事態が起きたとしても、自分1人の命で済むのなら安いものだ。」

 

 

彼は笑っていたが決して楽観的でなければ、自暴自棄になっているわけでもない。その目は強い覚悟を秘めたモノを宿していた。モモンガが羨むほどの強い意志を持った瞳だ。

 

モモンガば彼の瞳に恩人である白銀の聖騎士の姿が朧げに重なろうとしていた。

 

 

「村を救ってくださった貴殿にこんな事を頼んで申し訳なく思う…だが、ここはどうか…私が敵を引き付けている間に村人達を安全な場所へ避難させて欲しい。」

 

「…分かりました。命に変えても村人は私が守りましょう。ですが、村人達の避難を終えた後は私も駆け付けさせていただきます。」

 

 

ここで逃げてしまっては漢が廃る。それは何よりも自分を救ってくれたあの人に対する裏切りにも繫ると思った。

 

勿論、村人達は避難ではなく広場中央に集めるよう伝えるつもりだ。その方が何かあった時に守り易い。誘導については《伝言》の効果を持つマジックアイテムをエンリに持たせてあるので彼女に任せれば問題無いだろう。護衛としてデスシーフ達も置いて行く。何か問題が起きたら即連絡、村人に危害を加えようとする存在がいたら即排除と命令しておく。

 

 

「かたじけない…!」

 

 

ガゼフは部下達に向けて「同行は不要」と命令した。だが、彼の部下達は誰一人としてその命令を聞き入れず最期まで戦士長と戦うと頑なに答えた。仕方ないと思ったのかガゼフはそれ以上何も言わずに馬に跨り部下達と共に敵が潜む草原へと駆けて行った。

 

その後ろ姿を見送るモモンガは早速エンリとデスシーフ達に指示を送った。

 

 

 

ーーーーーーー

村人達の移動はスムーズに行えた。とは言ってもモモンガは《伝言》で指示を送っただけなのでほぼ何もしてないに等しいのだが、村長に代わってエンリが率先して村人達を誘導してくれた為、大きな混乱もなく移動を終えることが出来た。

 

 

(彼女は意外と村長みたいな役職に向いてるのかもしれないな。)

 

 

デスシーフ達の配置も完璧に終えた。

あとはガゼフ達の応援に駆けつけるだけだ。

 

 

「言っても…アークエンジェルフレイム程度なら問題なさそうだけど。」

 

 

ガゼフのレベルは28で部下達は12前後と非常に低いがこの世界基準で見れば強者に分類される。アークエンジェルフレイムは第3位階の召喚魔法で現れるモンスターでレベルは21。部下達には厳しい相手だがガゼフなら問題は無い。因みに衣服鎧を纏った例の集団は20前後とこれもまたガゼフの部下達には荷が重い。

 

ガゼフなら問題なく対処は可能だろう。

だがそれも一対一(タイマン)勝負ならの話だ。

 

ガゼフは生身の人間で装備は魔法も込められていないゴミ装備だ。疲労無効効果を持つ持続する指輪(リング・オブ・サステナンス)の様なアイテムも持っていない。部下達はガゼフよりもっと弱い為、戦力の内には入れない方がいい。

 

対して相手は5、60人ほどの集団で、其々がアークエンジェルフレイムを召喚し尚且つレベル20前後。その集団の中でも一際レベルが高いのが1人いる。恐らく彼が隊長なのだろう。彼が召喚しているモンスターは第4位階の監視の権天使(プリシパリティ・オブザベイション)と少しレベルが上だ。

 

 

「チラッとしか見てないけど…あいつがリーダーだろう。レベルは26…ふむ、レベルだけならガゼフの方が上だが、監視の権天使は28だ。」

 

 

総合的に見てもガゼフが圧倒的に不利だろう。

 

モモンガは直ぐに《視覚移動(フローティング・アイ)》で戦況を確認する。

 

 

「むぅ…やっぱりか。」

 

 

草原は死屍累々と化していた。倒れているのは殆ど…いや、全てガゼフの部下達だ。死屍累々と言ったが皆微かに息はある。どうやら皆、アークエンジェルフレイムにやられてしまったらしい。

 

 

(まぁ、予想はしていたが…。)

 

 

肝心のガゼフも複数体のアークエンジェルフレイムに手こずっていた。身体中傷だらけで息も絶え絶えの状態だった。相手は召喚モンスターを前衛として相手にぶつけながら、何体かは注意を逸らす為に動き回り、後方の術者達と他の隊員達が魔法で援護射撃をする。連中の扱う魔法もユグドラシル由来のものだったが、全てが第3位階以下の魔法ばかりで正直ショボい。

 

だがガゼフには非常に効果的でほぼタコ殴り状態だ。それでも踏ん張り続けるガゼフは何かを口にすると一瞬だけ身体能力が向上したように見えた。

 

 

「あれはなんだ?」

 

 

アークエンジェルフレイム3体がかりの攻撃を微動だにせず剣の腹を盾として受けて弾き返したり、難しい角度からの攻撃後の崩れた姿勢が不自然に元の姿勢に戻ったり、1体を倒すのに2、3撃必要だったのに1撃で倒したりなど目を見張るものがあった。

 

恐らくあれはユグドラシルで言う『特殊技術(スキル)』の様なものなのだろう。そんなものまでこの世界には存在するのかと驚くと同時に警戒のベクトルも上がるが、それらの技を使った後のガゼフは一層息を切らすなど体力の大幅な減少が見て取れた。

 

この世界特有のスキルは発動する代わりに体力か何かを一定量消費する必要があるかも知れない。ユグドラシルにも体力などを減少する代わりに強力な効果を持つスキルは存在する。だが、基本は回数制限はあってもそうはならない。

 

 

「スキルの劣化版と言ったところか」

 

 

だがその中で驚いたのが4方向同時の斬撃攻撃だ。あれはユグドラシルでもモモンガの知識の中にはない技だ。あのスキル劣化版もユグドラシルの基準で考えるのは控えるべきだろう。『タレント』という例もある。場合によってはモモンガを瞬殺できるチート級もあるかもしれない。

 

そうこうしている内にとうとうガゼフが片膝を地面に付けてしまった。やはり体力消耗のデメリットがあったのか、疲労困憊で立つことすらままならない。

 

隊長が召喚した監視の権天使がゆっくりとガゼフに近づいて行く。

 

今のガゼフにアレとやり合う体力は無いだろう。まさに絶体絶命だ。しかしー

 

 

(いや……あの瞳は)

 

 

血だらけで剣を振るう力も無い…完全に追い詰められているにも関わらず、ガゼフの目は死んでいなかった。あの時と変わらない強い意志を宿した瞳をしている。

 

彼は死など微塵も恐れていなかった。

 

その瞳にあの白銀の聖騎士……たっち・みーの姿が完全に重なった。

 

 

「憧れるよ…本当に。」

 

 

そんな彼に対し例の集団…恐らく陽光聖典の隊長は小馬鹿にした様な下卑た笑みを向けながら何かを話している。多分だが彼に対し嘲笑した言葉でも吐きかけたのだろう。

 

 

(……コイツ腹立つな。)

 

 

死を覚悟しながらも強い意志と誰かを救いたいという思いを持って戦い続ける彼に対する彼の態度は非常に許し難い。

 

そろそろ本格的にガゼフがピンチなのでモモンガは魔法を発動させて彼と監視の権天使の間に入った。

 

すると丁度いいタイミングで振り下ろされた監視の権天使のメイスを間に突如として現れたモモンガが片手で難なく受け止めた。

 

 

「なに!?」

 

 

驚愕の声を上げる隊長、自分が現れた事で安堵の表情を浮かべるガゼフ…そして、モモンガはー

 

 

(び、ビックリしたぁ〜〜!!)

 

 

転移したら直ぐ頭上にメイスが迫って来ているとは思ってもみなかった為、内心かなり驚いていた。だが、本人の気持ちとは裏腹に彼の登場は非常にベストタイミングだったのは間違いなかった。

 

 

「さて……覚悟はいいか?」

 

 

モモンガは自分の声が震えていない事を祈りながら呟いた。

 

ーーーーーーーー

「い、一体…なにが起きたのだ?」

 

 

スレイン法国特殊部隊六色聖典が一角、陽光聖典の隊長ニグン・グリット・ルーインは困惑していた。あと一歩のところで追い詰めたガゼフを仕留めようとした瞬間、突如として現れた漆黒の全身鎧を纏った騎士にトドメの一撃を防がれてしまった。

 

あの漆黒の騎士がどうやって現れたのかも気になるが、一番不可解なのが第4位階の召喚天使である監視の権天使の一撃を片手で防いだと言う事実だ。

 

並大抵の戦士が片手一本で受け止めるなど不可能だ。

 

 

「くっ!何者か知らぬが…奇跡が2度も続くと思うな!奴を始末せよ、監視の権天使よ!!」

 

 

ニグンは空かずあの騎士に追撃を加えるよう自身の召喚天使に命令を下す。しかし、監視の権天使は動かない。どういう事だと眉を顰めてると漆黒の騎士は掴んでいたメイスを思い切り引き寄せた。あまりの膂力に引っ張られた監視の権天使を漆黒の騎士は背中に備えた2本のグレートソードの内の1本を抜き取り、それを監視の権天使目掛けて振り下ろした。

 

 

「はぁ!!」

 

 

いとも容易く真っ二つにされた監視の権天使は光の粒子となって霧散した。

 

その光景をニグンと陽光聖典の隊員達はただ唖然と見つめる事しか出来なかった。

 

 

「あり、えない…だろ…」

 

 

ガゼフも身体の傷の事など忘れて、モモンガの常軌を逸したその強さを目の当たりにしてただ驚愕していた。

 

 

「モモンガ殿…やはり貴方は…」

 

 

モモンガは懐から中規模の袋をガゼフに放り投げた。

 

 

「ストロノーフ殿。その袋の中にはポーションが入ってます。貴方と貴方の部下も含めて全員分あります。飲むなり掛けるなどして傷を治してあげて下さい。皆、まだ息はあります。」

 

「ッ!?なんと……かたじけない!!」

 

 

ガゼフはポーションの入った袋を持って倒れている部下達の元へとふらつく足取りで向かって行った。

 

 

「な!?お、追え!ガゼフ・ストロノーフを逃すな!!」

 

 

思考が戻ったニグンがすぐに部下達へガゼフに攻撃を仕掛けるよう指示を送る。2体のアークエンジェルフレイムが炎を纏う剣を構えて襲い掛かるが、それもモモンガが割って入ると2体とも一振りで上半身と下半身に分断させて消滅した。

 

 

「馬鹿な!!一体どうやって…!?」

 

 

またも瞬時に移動した漆黒の騎士にニグンは思わず悪態を付く。隊員達もいきなり現れた強者に酷く困惑していた。そこへモモンガが扇状に広がるグレートソードの剣先をニグン達へ向けた。

 

 

「どうした…こんなものか?『陽光聖典』」

 

「ッ!?貴様…そうか、貴様が!」

 

 

ニグンは昨晩の出来事を思い出した。ガゼフを誘き出すため、帝国騎士に扮した偽装部隊が次の目標であるカルネ村で消息不明となった。運良くガゼフがカルネ村に向かって行くのを確認出来た為、作戦はそのまま遂行出来たがこれによって偽装部隊との連絡が取れなくなった原因がガゼフではないと言う結論に至った。

 

では何者が偽装部隊を?…となるのだが、あの村にそれほどの実力者がいると言う情報は無かった。だが、あの漆黒の騎士の言葉でその原因が分かった。

 

 

(アイツが偽装部隊を……!なるほど、これほどまでの実力者なら連中を全員仕留めるなど造作も無いという事か。)

 

 

しかし、とニグンは薄ら笑みを浮かべた。その手が彼の懐にゆっくりと入っていく。

 

 

(此方にはまだ切り札がある!…コレを使うことは無いと思っていたが、こうなっては致し方あるまい。)

 

 

まだ任務遂行と勝利を信じていたニグンは手を突き出して部下に命令を下した。

 

 

「全天使で攻撃を仕掛けろ!!」

 

 

ニグンの指示とほぼ同時に隊員達が自身の召喚したアークエンジェルフレイムを一斉にモモンガへ向けて突撃させた。ニグンはその間、切札発動の準備に取り掛かる。

 

一方モモンガはグレートソードを地面に下げて全方位から襲ってくる天使達を呑気に眺めていた。その姿をニグンは対処しきれない数に呆然としていると受け止め、勝利を確信した。

 

だが、実際はー

 

 

(へぇ〜〜、低位の天使と言えどここまでの数を揃えると壮観な眺めだなぁ)

 

 

無数の天使が飛んで向かってくる光景を見て呑気に感動していた。そして、天使達が持つ炎の剣が襲い掛かる瞬間、モモンガは魔法を発動させた。

 

 

「《負の爆裂(ネガティブ・バースト)》」

 

 

モモンガを中心に光が反転した様な黒い光の波動が一気に周囲を飲み尽くした。すると、何十体もいたアークエンジェルフレイムは1体も残さずに消滅した。

 

 

(な、なにが起きたと言うのだぁぁ!!??)

 

 

突如、アークエンジェルフレイム達が消滅した事にただただ驚愕する事しか出来なかった。隊員達は未だかつて無い強者に恐怖に駆られていた。ガタガタと身体が震えている。だが、ニグンにはまだ心に余裕があった。

 

切札を発動させる為の準備が整ったのだ。

 

 

「フハハハハ!!これで貴様は終わりだ!!最高位天使を召喚する!!」

 

 

高らかな笑いと共にニグンは懐から水晶の塊を取り出すと空に掲げた。

 

この瞬間、モモンガの警戒が最高レベルにまで跳ね上がった。

 

 

(アレは『魔封じの水晶』!ユグドラシルのアイテムを持っているだと!?アレは魔法を封じ込める事で一度のみ使用できるマジックアイテム。最高位天使を召喚するとか言っていたが…まさか熾天使(セラフィム)クラスか!?)

 

 

もしそうなると非常に不味い。相性的にはアンデッドであるオーバーロードよりマシだが、今の人化状態のモモンガはレベル86。熾天使はレベル90と非常に高く、人化状態のモモンガでは熾天使の種類によっては勝ち目がない。例えカンストレベルのオーバーロードに戻ったしても相性的な問題も含めて全力で相手をする必要がある。

 

 

(覚悟を決める必要があるか)

 

 

モモンガは人化の指輪を軽く撫でた。

これを外せば勝機はあるが、同時に色々と失う事にもなるだろう。

 

 

(まぁ…人生は長いんだ。また新しい居場所を見つけよう…あ、アンデッド生か。)

 

 

ニグンが掲げる魔封じの水晶が一層輝きを増す。

 

 

「見よ!最高位天使の尊き姿を!!威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!!」

 

「……は?」

 

 

思わず間の抜けた声が漏れ出てしまった。

 

蒼白い光と降り注ぐ中現れたのは光り輝く翼の集合体。両の手で笏を持っているが、それ以外の頭や足などは一切無い。異様な姿だがその神々しさがアレが神聖なる存在であると示していた。

 

その美しくも神々しい天使の出現に、陽光聖典の隊員達はその威光に感嘆し、ガゼフ達は思わず息を飲んだ。だが、ガゼフは直ぐに渡されたポーションを使い部下達の治癒を再開した。

 

ガゼフは気付いていた。

今の自分ではあの大天使を相手にどうする事もできない事に。

 

一方、モモンガは異常に警戒していた自分が馬鹿らしく思えていた。てっきり熾天使が現れるものだと思っていたのに、出て来たのはまさかの第7位階の主天使である。

 

拍子抜けもいいとこだ。

 

 

「魔封じの水晶に第7位階って…なんつー無駄遣い」

 

 

しかし、ユグドラシルのアイテムが出てきたのには驚いた。スレイン法国はどうやらプレイヤーが関わっている可能性がある。

 

 

(要警戒だな…法国は)

 

 

そうなことを考えている内にニグンは主天使に命令を下そうとしていた。

 

 

「食らうがいい!!人では決して届かぬ第7位階魔法!!魔神すら消滅させる神の御技を!!」

 

 

主天使が両の手に持っていた笏が光の粒子へと分解、主天使の周囲をリング状に周り始めた。

 

 

(第7位階魔法の《聖なる極撃(ホーリー・スマイト)》だろどうせ。まぁでも、『上位魔法無効化Ⅲ』を貫通する攻撃だからダメージは入るな。さてさてこの世界で受けるダメージはどんな感じかなぁ〜…あ、なんか緊張して来た。)

 

「《聖なる極撃(ホーリー・スマイト)》を放て!!」

 

(やっぱりね…)

 

 

天空から清浄な蒼白い光の柱がモモンガ目掛けて降り注いで来た。聖なる光の攻撃に包まれたモモンガを見て、ニグンと彼の部下たちは全員勝利を確信した。

 

 

「確かに貴様は中々の強者だった。だがしかし!最高位天使の前では流石に歯が立たなかったようだなぁ!!ハーッハッハッハッ!!」

 

「もう終わりか?」

 

「ハッハッハッハッ……は?」

 

 

光の柱が消えたらそこには何も残らないのが普通だ。しかし、あの男は平然と立っている。その現実にニグンを始め、陽光聖典の隊員達全員がその事実を信じられず、困惑と恐怖が全身を徐々に蝕んでいく。

 

モモンガとしてはもう少しダメージを覚悟していたのだが、人化の影響か思った以上に種族相性によるダメージの増加は無かった。

 

 

(チクッとはした…うん)

 

 

なんか予防接種的な…ショボいダメージだった。

落胆気味に陽光聖典の連中を見渡すと皆が絶望に打ち拉がれたており、殆どが戦意喪失していた。

 

 

ピシィッ!!

 

 

「ん?」

 

 

見上げると空の一部にヒビが入っている。どうやら対情報魔法の攻性防壁が作動した様だ。つまり何者かが此方を監視魔法で覗き見ようとしていたわけだ。

 

 

(益々油断ならないな。こりゃあもう少し強力な情報魔法対策を練る必要がある)

 

 

恐らくだが法国に関わる連中だろう。ニグンがそう仕向けたか、はたまた意図せぬ内に本国が動いたか…どちらにせよモモンガの法国に対する好感度は現在進行形で急降下だ。

 

 

「さて…もう終わりかな?それでは…《暗黒孔(ブラックホール)》」

 

 

主天使の目の前に小さな黒点が浮かんだ。それはみるみる巨大な孔へと変貌し遂には主天使を飲み込んでしまった。

 

 

「あ、ありえ、ない…」

 

 

両膝を地面に付けて座り込んだニグンは目を見開いて主天使がいた空間を見つめていた。とても現実として受け入れられない現象が目の前で起きた事に酷くショックを受けていた。

 

あれほどまでに神々しい圧倒的存在をたった一つの魔法で消滅させたモモンガをガゼフはただ愕然と眺める事しか出来なかった。

 

 

「それじゃあ…仕上げといくか?」

 

 

モモンガは両手にグレートソードを抜き取るとニグン達へと近づいていく。そのゆったりとした足取りが彼らの恐怖心を更に煽りだす。

 

 

「ふ、《火球(ファイヤーボール)》!」

 

「《正義の鉄槌(アイアンハンマー・オブ・ライチャネス)》!」

 

「《緑玉の石棺(エメラルド・サルコファガス)》!」

 

「《混乱(コンフュージョン)》!」

 

「《石筍の突撃(チャージ・オブ・スタラグマイト)》!」

 

「《人間種魅了(チャーム・パーソン)》!」

 

「《恐怖(フィアー)》!」

 

「《(ポイズン)》!」

 

「《束縛(ホールド)》!」

 

「《呪詛(ワード・オブ・カース)》!」

 

「《電撃(ライトニング)》!」

 

「《水球(ウォーターボール)》!」

 

「《酸の矢(アシッド・アロー)》!」

 

「《氷球(アイスボール)》!」

 

 

あまりの恐怖感と絶望から追い詰められた隊員達は、迫り来るモモンガに対し無我夢中で魔法を放ち続けた。しかし残念、モモンガには『上位魔法無効化Ⅲ』と言う『第6位階以下の魔法無効化』という常時発動型スキルを会得している。その為、第6位階以下の魔法しか扱えない陽光聖典では全く歯が立たない。

 

 

「おぉ…綺麗だ」

 

 

しかし、数十にも及ぶ様々な属性の魔法陣が翳した手から現れる光景は、魔法攻撃を受ける側としては中々綺麗なものだった。が、今はそんな事に感心している場合ではない。

 

 

「君たちには個人的にも色々と聞きたいことがあるんだが、とりあえず全員…」

 

 

そう言うとモモンガは両の手に持つグレートソードの『腹』の部分を見せる様にくるりと大剣を回す。

 

 

「無力化させてもらう。」

 

 

モモンガが大地を蹴ると瞬く間に隊員達のど真ん中へ移動し、隊長であるニグンの脳天目掛けて剣腹を叩き付けた。

 

 

「ぶっ!?」

 

 

全く反応出来なかったニグンは突然脳天に強烈な衝撃を受けたとしか認知出来ず、そのまま意識を失った。瞬く間に隊長が倒されたのを目撃した隊員達はクモの子を散らす様に逃げ始めた。それでも容赦なくモモンガは高レベル持ち前の膂力を活かして1人また1人と剣腹を脳天に叩きつける。

 

陽光聖典全員を気絶させるのに1分も掛からなかった。

 

本来ならここで斬り伏せたい所なのだが、ガゼフ達の面子を立たせる為にも、ここは生け捕りにしてキチンと法の元で裁いて貰うつもりだ。

 

ガゼフ達の方を振り返ればポーションが間に合ったらしく、皆大丈夫そうだ。何故か皆呆けた様な顔を向けているが、恐らく病み上がりで思考が追いついていないのだろう。

 

モモンガは気絶した陽光聖典の隊員達全員を連れてカルネ村へと引き返した。

 

 

ーーーーーー

翌日、ガゼフのその部下達は明朝に村を出て王都に帰還する事となった。モモンガは別れの最後までガゼフに感謝の言葉を言われ続けていたが、やましい事など微塵もない素直な気持ちであった為、純粋に嬉しく思えた。

 

ガゼフとも話していく内に友人関係を築くことも出来た。彼は今回の件、自らの名誉に賭けて王に報告してその働きに見合った報酬を贈ると約束してくれた。本当に気持ちだけで十分なのだが、それでは彼の気が済まないのは明白でモモンガは素直に了承した。

 

また、戦士長の役職に関係なく1人の友人として、是非王都にある我が家へ訪れて欲しいとも言ってくれた。これは本当に嬉しい。まるで憧れのあの人と本当の意味で友人になれた気がした。しかし、彼はガゼフ・ストロノーフであって、あの人…たっち・みーではない。これはガゼフに対してあまりにも失礼だ。

 

モモンガは直ぐにその感情を振り払い。純粋にガゼフという新たな友人が出来た事に心から感謝した。

 

モモンガが捕縛した帝国騎士に扮した偽装部隊と陽光聖典達は残らず引っ捕らえてある上、モモンガの強力な睡眠魔法で眠らせてある。少なくとも目的地まで起きることはないだろう。しかし、連れて行くとなると彼らを運ぶ手段が問題になった。数人ならともかくこれだけの大人数となると流石に厳しい。

 

そこでモモンガはエ・ランテルへ運ぶ予定だったGBL(ギガント・バジリスク・ロード)を乗せる大型荷車をガゼフ達にあげる事にした。勿論、木製の檻をつけるなどのオプションもおまけしておく。彼らは最初、通常の荷車の何倍もの大きさを見て「一体何を運ぶつもりだったのか?」と言われたが「色んな物」と誤魔化すことにした。あの出来事に加えてGBLも見せるとなれば体は兎も角心労でガゼフが倒れそうだ。

 

色んな意味でドキドキしながらも彼らはモモンガから貰った荷車をありがたく使う事にした。だいたい馬20頭で問題なく荷車は引けた。

 

さて、そうなるとGBLを運ぶための荷車をまた作り直さなければならないので急いで作り直す事にした。村人達は「モモンガ様は村の英雄だ!」とか騒いでいるが、そろそろ本格的に旅にも出なければならないので宴は一晩だけ付き合わせて頂きました楽しかったですハイ。

 

そして、3日後…モモンガはエンリを始め多くの村人達に見送られながらGBLを乗せた荷車と共に素材換金の為、エ・ランテルへと出発した。大の大人達も何人か、子供達に至っては全員がギャン泣きしている。《転移門》を使えばいつでも戻って来れるのだがそれを知っているのはエンリだけなので仕方ない。

 

荷車を引くのは『動物の像・戦闘馬(スタチュー・オブ・アニマルウォーホース)』3体で、乗せているGBLは隠密効果のある大きいマントで覆う事で目立たなくした。

 

 

「この世界に来て最初の大都市(?)か…フフフ!楽しみだな!!」

 

 

一体どんな出会いや発見が待ってるのか、想像するだけでワクワクしてくる。モモンガは期待と浪漫を胸にまったりゆっくりとした旅路へと着いた。

 

 

 

 

ーーーーーーー

エ・ランテルに向かってから2日が経過した。道中積荷を狙った盗賊がいたのだが同伴していたデスシーフ達によって遭遇する前に撃退した為、平穏な日々を過ごす事が出来た。

 

しかし、つい先ほどの出来事なのだがそこでモモンガにとっては死活問題とも取れる大問題が発生してしまう。

 

 

「不味い……非常に不味い」

 

 

荷馬車の上で腕を組んで座っていたモモンガはかなり悩んでいた。彼は左手小指に嵌められた指輪…『淫夢魔の呪印』へ視線を向ける。

 

何と妖しく光る紫の光のメーターが2/3以上にまで迫っていたのだ。

 

数日前、村で行われた宴の際、俺の傍にはエンリが常にいた。やはり彼女が近くに居るだけで指輪を着けていても徐々にその気になってくる。エンリもそう思っているらしく明らかに誘っている視線を向けてくるのだが、エンリの他にも村人達からの絡みが多かった為、途中で抜け出してといった隙がなかったのだ。

 

他の村娘達があからさまに擦り寄る事も少なくなかったが、不思議とその気にはならなかった。だがエンリが来ると滾ってくる。「コレはまさか」と考えるが、それ以上にヤりたいけどヤれないという悶々とした時間ではまともに考える事は出来ずに夜を明かした。

 

まぁここまでは良い。

問題はこの後だ。

 

エ・ランテルへ向かう道中、モモンガは《転移門》を使い、こっそりのエンリの元へ訪れに行った。まだ2日しか経過してないのにエンリは胸に飛び込んで来た。

 

互いに熱く強い抱擁をした。

 

モモンガとしてはそのまま人気のない(自分の拠点)へ彼女を連れて行きたかったが、ここで予想外の事が起きた。

 

 

「ご、ごめんなさい…!」

 

 

何と彼女から「NO」が言い渡されたのだ。

彼女は下半身をモジモジしている為、その気がある事は間違い無いのに拒否されたモモンガはそこそこショックを受けた。

 

その理由を聞くと、今はある作物の収穫時期らしいのだがこれは長年目利きのある者が収穫する必要があるらしく、エンリもそのうちの1人らしいのだ。結構いい値段で売れる分、半端な物を収穫するワケにはいかない。

 

彼女の言う通りならばドッペルゲンガー達を代わりにというワケにはいかない。後で判明した事だがドッペルゲンガー達があの時2人の代わりを務めることが出来たのは単純な農作業だったからで、エンリの言うような作業まで真似る事は出来ない。

 

代えが効かない為、ここはどうしてもエンリがやるしかない。彼女だって我慢しているのだから俺も我慢しなくてはならない。

 

そもそもエンリが居ない生活で欲情する事はないのだが…

 

 

(エンリ以外の女性が寄って来ても情欲は湧かない。つまり指輪の効果は正常に機能している。)

 

 

そう考えると、指輪を着けても彼女に欲情するのは、あの時の影響を受けたからではないだろうか。影響を受けた異性に対する情欲のストック効果は半減で、それ以外の異性には通常通りに作用する。

 

 

(そう考えると納得は出来るな……でも影響を受けたらその女性もエンリと同じように、指輪を着けていても……って事になるだろう。)

 

 

それは不味い。

エンリに対する裏切り…浮気になるのではないだろうか?

 

 

(たっちさんも言ってたなぁ。社会の付き合いで上の人と飲みに行ったらその先がキャバクラで、それが奥さんにバレて修羅場になったって。)

 

 

あの時のたっちさんの声はかなりヤツれていた。最悪自分もそうなるのではとかなり焦っている。

 

指輪の暴走を前もって防ぐなら、指輪を着けた状態で行為に及べばメーターは減少する。だが、指輪を着けたままで発情出来る相手はエンリのみ。つまり、定期的にエンリと行為に及ぶ必要があるのだ。

 

 

(でもそれって…何か作業みたいでイヤなんだよなぁ。相手の事情を汲み取りつつ、ヤリたい時にヤル、それがベスト。)

 

 

だが彼女の所へ行っても今は農家として大事な時期だ。邪魔をするわけにはいかない。でも、情欲暴走メーターは溜まる一方だ。

 

 

(何とか…なんとかコレを解決する方法を見つけなければ!!早くしないとエ・ランテルにーー)

 

 

ーーーー

更に2日後、モモンガはエ・ランテルに着いちゃいました。




アンケートの結果…レェヴン侯の奥様は脱落となりました。

次のアンケートもご協力よろしくお願いします。

蒼の薔薇が相手(意味深)なら誰にするべきか?

  • ラキュース 清純な貴族令嬢
  • ティア レズビアンだけど…
  • ティナ ショタコンだけど…
  • イビルアイ 合法ロリ
  • ガガーラン 非童貞だけど…

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