検証「安倍政治」 社会保障の将来 「痛み」の分かち合いを

2020年9月9日 07時19分
 「最後の一人まで記録をチェックして年金を支払う」
 第一次政権の二〇〇七年、約五千万件の年金記録の持ち主が分からない「宙に浮いた年金記録」問題が発覚、直後の参院選で安倍晋三首相はこう訴えたが惨敗した。
 年金記録はその後、約二千万件の持ち主が分からぬまま幕引きとなった。手痛い経験をした以降、政権の社会保障改革は一貫して踏み込み不足に見える。
 年金や医療、介護、子育て支援、貧困対策などの社会保障は国民が困難に直面した時に人生を支える大切な制度だ。
 しかし、少子高齢化が進み制度の支え手が減る一方、給付を受ける高齢者が増える社会となった。制度をどう維持していくのかが最大の課題になっている。
 取り組むべき課題は二つある。
 一つは社会や制度の支え手を増やす少子化対策や人材の活躍推進である。第二次政権では待機児童ゼロ、女性の活躍、介護離職ゼロ、幼児教育・保育の無償化などの看板政策を次々と打ち出した。
 政策の方向は理解できるが、結果は厳しい。
 待機児童数は減ってはいるが、目標達成には遠い。昨年の出生数は八十六万人台まで落ち込み、将来世代の減少は止められないでいる。少子化対策は効果に疑問符がつき、根本的な見直し議論が不可欠だが、その動きは鈍い。
 介護を理由に離職する人はほぼ横ばいのままだ。「女性の活躍」も「二〇年までに指導的地位に女性が占める割合を30%に」との政府目標は先送りが決まった。
 腰を据えて取り組んだとは言えまい。新政権はまず、こうした政策の総括をすべきだ。
 二つ目は負担増や給付減といった「痛み」の分配である。自民、公明、旧民主の三党が進めた「社会保障と税の一体改革」で消費税率を上げて財源を確保し制度の強化に充ててきた。
 だが、さらに高齢化が進む二十年後の社会保障費用は、今より一・六倍に膨らみ財源不足は深刻化する。困難な課題だが、先を見据えた財源確保策や給付のあり方の議論は避けて通れない。
 安倍政権は負担と給付の抜本的な見直しに向き合わず国民の理解を得る努力をしないまま終わる。
 コロナ禍は経済活動を停滞させ税収や雇用情勢を悪化させる。将来不安から出生数もさらに減る懸念がある。新政権は二つの課題から逃げるべきではない。  

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