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 こじれた沖縄と本土との関係を解きほぐし、県民の間におりのようにたまった不信の解消にとり組む。次の首相はその課題に全力を傾けるべきだ。

 安倍政権は、選挙や県民投票によって繰り返し示された沖縄の民意を一顧だにせず、辺野古の埋め立てを強行してきた。

 だが隠蔽(いんぺい)していた海底の軟弱地盤の存在が明らかになり、国の試算でも工事の完了までに12年、総工費も9300億円もの巨額に膨らむことがわかった。

 本来の目的だった「普天間の早期返還」が不可能になったにもかかわらず、「辺野古が唯一の解決策」と唱え続けた政権が退場する。後を継ぐ内閣がやるべきことは明らかだ。

 思考停止状態から抜け出し、すみやかに工事をとめて県と真摯(しんし)に話し合う。米国にも協議を求め、普天間飛行場を使った訓練の分散・移転や日米地位協定の改正を進める――。

 この秋を、沖縄政策を見直す機会としなければならない。住民の「敵意」に囲まれた基地を維持・強化しても安全保障の実はあがらない。その認識を米側と共有する必要がある。

 総裁選に名乗りをあげた菅義偉氏は官房長官岸田文雄氏は外相、石破茂氏は党幹事長などとして、時期や濃淡の差はあれ辺野古問題に関わってきた。その帰結が現在の抜き差しならぬ状態であると自覚し、これまでの総括と今後のビジョンを明確に語ってもらいたい。

 政策自体の当否とあわせ、それを進めるために政府がとってきた手法も問われている。

 安倍政権は、辺野古移設に反対する翁長雄志氏が14年に知事になると、沖縄振興予算の中で使途の自由度の高い「一括交付金」を毎年減額。一方で、県を通さずに市町村や企業に国から直接予算を出す「特定事業推進費」を新設した。カネが欲しければ国の意向に従えという露骨なやり方で、県民の間に深刻な分断をもたらした。

 米軍北部訓練場内のヘリパッド移設工事をめぐっても、全国から機動隊を動員して反対運動を抑え込んだ。移設後に訓練場の約半分が返還されると、菅氏は成果をアピールしたが、要は県内で基地のたらい回しをしただけだ。現地は騒音などの新たな被害に苦しんでいる。

 かつての首相や自民党幹部の多くは、沖縄の苦難の歴史に思いを寄せ、地元の首長らと意見を交わし、互いの理解を深めることに精力も時間も注いだ。

 誰が次の総裁・首相になるにせよ、その姿勢を取り戻さなければ、沖縄と本土の間の溝は深まるばかりだ。アメとムチを駆使しても問題は解決しない。安倍政権は重い教訓を残した。

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