台風10号の教訓 早めの避難が命を救う

2020年9月8日 07時43分
 「伊勢湾台風並み」と言われた台風10号が九州を襲った。気象庁は「特別警報級の台風」と繰り返し呼び掛け、早めの避難につなげた。常態化・凶暴化する自然災害への心の備えは十分にしたい。
 長崎市で最大瞬間風速五九・四メートル、宮崎県美郷町で二十四時間雨量五二二・五ミリ−。台風10号は六日夜から七日にかけて、九州などを暴風雨で襲った。
 気象庁は早めに動いた。最初に10号の記者会見を開いたのは接近四日前の二日。その後一日に一〜二回のペースで「特別警報級(中心気圧九三〇ヘクトパスカル以下か最大風速五〇メートル以上)の勢力にまで発達する」と繰り返した。
 避難の出足も早かった。鹿児島県の離島では四日、島民七百人弱のうち高齢者ら約二百人をヘリで鹿児島市内に避難させた。熊本県人吉市は六日朝、七月豪雨で避難中の住民を六十キロ離れた熊本市の県立劇場までバスで移し「二次被災」を防ぐ広域避難を行った。
 各市町村の避難所は、コロナ対策で収容人員を大幅に制限したため、満員になる施設も出た。入れなかった人は他市町村の避難所へ回ったり、ホテルや旅館の部屋を避難場所にしたりした。大災害が予想される際に避難所を十分に確保することは、今後の課題だ。
 七日朝の段階で、自治体が速やかな避難を求める「避難指示」は、九州の七県で二百万人弱を対象に出された。行政が把握している避難所へ入った人は、その十分の一だったが、宿泊施設や知人・親類宅へ移ったり、自宅上階へ“垂直避難”したりした人も多かったとみられる。
 実際には、10号の勢力は接近の直前にやや衰え、特別警報は発表されなかったものの、気象庁の再三の警告は、自治体担当者や住民に、避難への意識を高める効果は大きかっただろう。
 台風は、本州の南沖の海水温が二七度を超すと強くなりやすい。例えば、「四国・東海沖」の八月の平均は二九度以上。今後の台風の進路が東寄りになれば、他地域にも「10号並み」が来るおそれがある。今回、台風から遠かった地域も、大雨や強風に見舞われた。日本列島にあっては、どの自然災害もよそ事ではない。
 六十一年前の伊勢湾台風では、五千人以上の犠牲者の多くは避難情報を知ることなく高潮にのまれた。今はメディアやスマホで台風の最新情報を得られる。行政の呼び掛けに即応して「避難行動」を起こす決断を大切にしたい。

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