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クラス「無職」になってしまい公爵家を追放された俺だが、実は殴っただけでスキルを獲得できることがわかり、大陸一の英雄に上り詰める。 作者:アマカワ・リーチ
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54.反逆



 王宮の牢獄。


 厳重に警備されたその場所に、元東方騎士団長オスカー・ランドルベンは収容されていた。

 すでに有罪の判決を下され、数日内に鉱山へ護送される予定だった。


 ――ランドルベンは諦めの境地に達していた。


 腕には自分では外すことができない腕輪。全てのスキルを無効化する。

 これがあるかぎり、オスカーはただの初老の男だ。

 これまで騎士として積み上げてきたものは全て失った。

 もう人生に希望などなかった。


 だが、そんな彼の元に声が聞こえてくる。


「――ランドルベン」


 牢獄に響く低い声。

 見ると、格子の先に一人の男が立っていた。


 ――旧知の官僚だった。

 同じウェルズリー公爵一派だ。


「どうしたんだ。面会許可が降りるとは思わなかったが」


 ランドルベンが言うと、官僚は笑みを浮かべる。


「金で買えないものはないさ。だが、時間はあまりない。大事なことを手短に話すぞ」


「大事なこと?」


「この牢獄は、俺が憲兵部にいた時に作ったんだ。いざという時のために、抜け道を作ってある」


 そのことにランドルベンは驚かなかった。自分も含めて仲間たちは、その程度の“悪事”ならよくやっているからだ。


「俺に逃げろって言うのか」


「ああ、そうだ」


「逃げたところでどうしようもない。一生追われ続けて、戸籍のない貧民として暮らすのが落ちだ」


「いや、それがそうとも言えんのさ。全てをひっくり返す方法がただ一つだけある」


「全てをひっくり返す、だと?」


「ウェルズリー隊長がイリス王女の暗殺を企てている。それが成功すれば、俺たちの一派は一気に復活、いや前以上の権力を得られる」


「……なんだと!? そんなことできるはずがない」


「――イリス王女を殺して、カミラ王女様に取り入るんだよ」


 まさしく大逆。

 そんなこと、考えたというだけで殺されてしまうような罪だ。


「どうだ、お前の力を貸してくれるか?」


 旧友の問いかけに、ランドルベンは静かに頷いたのだった。 


 全てを諦めていたランドルベンの目に闘志が宿る。

 ――どんなことをしてでも、頂点を極めようとした、あの頃の目と同じだった。


 †


 クラン辺境伯領への旅程もちょうど半分の所に来た。


 たった今たどり着いたラズベの城で、一行はここに一日滞在する予定だった。


「……イリス王女様。お待ちしておりました。さぁさぁどうぞ……」


 城主が一行を迎え入れてくれる。


 城は決して大規模なものではなかったが、最低限の警備もあり、街の宿に泊まるよりはるかに安全そうに見えた。



「王女様にはこちらの部屋を用意いたしました。騎士殿にはこちらのお部屋を」



 リートたちは建物最上階のワンフロアに通される。

 流石に護衛といえど、同じ部屋で、と言うわけにはもちろんいかないので、三人の騎士が王女の部屋を取り囲むようにして部屋を与えられていた。


「それではごゆっくりと……」


 城主が下がったので、ウルス中隊長は、イリスを部屋の中に入れ、残った騎士に指示を出す。


「リートは右の部屋、ラーグは左の部屋。それから警備隊長は自分の隊上下のフロアに分けて見張りをしてくれ」


「承知しました」


 †


 城主に招かれ夕食を共にした後、一行はそれぞれの部屋に戻る。


「アイラ、厨房から菓子パンをもらって来たぞ〜」


 部屋で待っていたアイラに、リートは土産を持ってきた。

 流石にクロワッサンには劣るが、甘いパンはアイラの好物の一つであった。


「きゅるー」


 アイラは翼をぱたつかせてリートの元まで飛んでくると、小さい前足でパンを受け取り、かじりついた。

 その様子を見ていると、とても近々大龍に変身するとは思えなかった。


「お前、本当に“変身”できるようになるのか?」


 リートは笑いながら聞くと、アイラは持っていたパンを突き出して頷いた。

 これを食べれば、できるようになる、とでも言いたげである。


「まぁ、可愛いからいいか」


 リートが頭を撫でると、アイラは嬉しそうに目を細めた。


 ――だが、そんな時だった。


 突然、アイラが目を見開いたのだ。


「ん、どうした?」


「りゅー……」


 アイラは部屋の床を見つめる。


「何かあるのか?」


「りゅー」


 どうやら答えはYESらしい。

 床――いや、下のフロア?


 と、アイラの視線がだんだん上がってくる。


 リートは注意深く耳をすます。


 ――部屋の外からは聞こえてくるのは、ほんのわずかだが――階段を登ってくる音だ。


 使用人か、それとも警備隊の衛兵か。


 ――いや。


 ドラゴンは人間より敏感な感覚を持っているらしい。

 それは耳がいいとか、そう言う話ではなく、物事の良し悪しを判断する直感の話だ。


 そしてアイラが感じているのは、どうも“不安”だとリートは判断した。


「アイラ、部屋で待ってろ」


 リートは剣を取り、部屋を出る。


 廊下に出て、隣のイリスの部屋を見ると――扉が開きっぱなしになっていた。


 嫌な予感を感じた。


 リートはすぐさま駆け出して、部屋を覗き込む――


「“フォトン・ボール”!」


 次の瞬間、閃光が部屋の中に広がった。


 放たれた波動がイリスを壁まで吹き飛ばす。


「イリス様!!!」


 壁に叩きつけられ、そのまま気を失うイリス。

 ――幸い、加護の結界が破られただけで大きな傷はないように見えたが――――


「なんだ、ちゃんと殿下を守っていなきゃだめじゃないか」


 イリスの部屋に入り込み、魔法を放った人物。

 黒い仮面を被っており、ひと目で正体はわからない。


 だが、リートには立ち振る舞いでわかった。



「――――父上ッ!」



 その反逆者の名前は――ウェルズリー公爵だった。


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