44.毒を飲んでも
――二週間はあっという間に流れ、小隊長任用試験第二試合が行われる日が来た。
目覚めたシャーロットは、いつも通り軽く稽古をしてから、朝食を食べ、事務所へと向かう。
試合の二時間前に、リートと合流をする約束だった。
「おはようございます!」
待ち合わせ時間ぴったりに事務所についたので、すでにリートは事務所にいると思ったのだが、事務所にいたのはウルスとラーグだけだった。
「ああ、おはよう」
「おはよう」
ウルスとラーグが挨拶を返す。
「あれ、師匠はどちらにいらっしゃいますか?」
シャーロットが聞くと、ウルスは「まだ来ていない」と言う。
そこでシャーロットはおかしいと感じた。
と言うのも、リートはものすごく律儀な男だからだ。
出会ってから一ヶ月以上ほぼ毎日稽古をしてきたのだが、約束の時間に遅れたことは一度もなかった。
それなのに、試合当日の大事な日に、遅刻をするとは。
――まだ時刻を過ぎて1分だが、それでも違和感は大きかった。
そして――その違和感は正しかった。
「……おはようございます」
約束の時間から2分遅れて、リートが事務所に現れた。
シャーロットはよかったと振り返るが……
彼の姿をみて驚いた。
顔は真っ青で、額には大汗。
なんとか立っているが、重心は安定せずフラフラで今にも倒れそうだ。
「し、師匠!」
シャーロットは急いでリートの元へと駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……ああ」
リートはそう答えるが、とても戦えるような状態でないのは誰の目にも明らかだった。
「リート、どうしたんだ!?」
ラーグも慌てて駆け寄る。
「……いや……医者によると……どうやら毒を盛られたらしくて」
「毒だと!?」
「安心してください。死ぬような毒ではないらしいです。ただ意識が朦朧として、体がまともに動かない
「誰が毒なんて……」
その問いに、リートは答えを持っていた。
リートは、毒に対する知識を父から教えられていた。
しかしそれにも関わらず毒を飲んでしまった。
となると――答えは絞れる。
ウェルズリー公爵が、いざという時のために隠していたのだ。
そうでなければ、ピンポイントでリートの知らない毒を盛るなんてことはできっこない。
だが、それを言うことはしなかった。
「解毒は?」
「医者から薬をもらって飲んでいます。でも、すぐには効かないそうです」
息も絶え絶えに話すリートを見て、シャーロットは両手の拳を腕の前で小さく握りしめてリートを見つめた。
「安心してくれ、試合には出る」
リートは、シャーロットに向かってそう言った。
「……この状態でか? いくらなんでも無茶だ」
ウルスはリートに肩を貸しながら言った。
しかし、リートには考えを変える気はなかった。
――自分のためでは、もちろんない。
ここで負けたら、シャーロットが騎士になれない。
自分のせいで、そんなことになるなら死んだほうがましだ。
「朝はもっとひどかったんです。でも大分ましになってきました。多分試合までにはなんとかなります」
「しかし……」
リートは事務所の椅子に、腰を下ろす。
「とにかく……試合には出ます。どうせ家にいたって苦しいのは変わりませんから」
リートはそう宣言する。
もはやそれを否定できる者はいなかった。
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