36.小隊長任用試験
一週間後、治癒士の力で全快したリートは、ようやく王都へと帰ってくる。
何よりもまずは、と預けていたアイラを迎えに行く。
竜飼いのおばちゃんに案内され、アイラがいる部屋に行くと――
――彼女は部屋の隅で首と翼をしゅんとさせて俯いていた。
遠目に悲壮感が伝わってくる。
確かになんの連絡もなく10日近くも迎えにこなければ、捨てられたと思っても無理はないだろう。
……まぁ、ポジティブに考えると、飼い主を忘れているという雰囲気ではないとも言えるか?
「おーい、アイラ?」
リートはなるべく驚かせないように、後ろから声をかける。
「りゅ!?」
リートの声にバッと勢いよく振り返るアイラ。
そしてリートだと確認すると、勢いよく翼を羽ばたかせた。
「りぃぃ!!」
そのまま一直線にリートの胸に飛び込んでくる。
そのまま短い前足と後ろ足と、ついでに翼も一生懸命伸ばして、全身でリートに張り付いてくる。
「ごめんな〜迎えに来れなくて」
「りゅー!」
と、そこでリートがあることに気がつく。
「ちょっと大きくなったか?」
見た目がものすごく変わっているというわけではないのだが、感覚的に大きくなった気がしたのだ。
「そりゃ、あんだけ毎日クロワッサン食べたらね」
おばちゃんが教えてくれる。
「最初の数日はよかったんだよ。でもねぇ、それ以上過ぎてもあんたが戻ってこないから、やけ食いしては、部屋の隅にうずくまって、やけ食いしては部屋の隅にうずくまっての連続よ」
その様子を聞くと、リートは胸が締め付けられた。
「……それは申し訳ない」
「しかし、卵の中で700年主人を探していたってのに、なんで一週間が待てないかね」
おばちゃんが笑いながら言った。
「りぃぃ!」
しかし、アイラはとにかく頰をリートの胸に擦り付けるのに夢中だった。
†
ウルス隊長の元に行くと、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「すまんなリート。東方騎士団が架空の応援依頼を出してきた経緯をつかむことはできなかった」
ウルス隊長は調査結果を教えてくれる。
まず東方騎士団に直接、任務が存在しなかったことを告げ、説明を求めたが、返ってきた回答は「事務手続き上の不備」というだけのものだった。
各所からの討伐の依頼などを集計し各隊に分配する“受注課”の中で、依頼を誤記載したまま近衛騎士団に回してしまったと言うが、その後の経緯は不明とのことだった。
「東方騎士団の知り合いにも事実関係を確認をしたんだが、残念ながら特定には至らなかった。申し訳ない」
「いえ、お手数をおかけしてすみません」
「もちろん、引き続き確認はする。だが……もしお前を狙っている者がいるとしたら、次の小隊長試験は格好の的になりかねない」
「小隊長試験、ですか?」
「ああ。第八位階以上の者が、受けられる試験だ。三週間後に始まる。ちょうど先週、君の受験の推薦状を提出して、承認されたところだ」
小隊長は、概ね第六位階以上のものがつき、複数人でこなす任務の際に現場で部隊をまとめる管理職だと聞いていた。
「試験は、見習い騎士とタッグを組んでの模擬戦だ。小隊長としてのチームプレイが求められる」
見習い騎士は、正規の騎士の弟子となり、実践の中で学ぶことができる制度である。
正規の騎士であれば、見習い騎士を取ることができるが、当然、騎士になったばかりのリートはまだ弟子を取っていない。
「試験のためには見習い騎士を選ぶ必要がある。練習も必要だろうから、急いで選んでくれ。知り合いがいればそれでもいいが、あてがなければ近衛騎士団内部で紹介をしてもらうが、どうする?」
「すみません、騎士志望の知り合いはいないので、可能であれば助けていただけますか?」
「わかった、じゃあ声をかけておく」
「お願いします」
リートはお礼を言う。
その後、仕事の予定を確認すると、今日は割り当てられた任務はないということなので、訓練のために闘技場へ向かうことにした。
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