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ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 作者:篠崎芳
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自己紹介


 大門近くの壁の内側まで来た。

 この壁の向こうは王都の外だ。

 俺は地下水道の入口の方へ足を向けた。

 目的の場所に到着する。

 周りを警戒しつつ俺は格子を外した。

 格子を嵌め直し、中へ足を進める。

 イヴが来なければ大門から出ていく予定だった。

 が、今は目立たないためにここを使う。


「我が主?」


 セラスの声。

 歩きながら蠅のマスクを外す。

 角を折れるとセラスがいた。

 イヴとあの子の姿もある。

 俺は自分の荷物を手に取った。


「悪い、待たせたな」

「いえ」

「ハティ」


 イヴが声をかけてきた。

 俺は手で制す。


「話は、歩きながらだ」


 歩き出したあと、イヴが再び口を開いた。


「先ほどはすまなかった。怒りで我を忘れて、つい……」

「あんた、思ったより気が短いな」

「……面目ない」


 ややあってイヴが尋ねる。


「して、あの女店主は?」

「すべきことをしてきた」

「……そうか」


 今のひと言で察したようだ。


「我は、甘かったのだろうか……」

「かもな」

「…………」

「それより、その子は大丈夫か?」

「あ、ああ」


 隣を歩く少女の頭をイヴが撫でた。


「リズ、自己紹介を」

「は、はい……」


 おずおずと俺とセラスを見る少女。


「リ、リズベットといいます……申し訳ありません、知っている名前はそれだけです。あ……長いので、リズとお呼びください」


「俺はトーカだ」


 不思議そうな顔をするリズ。

 イヴも同じ反応だった。

 今までは偽名で通してたからな。


「ハティは偽名だ。本当の名前は、トーカ・ミモリ」

「そうであったか。用心深いのだな、そなたは」

「まあな……で、そっちの剣士がセラス・アシュレイン。今は精霊の力で外見を変えてる」

「お二人とも、よろしくお願いいたします」


 最後尾のセラスが挨拶した。

 イヴはもうセラスの正体を知っている。

 リズの方は元聖騎士の名にピンときた様子はない。

 セラスに改めて自己紹介したあと、リズが俺の隣にきた。


「トーカ様」


 項垂れたままリズが言った。


「な、なんでもします……ですからどうか、おねえちゃんと一緒にわたしもお供をさせてください……お願い、します」


「……俺がこれから向かうのは危険な場所だ。命を落とすかもしれない。それでもいいなら、連れて行ってやる」


「かまいませんっ……危険な場所だとしても、おねえちゃんと一緒なら……」


「わかった。いいだろう」


 リズが鼻をすする。


「ありがとう、ございます……っ」


 まあ、元より連れて行くつもりだったが。


「…………」


 リズがチラと俺を見上げてきた。


「何か気になるか?」


 リズは合流後から何か違和感を持っていた。

 そのことに俺は気づいていた。


「あ、その……蠅のお姿の時と少しお声が違う気がしたんです……気のせいだったら、すみません……」

「ああ、あの被り物には細工がしてあってな。だから、声が歪んで聞こえたんだろう」


 声を変える魔法の石――”声変石せいへんせき”。

 『禁術大全』に載っていた魔導具。

 買い物の時、運よくモンロイの店で素材が揃った。

 作製はセラスが【スリープ】で寝ている時に宿の部屋で行った。

 今は蠅のマスクの口部分に装着してある。

 MP100ほどの魔素を流し込めば一日くらい効果が持続するようだ。

 当初はセラスの声を変える目的で作るつもりだった。

 が、自分の正体を隠すのにも役立ちそうだ。

 素材の質が上がれば、さらに声を変化させられそうだが……。


 イヴが俺の真後ろまで距離を詰めてきた。


「我も、聞きたいことがあるのだが」


 振り返る。


「なんだ?」

「そなたの身体から奇妙な音がするのだ。水っぽい感じ、とでも言えばいいのか」

「ああ、それはもう一人の仲間だ」

「仲間?」

「あらかじめ断っておくが、危険はない。だから急に斬りかかったりしないでくれよ?」


 俺は立ち止まった。


「セラス、先に行って出口付近の様子を見てきてくれ。俺はこの二人にピギ丸を紹介する」

「かしこまりました」


 セラスが一人で先へ進んでいく。

 俺はイヴとリズの方へ向き直った。


「自己紹介しろ、ピギ丸」

「ピッ」


 ローブの中にいたピギ丸が俺の足元へ落ちる。


 ポヨンッ


 リズが「あっ」と声を出した。


「む……? スライム、か?」

「ピユ?」


 俺をうかがうピギ丸。


「新しい旅の仲間のイヴとリズベットだ」


 イヴがしゃがみ込む。


「我はイヴ・スピードだ。よろしく頼む、ピギマル」

「ピッ!」


 ピギ丸が突起をのばす。

 イヴは突起の先端を手で優しく握った。


「ピギッ」

「うむ……この者、そなたにとても懐いているようだな?」

「大事な相棒だ」

「ピユ〜♪」

「あ、あのっ」

「ピ?」


 リズが両膝をついた。

 緊張しているようだ。


「リズベット、です。よろしくお願いします……ピ、ピギまるさん?」

「ピギッ」


 ビクッ


 リズが強ばった。

 俺は少し苦笑した。


「呼び方が硬すぎるとさ」

「ピギまる……ちゃん?」

「ピキュ〜ン♪」

「今度は、気に入ったらしい」


 薄ピンクになったピギ丸がリズの方へ突起を伸ばす。


「おまえとも、握手がしたいそうだ」

「あっ――」


 戸惑いを覗かせながらも、リズはピギ丸の突起を両手で包み込んだ。


「よろしくお願いします……ピギまる、ちゃん」

「ピッ♪」

「…………えへへ」


 ぎこちなさはあるものの、リズは嬉しそうにはにかんだ。


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