創業150年で大事故は初、モーリシャス重油流出の船主
インド洋の島国モーリシャスの沖合での大型貨物船座礁事故は、マングローブ林やサンゴ礁の被害が国際的な関心を集めている。
事故原因として、インド人船長らがインターネットに接続するために島に近づいたことが報道されているが、貨物船を所有する船主として事故の責任を負うのは岡山県笠岡市の「長鋪(ながしき)汽船」だ。突如としてクローズアップされた瀬戸内の海運会社。同社側によると、江戸時代の創業から約150年で、こうした大きな事故は一度も経験したことがないという。
千トンが流出
「深くおわび申し上げます」。長鋪汽船の長鋪慶明社長は9日、大型貨物船を運航する商船三井の本社で同社の加藤雅徳常務執行役員とともに会見し、謝罪した。
事故は7月25日夜に発生。バルカー船(ばら積み貨物船)「WAKASHIO」がモーリシャス沖合で座礁し、燃料の重油が大量に流出した。モーリシャス政府は環境非常事態を宣言、日本政府も国際緊急援助隊を派遣した。
長鋪汽船のホームページによると、WAKASHIOは全長299・5メートル、全幅50メートル。乗組員は20人で、国籍はインド人3人、スリランカ人1人、フィリピン人16人。座礁した時点で燃料としての重油約3800トンと軽油約200トンを保有し、船外に流失したのは油約千トンという。
今回のような油の海洋流出は、国際条約では事故の責任や保険加入義務は船主にあるとされ、同社は13日にあらためて「責任を痛感しており、賠償については適用される法に基づき誠意を持って対応させていただく」との声明を発表した。
塩や竹材輸送から
ホームーページなどによると、同社は江戸時代末期に創業。当時は備中(岡山県)、讃岐(香川県)特産の塩を阪神方面に輸送するなど、国内間で貨物を届ける内航船事業を営んでいた。その後明治時代には、長門・仙崎(山口県)地方の竹材などの輸送も手がけるようになった。
同社が本社を置く笠岡市は岡山県の南西部に位置し、瀬戸内海に面して島が多く、古くから海運業が盛んな地域。平成28年現在で、県内の河川を含めた水運業者111事業者のうち23事業者が集中している。
そうした中で同社は戦後の昭和33年に株式会社を設立。現在は国際航路で輸送する外航船事業を営み、バルカー船(ばら積み貨物船)やコンテナ船、タンカー船を11隻保有する。
創業以来の大事故
所有する船のうち10隻の船舶管理業務は外部の船舶管理会社に委託。自社管理船は今回座礁したWAKASHIOだけ。長鋪汽船の広報代理担当者は「創業から現在までに、大規模な事故を起こした事例はない」と説明する。
今回の事故で地元警察は今月18日、安全な航行を怠った疑いで貨物船のインド人船長らを逮捕。船長らはネットに接続して家族と通話したかったなどと話しているという。
広報代理担当者によると、今回座礁した船の船員20人の手配はすべて、海外の船員配乗会社に依頼し、長鋪汽船が雇用した。「免状や経験などを総合的に判断し、適切と思われる人材を雇用した」(広報代理担当者)。
広報代理担当者は「船員の雇用責任は船主にある」とする一方、「管理責任については事故原因やその状況により異なる」としており、今後の詳しい事故原因の究明を注視している。