第20話「すいません、貧乏性なもので……」
「ふぅ……
砂漠の直射日光はキツイ。
グエンは予備の着替えを頭に巻いて、まるでターバンのようにしながら、黙々とドロップ品を梱包していった。
リズも、そのころには
「はぁ、なにやってんだろ。アタシー……」
もっとも、他にすることもないので嫌々ながらも、仕方なくといった態度がありありとではあるが……。
「ねーもー……。もう、これで全部じゃない?」
「そうだな。ニャロウ・カンソーの本体――……あの体の大部分は、あの時の湿地に置き去りになってるみたいだ」
そう言ったグエン達の前には、四天王のニャロウ・カンソーの頭部と、両手、胴の一部、そして心臓があった。
心臓だけでまだ動いてる……。
すごくグロいです。はい。
あとは、
奴の装備であった伝説級の槍という、例の「グングニル」と「トリアイナ」。
一本は、雷を操り、
もう一本は、大洪水をおこすというとーんでもない代物だ。
「ふぁー……。これだけでも持って帰れれば、アンタ――SSランクはもとより、うまくすればその上のSSSになれるわよ」
「はは。まさかそんな……」
別にグエン一人の手柄じゃないし……。
「ま、持って帰れればだけどね──」
そう言ってやや諦めに近い目をするリズ。
「ん? 持って帰らないのか?」
「はぁ? どーやって?! いや、それよりも……!!」
……ん? なんで?
なんで、この子こんなにプリプリしてるの?
…………まいっか。
「そう? じゃ、そろそろ行こうか」
「は……? だーかーらー! 何言ってんのよ、グエン。こんな砂漠じゃね、下手に動かない方がいいのよ。まずは穴を掘って、それから日没を待つの! それから、気温が下がった夜間に一気に移動するわよ」
リズはベテランらしく、砂漠戦の基本を語ってくれた。
しかし、グエンは首を捻る。
「えー? よ、夜まで??……俺はさっさと帰りたいんだけど──。……あ、他に戦利品でも探してるとか?」
「あー、そーねぇ。せっかく砂漠まで来たんだし、証拠くらい――モッテイッタホウガイインジャナイノー」
後半棒読みになりつつ、リズがへらへらと壊れたように笑う。
どうやら、リズはグエンが完全にイカれてしまったと思っているらしい。
失敬な……。
「なんか、リズ勘違いしてな――……と、」
ぶくぶくぶく……。
ゴボゴボゴボ……!
(な、なんだ?)
否定するよりも証拠と、思っているグエンの目の前の水面に──……ボコん!!
と、突如巨大な物体が浮かび上がった。
「うぉ、なんだありゃ?! で、でっけぇー!」
「ひぃ!! き、気持ち悪ッ…………って、こいつ! 獄鉄アリジゴク!!」
突如浮かび上がった巨大な虫型モンスター。
その姿に驚いたリズが、ぴょぃんと飛び跳ねグエンに縋りつく。
あ、ちっこいのが……。
「っていうか、グロっ!!」
うわ……。グロィわー……。
目の前のそいつは何ともグロテスクな形をしている……。
凶悪な鎌状の牙に、ブヨブヨと膨らんだ腹部。細かい毛がいっぱい……。おえッ。
その様子に、リズもおびえた目をしていたかと思えば、徐々に目の輝きを取り戻していき――最後には目を$マークに変える。
彼女の視線先を追うと───。
「う、うそ……。あれって、南部大陸の魔物よ? なんでここに? って、きゃああ!!」
ブクブクブク……!!
ボコボコン!!
ボコボコボコボコ…………!
次々に浮かび上がる巨大な虫型モンスターたち。
プッカー…………。
「ま、マジかよ……」
「すっごい……」
どうやら、水没させた地域に潜んでいた魔物らしい。
普段は砂の下に潜み、獲物が通り掛かるのを待っているのだろう。
――で、彼らとしては災難なことに、まさかまさかの砂漠で溺死という前代未聞の事態に。
ノンビリ砂の下にいたら、突如大洪水に襲われ、あわや溺死というはめに陥ったのだろう。
いくら凶暴な魔物でも、溺れ死んではこともなし。
グエンたちからすれば思わぬ収穫だが、魔物からすればとんだ災難だったことだろう。
「ひぇぇ……。鋼鉄ヒヨケムシに、インフェルノスコーピオン……。げ、ゴールデンスカラベまで」
他にも、巨大なワームやら、砂色のオオトカゲに、全身鋼鉄を纏ったネズミまで……。
「わ、わかった。ここ、ガラマクラン砂漠。人類の領域外で、魔王領より凶悪な地域よ!!」
へ?
そうなの??
「し、しかも。こ、こここ、こいつら最低でもA級の魔物よ……。人里に降りてくれば災害クラスの──」
ガタガタと震えるリズ。
偶然とはいえ、どうやら相当やばい場所に着地したらしい。
しかも、よくよく考えてみれば、ボケーと遭難していたその周囲に、これほど多数の巨大で凶暴な魔物が潜んでいたとは……。
い、一歩間違えれば……。
今さらながらぞーっとする二人であった。
よくもまぁ、泳いだりはしゃいだりしてたもんだよ。
と、ともあれ────。
「ま、まぁ」
「せ、せっかくだし……」
二人して顔を見合わせると、ニッと笑いあう。
そして、魔物の死骸に目を向けると――――。
「「せーの!」」
ドロップ祭りじゃーーーーーーーーーー!!
「「ひゃほーーーーーーーーーい!!」」
アイテムゲットだぜーーーーーーーーー!!
ドドド!! と砂丘を駆け下り、魔物にとりつく二人。
…………やっぱ冒険者はこうでなくちゃ。
遭難! 遭難! と騒いでいたくせに、リズも束の間だけは絶望を忘れてホックホク。
徐々に水位の下がってきた水を物ともせず、二人は魔物を解体し、いくつかの希少部位と奴らが落としたドロップ品を回収した。
結果………………。
ジャキジャキジャキジャキジャキ――……。
チーーーーーーーーーン!!
回収品の総計
ニャロウカンソーの頭部×1
ニャロウカンソーの両手×1対
ニャロウカンソーの心臓×1
獄鉄アリジゴクの甲皮×1
獄鉄アリジゴクの牙×2
鋼鉄ヒヨケムシの食腕×4
インフェルノスコーピオンの毒腺×5
インフェルノスコーピオンの爪×3
インフェルノスコーピオンの甲皮×1
ゴールデンスカラベの金糞×少量
ゴールデンスカラベの甲羅×1
ヒュージサンズワーム
砂亜竜の牙×4
砂亜竜の角×2
砂亜竜の甲皮×1
砂亜竜の逆鱗×1
砂亜竜の肉×少量
砂亜竜の心臓×1
砂亜竜の魔石×1
サンズヘッジホッグの針×10
サンズヘッジホッグの爪×2
サンズヘッジホッグの牙×2
グングニル×1
トリアイナ×1
「はー……採った取った」
「とったどー!」
二人でニッコニコ!
懐がホックホク!!
「「あはははははははは!」」
ロープでドロップ品をひとまとめにすると、汗をぬぐったグエンとリズ。
そして、二人して砂丘に上がってぐったり。
小山のようになったドロップ品の山をみて、少し誇らしげだ。
リズいわく、どれもこれも一級品らしい。
「いやー。集めたなー……。もう少し探せば、連中がため込んだドロップアイテムとか宝箱があるかも?」
「も、やめときましょ。砂漠はあいつらのフィールドだし、水を吸ったあとの砂漠の泥濘化はやっかいよ」
そういって、顎で指すリズ。
なるほど。
確かに目の前の砂漠には保水力がなく、水はグングンと吸い取られていき、今や砂丘の下はドロドロの泥濘と化していた。
とはいえ、あれも強烈な日差しですぐに乾ききってしまうのだろうが……。
そして、その束の間の泥地獄は、素材をはぎ取られた魔物をずぶずぶと飲み込んでいく。
「あー……。アタシの水がー。ドロップアイテムがぁ」
諦めようといった割に未練がましくモンスターを眺めるリズ。
そのリズの悲しそうな目をしりめに、
「じゃーこんなもんかな?」と、グエンは汗をぬぐうと、ドロップ品をひとまとめにして背負った。
あ、重いわ……。
「それどうすんのよ……? つい夢中で集めちゃったけど、砂漠を抜けるには邪魔になるだけよ?」
「え? そりゃ~……もちろん持って帰るよ?」
「か、帰るってアンタ……」
はー。と額に手を当て空を仰ぐリズ。
つられて空を見上げるグエン。
宵闇がおりつつある空には、一番星がひーとーつ。
「グエン。何度も言うけど、ここはどことも知れない砂漠なの」
「ん? うん。そうだな。まぁ、それはいいから、そろそろ帰るぞ」
「うん、帰ろうか♪……って! あー、もう!」
全くの平行線をただる二人の会話。
さすがのリズも、いい加減にイライラしてきたのか、
「グエン!? そろそろ覚悟を決めてッ! 現実逃避するのもいいけど、今は二人で砂漠をぬけ──きゃああ!!」
「ほいッ」
ピーピーうるさいリズをお姫様抱っこで抱えるグエン。
その挙動にリズが顔を真っ赤にして金切り声を上げる。
「ちょ、ちょ、ちょ! な、なによ? 放してぇ!」
「あんましバタバタするな、落ちても知らんぞ」
しかし、グエンはそれには全く取り合わず、背にはドロップ品。腕にはリズを抱える。
「ぐ、グエン?! きゅ、急になに何ッ?! きゃーー! もー! 何考えてんのよぉ──砂漠で
「そんなこと」って、……何を言っとるのかね、この子は――。
「やだ! 変態! ロ〇コン! エルフ好きぃ!!」
あー……うるさい。
「って、誰がロ〇コンじゃ!!」
暗殺者という職業の割にギャーギャーと喧しいリズ。
っていうか、この子こんな性格だっけ?
もっとこうクールな感じで……ギルドの懐刀の───。あれ?
ま、
「……いいから黙って、舌を噛むぞ」
「ンぐ……。むぅ! そんなこといって──グエンーーーー!!」
遭難なんかしてないって何度言えば……。まぁいいか。
とにかく見せた方が早い。
「いいから、帰るよ」
「だーーーかーーーーらーーーーー!!」
あーはいはい。
というわけで──────……。
――――実際にやってみた。
すぅぅ……。
……スキル、