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SSランクパーティでパシリをさせられていた男。ボス戦で仲間に見捨てられたので、ヤケクソで敏捷を9999まで極振りしたら『光』になった…… 作者:LA軍
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第18話「すいません、水出しすぎだと思います(後編)」

「えっと……。あの時、どうして俺の味方をしてくれたんだ?」


「あの時?───あの時……って? あー……あの時ね! んーまぁ、色々(・・)とあるのよアタシにもね。それに、マナックたちのやり方は気にくわなかったし」


 そう言って、マナック達を思いだしたのか吐き捨てるリズ。


「そうか。それでも、ありがとう……」

「別にアンタのためだけじゃないわよ」


 彼女の言う「マナック達のやり方」が、どこのどのことを指しているのかグエンには分からなかったが、彼女なりの矜持があるらしい。


 そもそも、彼女は最近加入してきたメンバーで、それほどマナック達に思い入れがあるわけではないのだろう。

 だから、パーティの空気に染まらず、自分の行動規範で動いたということ。


 本来なら、そういったスタンドプレーはパーティとして組む上では致命的な欠陥なのだが……。


 だが、今回ばかりは、そのおかげでグエンは救われた。


 もっとも、

 結局は、リズの性格によるところが大きいのだろう。

 彼女の職業は、冷酷と言われる天職「暗殺者(アサシン)」。


 に、しては情に脆い気もするけど……。


「……ん? 色々って、どういうこと??」


「んー、色々は色々よ。……ま、無事帰れたら話してあげるかもね」

「あ、あぁ……うん」


 ま、無事にね──……と。

 そう言って寂しそうに笑うリズ。


 一応は助かったとはいえ、どことも知れぬ砂漠地帯だ。

 グエンの称号:「光」のため、二人ともわけもわからずこんなところに来てしまった。


 ───だけど、リズはひとつ勘違いしている。


「………………え? 無事に帰れたらって?」

「そーよ。無事に帰れたらよ。それも、奇跡的にねー。そしたら、まー……。手始めに、四天王の討伐依頼を受けた、あの辺境の街のギルドに報告に戻りたいわね。…………もう、無理だけど」


 えへへ、と少し寂しそうに笑う。

 そこには諦めの色すら見えた。


 足を水につけ、パチャパチャと遊びながらも、ボンヤリと水面を見つめているのは、あの湿地帯地の近傍にあった街に思いを馳せているのだろうか。

 そして、きっと今頃マナック達もあそこに向かっているか到着しているだろう。


 村を素通りして、さっさと「依頼変更」だかなんだかを告げるためにギルドのあるあの町を目指しているに違いない。


 まぁ、それはそれとして。


「ん? ど、どゆこと??」

「はぁ? どーもこーもなにも、無理って話よ。水はあっても砂漠を抜けるのは絶対無理!」


 ところでリズは何を言っているんだ?


「……え? 無理って?」

「……は? 無理は無理でしょ、だって……」


 ん?

 ──へ?


「なんで?」

「なんでって、無理は無理に決まってるでしょ。こんな、見たこともない場所まできちゃって───え?」


「え?」

「え、え?」


 あれ。

 会話がかみ合わない。


「いや、だって……。え? さ、砂漠だし。場所もわかんないし……え? え? か、帰れる、の?」

「う、うん。帰れるよ。体調も戻ったし、なんかLvも上がったし……。全ッ然余裕」



 はい。ほんと。

 本当の本気で余裕で帰れちゃいます。


「うそーん」


 ポカンとしたリズの顔。

 しかし次の瞬間、猛然とグエンに食って掛かる。


「いや、いやいやいや! ど、どどどど、どーやって?! そ、そもそも、ここがどこかもわかんないのに!!」


 リズは頭を押さえてキンキンと騒いでいる。

 どうやら、グエンの言うことがいまいち信用できないのだろう。


 まぁ、論ずるより証拠──。


「さっき新しいスキルを覚えたんだよ。それもとっておきの」

「む、無茶言わないでよ?! そ、そんな都合よく──」


 リズの言うことももっともだが、都合がいいというよりある意味必然だ。


 なんたって、

 倒したのは遥かに格上の魔物──魔王軍四天王のニャロウ・カンソーだ。


「お、落ち着けって。リズだって、経験値入ってるだろ?」

「こ、これが落ち着けるって? 冗談!…………あ、ほんとだ。凄い経験値」


 いつの間にか、グエンとリズに大量の経験値が入っていた。


「って、違う違う違う!! そーいう話じゃないからぁ!」

「えー……」

 なんかリズ、面倒くさい。

「た、たしかに、アタシもスキル覚えてるみたいだし、それならアンタも覚えててもおかしくないわね。…………いや、おかしいわ!」


 リズも体にあふれる経験値を感じたらしい。

 ほんのりと輝くそれを呆然と眺めていた。


「あ、もしかして……」


 リズに今頃経験値が入るというは、ニャロウ・カンソーの撃破は、もしかするとマナック達にも感知できているかもしれない。

 とはいえ、戦闘に貢献したかどうかは微妙なライン。

 それも、

 逃げたあいつらの中で、唯一ニャロウ・カンソーに打撃を与えたのはシェイラだけ。


 ならば、たとえ僅かばかりとはいえ、ニャロウ・カンソーを攻撃していたシェイラもこの経験値の恩恵は受けている可能性はある。



 魔物の経験値は戦闘時に貢献したもの(・・・・・・・・・・)に割り振られる。



(奴ら、勘づくかもな──)


 最も貢献したものは大量に、

 それ相応のものにはそれ相応に……。


 だから、リズにも相応。

 シェイラにもわずかに……。


 難しい顔で考えこんでいると、リズにガックンガックンと揺さぶられる。


「──ちょっとぉぉ! そーいうのは早く言いなさいよ!! だけど、もーー!! スキルがあったからってなんなのよ?!」

「まぁ、スキルだけじゃなくても──。体調も戻ったし、こう……ほら。ぴょーんと」


 ぴょーんと飛ぶ真似をするグエン。

 それをジト目で見るリズは……。


「ぴょーん?! ふざけてるの……? 体調でどうにかなるもんじゃないでしょ!?」

「そりゃ、フラフラで使うもんじゃないよ」


 ここまではスキル:光速突撃(ライトニングチャージ)で、着陸地点も決めずにぶっ飛んできたがゆえの意図せぬ移動だ。


 慣れてくれば元の場所に戻ることも、

 僅かな移動で使用することもできるのだろうが、

 グエンも初めて光の称号を得て加減ができなかったので、こんな砂漠にまで飛んできてしまった。


 そして、リズは知らないだろうが、実はここに着地するまでグエン達はこの星を何周か回るほどの高速移動をしていたのだ。


 もっとも、目にもとまらぬ速さではあったけど……。

 しかし、リズにはそんなことはわからない。あからさまに動揺した様子で、


「だ、ダメだわ。きっとグエンも砂漠の暑さと諸々で頭をやられてるんだわ……? ここはあたしが何とかしないと──」


 じとー………………。


「おまけに光速突撃のスキルを使ったおかげで派生スキルもゲットしたぜ」

「ああ、だめ。狂ってる。皆狂ってるぅ……」


 リズはグエンの話など聞こえないとばかりに頭を押さえて悶絶している。


 あー。だめだこりゃ……。


 実際に、やった方が早そうだ。

 スキル確認。



 ぶぅん……。



習得スキル:

音速突撃(ソニックチャージ)

音速衝撃波(ソニックブーム)

光速移動(ファストラン)」(NEW!!)

光速突撃(ライトニングチャージ)



「あ、これだ」


 そうそう、これこれ。

 多分、この「光速移動」で一気に遠距離への移動ができる。


 それも、一度行った場所なら屋外に限定されるものの、どんな場所でも可能らしい。

 もちろん、使用にも問題はない。


 なぜかって?


 そりゃ、スキル習得とともに大雑把な使用法がわかるようになっているのだ。


 もっとも、

 光速移動のこれは、転移などの魔法の類ではなく、実際にグエンが生身で移動するわけだけど……。


 光の速度で駆けるグエンは、まさに「光」。


 おまけに、移動間は光の速度を維持する防核に包まれるらしく少々の障害だろうが、地形の制約だろうがほぼ無視してしまえるというぶっ飛び具合。


 実際、ここに来るまでに、いくつか山脈と海を飛び越して来ていたりする。


「あぅぅ……。駄目よーダメダメ。グエンがおかしくなっちゃた以上、アタシがしっかりしなくっちゃ」


 ブツブツと虚ろな目をして呟くリズを放置して、グエンは散らばった物資を集める。

 水没する前に回収しておいてよかった。


「ほら、リズも手伝ってくれよ」

「うー……。あー……。ブツブツ」


 伝説級とやらの槍を二本拾い、リズに押し付けると、その他のドロップアイテムを拾うグエン。


 ニャロウ・カンソーの体の部位は、それぞれ弾け飛んでしまったので、一部だけしか回収できなかった。


 だが……。


(これさえあれば十分だッ)  

 ――これは絶対に持ち帰らねば……!


 グエンは、ブツブツと虚ろに呟くリズを叱責しながら、黙々とドロップアイテムを回収していくのだった。



 そして、グエンは。

「見ろよ、リズ」


 ニヤリ───。


 討伐証明となるニャロウカンソーの首を砂の中から引っ張りだし、ニヒルに笑う───……。



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