第13話「ソニック! それでも届かぬ!!(後編)」
ごくり…………。
喉を嚥下していく丸薬。
苦いような、生臭いような───。
「ぐぶッ!」
喉からせり上がる吐き気にグエンが口元をおさえる。たが、吐血は止まらず……。
そして、件の効果は一瞬にして現れたッ。
───ブフッ……!
意図せず口から吹き出す鮮血。
それがツツーと口の端から垂れたかと思うと……。
ガクン……。
「グエン!!」
リズの悲鳴に答えることもできずに、ガクリと膝をつく。
「げほっ……!」
一際大きな血の塊を吐いたグエンは、
びく。
びくびくびくびくびくーーーーー!!
「か、はっ……」
猛烈な悪寒ッ!!
そして、
「……うげぇぇぇええええええ!!」
意図せず、ビチャビチャと吐き零れる胃液ッ!!
「あ……が……」
「グエン!!!」
リズの気遣う言葉に返すとこもできずに、うずくまると、そのあとには猛烈な筋肉痛が全身を襲う!!
───ぐあああああああああああああ!!
声にならない絶叫のもと、グエンは頭を押さえて転げ回る。
その激痛と悪寒のなかに思うのは、ひとつ───。
(こ、こんなものを俺に飲ませようとしていたのか───?)
───マナック!!
「あの野郎……!」
改めて、マナックの仕打ちを思い出し身体が怒りに震える。
そのまま、身体が猛烈に激痛と熱を放ったかと思うと、「あぐ……っ!」と、節操なく襲いくる体の異変。
構える間もなく、次は一瞬にして体温が冷え込み、強烈な虚脱感に包まれるグエン。
だが───…………。
「なにか、くる…………」
朦朧とした意識のなか、頭の中が整頓されていくような奇妙な気配。
それは、まるで………………。
……カッ──────!!
突如、グエンの全身が光に包まれたかと思うと、一気に倦怠感が襲う。
そして、
ブゥン……。
名 前:グエン・タック
職 業:斥候
称 号:パシリ→音速(NEW!!)
(条件:敏捷5000を突破し、さらに速度を求める)
恩 恵:音速は、音の速度
(アナタは音の速度を越えました)
※敏捷ステータス×35
※音速時の対物理防御無限
※音速時は、攻撃力=1/2×筋力×敏捷の2乗
体 力: 32(DOWN!)
筋 力: 14(DOWN!)
防御力: 20(DOWN!)
魔 力: 29(DOWN!)
敏 捷: 91(DOWN!)
抵抗力: 12(DOWN!)
残ステータスポイント「+10019(NEW!!)」
(※ 『再振り丸薬』の影響により、ステータスポイントが11133より1割減少します)
スキル:スロット1「韋駄天」、
スロット2「飛脚」
スロット3「健脚」
スロット4「ド根性」
スロット5「ポーターの心得」
スロット6「シェルパの鏡」
うぐ……。
「───げふッ…………」
自分でもドン引きするくらいの血を吐き戻すグエン。パタタッと血が飛びはね、
ドロリとした血の塊が地面に水たまりを作る……。
へ。
へへへ───。
「へははははははははははは!!」
血だまりに映る自分の顔を見て、
そして、ステータス画面を見て……。
ニチャア……と、凄惨な笑みを浮かべるグエンは、
……きた、きたぞ!!
来たぞぉォぉおお!!
「グエン! 馬鹿な真似をして……! もう、あなたも逃げられないじゃない!!」
は??
逃げる?
…………一人で、俺が??
はっ!!
(…………そんなこと考えたこともねぇよ!)
リズが危うい一撃を躱して、グエンのもとで膝をつく。
それをみたニャロウ・カンソーが追いつめたと思ったのか、凶悪な笑みを浮かべと槍を地面に突き立てると、空いた手でリズをつかみ取る!!
「が! は、は放せッ」
《ウジャァァアア!!》
リズの苦悶の顔を嘲笑うかのように、いっそう力を込めるニャロ・ウカンソー。
リズの小さな体をギリギリと握りしめる。
「く、くはぁ────……!」
至近距離で毒を食らい吐血するリズ。
いくら耐性があっても、あれは苦しいだろう。
さらに、締め付けだけでも、彼女の骨がきしむ音がする──。
「て、てめぇぇ……」
べっ!! と、血反吐を吐くと、グエンはユラリと立ち上がる。
そして、『音速』の突撃をぶちかましてやるとばかりに、傷だらけの体に力を籠めるッ!
速度を乗せた一撃を食らわせれば奴だってただでは済まないだろうと──。
「にげ……て。グ」
ブフッ……! とリズが血を噴き出したのを見て、グエンの怒りが頂点に達した。
「リズっっ!!」
…………させるか。
させるか。
されるか、させるか、させるか!!
───さ・せ・る・かぁぁっぁああああ
「…………汚ねぇ手でリズに触ってんじゃねぇよ!!」
ぶっ殺してやるぁぁあッッ!!
「死ねッッ! トカゲ野郎!! いまから、俺の全ステータスポイントを敏捷にぃぃぃいいい!!」