第3話「すいません、俺ステータスポイント貯めてました」
※ 回想~過去の日のこと……~ ※
「グエン! グエン!」
ギルドの受付から満面の笑みを浮かべてかけてくるマナック。
冒険帰りで全身泥まみれだが、そんなことも気にならないほど気力に満ち溢れている。
「どうしたんだ? 報酬がよかったのか?」
新しいクエストを探していたグエンはマナックに振り返る。
「違うよ。これを見てくれよ!」
そういってマナックが誇らしげに見せてくれたのは、Eランクの真新しい
「おお! やったな、マナック! もう、Eランクか」
「あぁ! これも全部グエンのおかげだよ! さすが、先輩だぜ」
そういって嬉しそうにはにかむマナック。
まだまだ駆け出しなことには変わりはないが、冒険者になって日も浅いというのに、もうEランクだ。
グエンの目から見ても期待の新人ってやつに見えた。
「先輩だなんて、よせやい! だけど、今日は祝いにちょっと奮発するか?」
「いいのか? も、もちろん奢りだよな?!」
そういって悪戯っぽく笑うマナックに、グエンも微笑み返す。
「はは。ちゃっかりしてるな──ま。俺に任せとけよ」
「さっすが、グエン! ありがとうな、グエン!」
※ 回想おわり ※
「────ェン。……グエン! おい、オッサン! ぼーっとしてんじゃねぇ!!」
バシャ!
「うわッッ!!」
パーティ全員の荷物を担ぎ、息も絶え絶えのグエンに向かって投げつけられる泥の塊。
それは湿地の悪臭をふんだんに吸い込んでおり、直撃した鼻から容赦なく嗅覚を刺激する。
「あー、きったな~い!」
「元々きたねえっつの!」
キャハハハ、ゲラゲラゲラ!! と、シェイラとアンバスが大笑い。
それを見ながら、レジーナも含み笑いを隠せない様子だ。
「ったく、呼ばれたらさっさと来いッ! ここで休息をとるから、全員分の軽食を用意しろ」
「そ、そんな急に……?!」
ギロリ!!
グエンの言い分など聞かずに、それだけを命じると、マナックはさっさとパーティメンバーの輪の中に戻っていった。
「わ、かった……」
そして、グエンは言われるままに、のろのろと野営準備を始める。
ここまでの道程で疲労も困憊だというのに、休む暇も与えられないとは……。
「はぁ……」
汗をぬぐったグエンは、荷物を下ろし周囲を見渡す。
ここは辺境の街から遠く離れた僻地。
周囲はボコボコと泡立つ毒の沼地が大量に。溢れる瘴気にむせ返りそうになるほど……。
そう。この不毛の大地こそ魔王領、四天王の直轄地域だという。
マナックはその大地に堂々と立ち、野営地の中で見つけた置手紙を読んでいた。
どうやら、ここは先行するリズの決めた中継地点らしい。
「ふむ……。斥候活動中のリズから連絡だ。どうも、この先で四天王『ニャロウ・カンソー』を発見したらしい」
「へへ! マジかよ。やるじゃないかリズの奴」
リーダーらしく状況説明を行うマナックと、リズの手腕を褒めたたえるアンバス。
「え~? なんでリズが直接こないのー? アイツさぼってるんじゃないのー?」
シェイラは辛らつだ。
同じチビっ子どうしで、キャラがリズと被っているのが気にくわないのかもしれない。
こうみえてシェイラは、SSランクパーティに最年少でなった実力者なのだが、愛らしい外見もあいまって、普段はパーティのマスコットキャラとして可愛がられているのだ。
「……シェイラ、そんなこと言うもんじゃなりませんよ。リズさんは新人とはいえ、よく働いてくれます」
「そーそー。誰かさんと違ってな~」
レジーナの言葉に、グエンの悪口を被せるアンバス。
一々コイツは……!
アンバスの野郎の言うことは本当に気にくわない……。
「お、俺だって精いっぱいやってるだろう?」
さすがにここまで荷物を運んできたメンバーに対して言葉が過ぎると思い少しだけ反論するグエンだったが、
「パシリが無駄口を叩くなッ! それよりも、リズの連絡によると、この辺を『ニャロウ・カンソー』が絶えず移動しているらしい。そのため目を離すことができないそうだ」
「ほー……。するってぇと、今もリズが追跡中か?」
「あぁ、そして最短ルートで俺たちを導いてくれている」
そういって、僅かな踏みあとを指ししめす。どうやらリズが作ったルートらしい。
その途上には、点々とわかりやすい道標も置かれている。
「へへ。なら楽勝だな。とっとと倒してSSSにランクアップといこうぜ」
ニヤリと笑ったアンバスは、タワーシールドを手にしてズンズンと先に進んでいく。
タンクの役割を持つアンバスが先頭を進めば自然と背後には道ができるのだから不思議なものだ。
「そうだな。シェイラとレジーナは後方警戒。俺は側面を警戒しつつ、全体を見る──────んで、オッサン!! テメェは遅れてんじゃねぇ!」
自分で休憩と言っておきながらもう忘れているらしい。
「お、おい! 待てよ。せっかく……」
今火を起こしたばかりで、お茶を作ろうと思っていたのだ。
それに、パンだって──。
「ほぉら~。いくよー」
「グエンさん、急ぎましょう」
慌てて撤収にかかるグエンを放置して、パーティはさっさと先に向かい始めた。
グエンは大慌てで荷物を片付けているが、そんなにすぐに移動できるはずがない。
「おい、パシリ野郎。時間かけんじゃねーぞ?」
「そうそう。パシリと荷物持ちくらいしか仕事がないんだかあ、迅速果敢───時間はお金と一緒だよ」
アンバスとシェイラのありがたいお言葉に、
「早く行け───ほら、そんなに遅いんじゃ、ステータスの割り振りをもう一回考えないとなー。いつも通りステータスは『敏捷』に割り振ってんのか? 結構ため込んでんの知ってるんだぞ」
ニヤニヤと笑うマナック……!
(く。こいつら……)
自分が強いからって!!
だ、誰のせいでパシリばっかりやってると思ってるんだよ!
「あ? もしかして、コイツステータスポイント貯め込んでやがるのか?」
クルリと振り返るアンバス。
その視線に、ドキリと心臓が跳ねるグエン。
マナックにランクを追い越され、いつの間にかコキ使われるようになってから、パシリ専門として、半ば無理やりステータスポイントを割り振るように強要されていた。
それは、とにかく早く動いて「パシリ」をしろということ。
つまり、『敏捷』に極振りをして、パーティのために素早く動けという無茶苦茶な指示だった。
だが、それがグエンがパーティに残るための条件でもあったのだ……。
「たぶんな。……前々からパシリのために『敏捷』に振れっていってんだけどよー。このオッサンのトロさを見ただろ?」
「確かにトロくせぇ……。おい、オッサン! 誤魔化すなよ? シェイラの『鑑定魔法』でわかるんだからな。……ホラ、残ったステータスポイントも振るんだよ! 何のためにテメェにも経験値分けてやってると思ってるんだ?」
ぐ……。
(そ、そりゃ、こんな狩場じゃ、俺一人で魔物を狩るのは難しいし、しょうがないだろ?! 寄生してるわけじゃ───)
何か、言い逃れを考えようとしているグエンに向かって無情にも……。
「そうだなー。一度確認しておくか? それとも、『再振りの丸薬』を使うか?」
そう言って、スキルポイントを一度リセットして再振りができるという『呪いの薬』の小瓶を取り出して見せるマナック。
それはLv1にまで一度ステータスを下げる代わりに、1割ほどのポイントを代償にして、再振りを可能とする薬だった。
「……う」
メンバーに取り囲まれ追及されるグエン。
その圧力にダラダラと冷や汗を流す。
「そ、その……」
くそ……!!
もう、パシリはウンザリだ!
「あ゛あ゛ん?! 聞こえねぇよ! どーすんだよっつってんだよッ!!」
みなまで言わせず、『再振りの丸薬』をポイッとグエンに投げ渡すと、
「…………グエンのオッサン。テメェよぉ。前々から俺が指示した通りに『敏捷』に割り振って無かったらわかってんだろうな?」
「な!! 何をする気だ?!」」
ブルブルと震えるグエンの胸倉をつかむマナック。
「はッ! 震えやがってみっともねぇな~。……くひひ、決まってんだろ───それを飲んでもらうぞ?」
「そ?! な? ええ?! ば、ばかな!!」
い、いくらなんでも、他人にステータスポイントをリセットする権利なんて……! 仲間とは言え、ここまでとやかく言われる筋合いはないはずだ!
たしかに、いわれた通り、しぶしぶとある程度『敏捷』に振ってはいるけど……。
「あ゛?! オッサン、何だその顔は? おい、シェイラ」
「ぷぷー! グエンってば、プルプル震えちゃって、かーわいー! じゃ、え~っと鑑定魔法かけるよー……『
シェイラの
クスクス笑いながらシェイラが魔力を送ると──……。
「───おや? おやおや~、これはこれは~。うぷぷぷっ!」
「よ、よせッ!」
強制的に解放されるステータス画面。
グエンが慌てて手を伸ばすも、
ブゥン……。
「ひゃぁッ?!」
☆ 『
名 前:グエン・タック
職 業:斥候
称 号:パシリ
(条件:一定期間パシリとして活動)
恩 恵:パシリ効果により、店主が同情し品物を安く買える───こともある。
稀に店主が高値で売りつけることもある。
あと、子供が石を投げてくる。
体 力:2672
筋 力: 934
防御力: 950
魔 力: 569
敏 捷:4385
抵抗力: 842
残ステータスポイント「+980」
スキル:スロット1「韋駄天」、
スロット2「飛脚」
スロット3「健脚」
スロット4「ド根性」
スロット5「ポーターの心得」
スロット6「シェルパの鏡」
☆ 大魔術師が、魔法を解除しました ☆
「あら、あらあら~!」
ニヨニヨとした目でグエンを見下ろすシェイラ。
ふわりと揺れるスカートが可愛いらしいのに、その顔の小憎らしいこと!!
「おぃ、グエンんんん…………」
あろうことかステータス丸見え。
普通はパーティに見せるならギルドの鑑定水晶のサービスでこっそり開示するものだというのに……!
冷たい目線をマナックから感じ取る。
(や、やばい……!)
ステータスを鑑定魔法で周囲にばらすのは不作法とされ、冒険者間では本人の同意なしにやることはご法度と暗黙の了解を得ているのだ。
だというのに、コイツ等と来たら───!!
今にも、マナックの拳が降り落ちてきそうな気配にグエンは目をつぶって衝撃に備える。
しかし────。
……ぶはっ!!
「ブハハハッ!! 称号! 『称号』みろよ───ぱ、ぱぱぱ、パシリの『称号』だぜ!」
「ぎゃははははは、ぱ、パシリだってよ~!! れ、レア中のレアなんじゃね? ぎゃははは!」
「きゃはははは。……まさか本当にパシリだったなんて。きゃーはっはっは!」
「くすくす……。み、皆笑っちゃ悪いわよ。クスクス」
マナックたち3バカは当然のこと、聖女の如きレジーナまで声を殺して上品に笑っている。
「うひゃはははは。す、すげー、み、みみみ、見ろよこれ。び、敏捷4000超え! お、オッサン……おまえゴキブリ並みの敏捷だわ、これ。マジもんのパシリだぜぇ」
「こ、ここここ、これは早そうだぜぇ! ひゅー。グエン君のパシリダッシュが見て見たい!」
「きゃはははは。コストパフォーマンスが良さそう~」
「くすくす。わ、笑っちゃ悪いわよ……! グエンさん? 無理はしないでね、くすくす」
ゲラゲラと仲間に嘲笑われるグエン。
「ぐ……!」
身体が怒りと悔しさで真っ赤に染まってブルブルと震える。
だけど、それを口にすることはできない。
下手をすればパーティを追い出されて、『光の戦士たち』を乗っ取られる。
それを考えるとグエンはただ力なく笑うしかなかった。
だけど…………!!!!
ぐ……。くそっ!
ふ、
ふざけんな!!
ふざけんな!!
お前が行ったんだろ、マナック!!
お前らのためにステータスをこんな……!
ふざけやがって……!
ふざけやがって!!
ギリギリと拳を握りこむ。
そして、何もかもやけになって、言い返してやろうと────!
そう!!
言い返してやろうと──────!!
「ふ……