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ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 作者:篠崎芳
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コネクト


 ドチャ!

 グシャ!


 騎乗竜ごと五竜士が地面に叩きつけられる。


「ギ、グェェ――、……ッ!?」


 竜の潰れた鳴き声。

 どの竜も血塗れだった。

 一時的に血を噴き出しながら飛行を保ったためだろう。

 麻痺中に無理に動こうとすると、激しく出血する。


「さすがは世界最強を称する騎士団の竜、ってとこか……」


 シビトとの会話中。

 竜たちはよだれを垂らして俺を睨んでいた。

 殺意を滲ませて。


「本当は俺を殺したくて、たまらなかったんだよな?」


 五竜士が場を去る時も竜たちは不満げだった。

 俺は指示を出す。


「ピギ丸」

「ピギッ」

「アレの準備しておけ」

「ピッ!」


 呆然とするセラスに俺は話しかけようとした。

 と、


「何、を……したぁ!? トーォ、カァ゛!?」


 地面に転がったシビトが声を上げた。

 シビトは身体を起こそうとしていた。

 まだ【スリープ】は射程圏外……。

 ここで近づきすぎるのはリスクが大きい、か。


「言っただろ」


 距離を取って答える。


「俺の力は、格外らしいってな」


 腕を突き出す。 


「【ポイズン】」


 五竜士だと万が一があるかもしれない。

 非致死での様子見はなしだ。

 致死設定で――確殺する。


「ぬっ!? ぐ、あぁ……っ!?」


 シュヴァイツが苦しげに呻く。

 オーバンも続く。


「あ、あぐぁッ!? まさか、コレ……? 麻痺の、状態異常なのか……ッ!? 状態異常系の……術式!? 馬鹿、な! 全員に連続でかかるなんて……ありえ、ないって! ぐあぁ!?」


 ブシュッ!


 包帯男の身体から血が噴き出した。


「――ぐ、ぬッ!?」


 白い包帯が血に染まる。

 無理に動こうとしたようだ。

 五竜士は今、全員が地に伏している。

 どのくらいで死に至るかは不明。

 弱ったのを見計らって【スリープ】のコンボといくか……。

 眠らせる方が確実だ。


「トー、ォガァ……ッ!」


 槍の底が地面を打つ音。


「……やっぱ”人類最強”の名は、伊達じゃねぇよな」



 シビトが、立ち上がった。



 他の三人にはもう動く気配はない。

 諦めているようだ。

 が、やはりシビトは別格。

 彼の全身は小刻みに震えていた。

 槍で身体を支え、崩れ落ちぬよう踏ん張っている。


 そして立ち上がる過程で、シビトは大量に出血していた。


「ご、ぶ……ッ」


 口から血塊けっかいを吐き出すシビト。


 ビチャッ


 シビトの吐いた血の塊が地面に落ちて鈍く弾ける。

 血は目もとからも流れていた。

 魂喰いは動こうとしたが無理だった。

 が、シビトは無理を通してきた。


 シビトが槍を、振りかぶる。


 見るからに、強引に。

 力任せに。


 ブシュゥッ!


 槍を持つシビトの右腕から激しい出血。


 血を噴きながらも、シビトが投擲の準備に入る。


「――――」


 危なかった。

 さっき容易に近づいていたら、俺の心臓は今頃ひと突きだったかもしれない。


「…………」


 イチか、バチか。

 近づいて【スリープ】をかけるか?

 ピギ丸の”アレ”は間に合わない。

 俺は駆け出そうとした。


 ザッ!


 踏み込みかけた俺の前方に、人影が滑り込んできた。


「セラス……?」

「今の状態のシビトが投げた槍なら、私でも弾き落とせるかもしれません……でなくとも、私の身体が盾になるはずです」

「セラス、あんた精神的なダメージの方は大丈――」


「交わしたはずです」


 問いを遮りセラスが言った。


「今の私は、トーカ殿の護衛なのですから」

「……悪いな」

「早いですよ、トーカ殿」

「ん?」

「感謝の言葉は、生き残ってからに――」


 ブシュゥ!


「ぐ、ぅ……っ!?」


 さらに噴血ふんけつするシビト。

 結局、シビトの反撃は――


「ご、は……ぁ――っ!?」


 杞憂に、終わった。

 投擲には至らず。

 膝をついた”人類最強”が完全に動きを止める。

 シビトの眼下に広がる血の沼。

 沼がその面積を、ゆっくりと拡大していく。

 俺は感嘆の息をついた。


「麻痺と毒のコンボを喰らってあそこまで動けたやつは、過去にいなかった」


 つまりシビトはそれほど規格外の強さだったのだ。


「普通のやり方じゃ、まず勝てなかっただろうな」


 やはり【パラライズ】を決めるための確実性を最大限まで引き上げたのは正解だったようだ。


 ミシッ、ミシッ――


 俺の首とこめかみのあたりに”根”が張る感覚が侵蝕してくる。


 まだ油断はできない。

 死を見届けるまでは万全の態勢で備える。

 毒を付与した相手の失命を待つ。

 これが【ポイズン】を用いた戦い。

 大出力の一撃で終わるわけではない。


「ぐ、ぅ……ぐ、が――ぅ――、……」


 最初に力尽きたのは包帯男だった。

 先ほど無理に動こうとしたのが死へと加速させた。


 ん?


「なんだ……?」


 突如、包帯男の身体が強く発光した。

 直後、


 バシュゥッ!


 天を貫く太い一筋の光が上がった。

 ただ、射出された光は一瞬で消えた。

 セラスが怪訝を口にする。


「今のは、一体……?」


 俺は推測を口にした。


「合図、かもな」

「あ、合図?」


 たとえば、死を伝える合図。

 自分を殺した敵の位置を示す合図かもしれない。

 あの包帯の下……。

 自動発動の術印っぽいものが描かれていたのではないか?

 遺跡で見つけた黒い卵を包んでいた布のような……。

 絶命時に敵の位置を示す術印。

 本来の使い方は、シビトが駆けつけるためのものか?


 五竜士を殺すほどの敵をシビトが”逃さぬ”ための。


「で、今回のケースで駆けつけるのは――」


 遠くの空から鳴き声が聞こえた。

 絶え間ないいくつもの鳴き声がこちらへ迫ってくる。

 竜の鳴き声。

 複数――いや、少なくとも二十匹は越えるか。



 あるいは、それ以上。



 五竜士が別の場所に待機させていた部隊だろう。

 別の場所に置いておいた理由は想像がつく。

 舞台の興を削ぎかねないため、シビトの意思で置いてきたと思われる。


「…………」


 先ほどの光の柱が、狼煙となったか。


「トーカ殿、い、いかがいたしますか? 森に隠れて逃げるのも、手かとは思いますが……っ」


 ミシッ、メリッ――


「五竜士が死んだとなれば、容易には近づいてこないかもしれないが……」


 今の時点でこの場を離れるのは避けたい。

 たとえば回復魔法のような術式があったとしたら。

 駆けつけた竜騎士たちによってシビトたちが救われてしまっては困る。


「少なくとも俺は残って、五竜士の死を見届ける」


 シビトに近づくのはまだ危険だろう。

 窮鼠ほど気をつけねばならない。

 廃棄遺跡での自分を思い出す。


 人は真に追い詰められた時にこそ、信じられない力を発揮したりする。


 セラスの精式霊装を使える状態ならとどめを頼んでもよかったかもしれないが……。


「セラス、あんたは逃げてくれてもいい。それと、さっきは何も説明せずに悪かっ――」

「私も、残ります」


 覚悟を決めた調子でセラスが言った。

 次いで、少し冗談っぽく言うセラス。


「その代わり報酬の青竜石は、しっかりいただきますので」


 意外と肝が据わっているのかもしれない。

 それに、俺が思うより立ち直りも早いタイプなのだろうか?


「わかった。報酬はしっかり払わせてもらう」


 黒竜が、迫ってくる。


「シュヴァイツ様っ!?」


 先頭の黒竜が上空で停止した。


「いかがされたのですかっ!?」


 竜騎士が大声で呼びかける。

 あの距離はまだ射程圏外……。

 不用意には降りて来ない、か。

 が、呼びかけられたシュヴァイツは大声を出せない。


「アズ、ラン……ッ!」


 代わりに上がったのは、シビトの声。

 呼びかけられた竜騎士が困惑をみせる。


「なっ!? シ、シビト様……ッ!? え!? まさか!? お、お怪我をされたのですか!?」


 怪我をするだけで部下たちにとっては信じられぬ出来事らしい。


 血を口から吐き出しながら、空へ叫ぶシビト。


「あ゛やづらをっ……がはっ!? 上空からごろぜ! 不用意に、ぢかづく、な……ッ! 遠ぎょりがら、殺、ぜぇぇええ゛――――ッ!」


 動くことはもうできないようだ。

 が、まだ叫ぶ余力は残っていたか。


「なんど、じでも! 二人を、ごろぜぇ……ッ!」


 麻痺に逆らう行動を取れば死に近づく。

 あれだとゲージがなくなる前の死もありうるか。

 その麻痺ゲージもまだ残っている……。



 ――ミシッ――



「ピッ!」


 ピギ丸の合図。

 俺の両目の脇あたりまで”根”が張っているのがわかる。


 この”根”の正体は、ピギ丸の一部。


 よし、



 



 この能力の問題点は二つある。


 一つはこの状態になるまで時間がかかること。


 もう一つは、発動中は俺のMPを常時バカ食いしていくことだ。


 顔まで”根”が侵蝕してくる点も、この変化に気づいた敵の警戒心を高めてしまう。


 ゆえにシビトとの会話中には使えなかった。


 目に見えてMPが目減りしていくのは確認済み。


 そのため会話前の発動は不可能だった。


 最悪、シビトとの会話中にMPが切れて気絶するかもしれないのだから。


 つまるところ魔物強化剤によって得られた”この力”は、超短期決戦用と言える。


 視線だけ寄越し、セラスが尋ねてきた。


「トーカ殿、そ、その姿は……?」


「安心しろ。これは、俺がピギ丸の力を借りてるだけだ。心配はいらない」


 後続の黒竜が上空に集結しつつあった。


 鼻を鳴らす。


「フン……連中、どうやら浮足立ってやがるな……」


 続々と追いついてくる竜騎士に先着組が何やら必死に説明している。


 最強のはずの五竜士が地に伏してるのも混乱に拍車をかけているはずだ。


 ま、そりゃそうか……。


 シビト・ガートランドが血の池の上で膝をついているなど、連中には想定外すぎる光景なのだろう。


「何を、じ、じでいる……っ? は、やぐ……ごろ、ぜ……ッ」


 シビトは大声を出せないほど弱っているらしい。

 あいつは麻痺状態でアレコレと無茶をしすぎた。

 消耗、しすぎている。

 もはや上空の竜騎士たちにシビトの声は届かない。

 見る限り、もう動ける様子はない。


「…………」


 さて――





「ピギッ!」


「セラス」


「は、はいっ」


「もし上から投擲物がきたら斬り落としてもらいたい。まだ生きてる五竜士への警戒も一応、頼めるか?」


「はい!」


 空を見上げ、剣を構えるセラス。


「お任せください」


 ニュルリッ


 俺の首の後ろから、何本もの突起が、次々と顔を出していく。


 ――ニュルン、ニュルッ、ニョロッ――


 他の人間から見たら、まるで俺から翼でも生えていくみたいに映るのだろうか?


 空に集結した黒竜騎士団の増援を、見上げる。



「それじゃあ――」



 魔素供給、



「完全決着と、いこうか」



 開始(スタート)



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