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ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで 作者:篠崎芳
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あるいは、うってつけの


 黒竜が飛び去った方角。

 竜の鳴き声。

 俺はこれらを追って森へ入った。

 そのため追跡は難しくなかった。

 走る速度。

 スタミナ。

 ステータス補正のおかげだろうか?

 共に、早期到着の助けとなった気はする。

 黒い鎧を着た男の下からセラスが抜け出す。

 複数対象指定は任意で対象除外ができる。

 なので彼女は麻痺にかかっていない。

 便利なスキルだ。


「ト――」


 言いかけてセラスは口を閉じた。

 俺の名を口にしかけたらしい。

 が、鎧の男に俺の名を聞かれるのを避けた。

 思考はちゃんと働いているようだ。


「その……まずは助けていただき、ありがとうございました」


 セラスが恭しく一礼する。


「間に合ってよかったな」


 言って、俺は黒鎧を見た。


「こいつが黒竜騎士団か?」

「ええ、バクオス帝国の竜騎士のようです」

「噂の五竜士ってやつか?」

「いえ、五竜士が率いる部隊の副長と名乗っていました」


 セラスが隣に立つ。

 俺は隣を一瞥した。


「何やら大変だったみたいだな」

「どうしてあなたは、ここへ来たのですか……?」


 セラスの視線は麻痺中の竜騎士と黒竜を捉えていた。

 一応まだ警戒しているようだ。

 俺は質問に答える前に、


「【ポイズン】」


 竜騎士に毒を付与。

 ひとまず非致死の設定にしておく。

 黒竜の方は致死設定に。

 毒が付与されたのを確認し、質問に答える。


「あんたのことは早速ミルズで噂になってたよ。逃走に至った経緯まで流れてきてた。こっちの方へ逃げたってこともな。で、俺はあんたを捜すために再びこの森に来た」


 セラスの表情が深刻さを増す。


「私が聞いているのは、そ、そういうことではありません。私がお聞きしたいのは――」

「待った」

「え?」

「【スリープ】」


 俺は重ねがけで竜騎士と黒竜を眠らせた。

 以後の会話に聞かれるとまずい内容が入るかもしれない。

 恥じ入るように、セラスが視線を伏せる。


「き、気づかずに申し訳ありません。込み入った話をするのなら対処が必要でしたね。あの、それで……どうしてあなたはここへ?」

「俺は護衛としてあんたを雇った。ミルズで得た情報から推察した限り、俺たちを裏切って逃げたわけでもなさそうだったしな。だから、迎えにきた」

「ピッ♪」


 ピギ丸が嬉しそうに続く。


「お、おわかりなのですか? 私とこのまま一緒にいると――」

「俺も黒竜騎士団に追われる、か?」

「そ、そうですっ。ですから今すぐここを離れてくださいっ。今のところあの男以外に、あなたの存在は感知されていないようですし……」

「あんただって例の幻術で顔を変えれば一緒に逃げられるだろ? それとも、今までのアレと違う顔は作れないのか?」

「作れますが……今は幻術を使う精霊が幻術破りの影響で混乱していまして。その状態がおさまるまで、使えそうにないのです」

「その混乱はいつおさまる?」

「……わかりません」


 セラスが懐から小袋を取り出した。


「申し訳ありません。護衛の件は破棄でお願いします。この青竜石は、お返しします」


 息をつく。


「破棄の理由は?」

「ですからっ――」


 胸に手をあてるセラス。


「私と一緒にいると、あなたも危険に晒されるのですっ」


 痛切な表情だった。


「正直言うと、面倒なんだよ」

「そ――そうです! 私と一緒にいると、面倒なことになるのです!」


 頭を掻く。


「そういう意味じゃなくて、だな」

「で、ではどういう――」

「あんた以上の条件の護衛を探し直すのが、面倒なんだよ」

「――――ッ」


 セラスは言葉に詰まった感じだった。

 わずかな間。

 次に、彼女は食い下がる気配をみせた。


「ミ、ミルズを北上すれば魔群帯へ辿り着く前にウルザの王都があります。そこなら腕利きの傭兵も雇えるはずです。高額な傭兵を雇うために青竜石を換金したいのでしたら、換金できそうな相手にも心当たりがありますから、お教えできますし……っ」


 やはり裏の換金ルートを知っていたか。


「なあセラス、この話はどっちに問題がある?」

「も、問題……?」

「契約破棄の理由だよ。問題はあんた側にあるのか、それとも俺側にあるのか」


 俯くセラス。


「……い、言うまでもなく私側の問題です」

「なら問題ない。契約は継続だ」

「は、ハティ殿!」

「ここで服を脱げ」


 セラスの時間が停止した。

 目をぱちくりさせるセラス。


「――え?」


 俺は背負い袋を降ろした。

 買ってきた女物の服を中から取り出す。


「サイズは少し違うかもしれないが、あんたの服を調達してきた。その服はもうミルズの連中の記憶に強く残ってるだろうからな。念のため、魔群帯へ入るまでは着替えておいてくれ」

「あ――そ、そういうことでしたか……」


 照れくさそうにするセラス。

 ん?

 ああ、なるほど。


「言葉足らずで混乱させたか。悪かったな」

「そうですね……少しばかり動揺してしまったのは、事実で――」


 ハッとするセラス。


「ま、待ってください! いつの間にか護衛契約を継続する流れになっていますが、私の抱えている問題は、あなたが思うよりずっと大きなものでっ……」


 苦しげに眠る竜騎士を見る。


「黒竜騎士団の強さについては一応聞いてる。この大陸で最強の騎士団なんだろ? で、あんたはその最強の騎士団に追われている。だから逃げて身を隠す必要がある……そうだな?」

「…………」


 少し踏み入るか。


「ヨナトへ行くを聞いても?」


 勘づかれていると観念したのだろう。

 やや口をつぐんだあと、セラスは打ち明けた。


「ヨナトの西端にある港から、西の大陸へ渡る船が出ているのです。ただ、その船に乗るのには大金が必要でして」


 なるほど。

 それで金貨300枚が必要だったと。


「てことは、聖勢とやらに参加するって話は建前か?」

「はい……嘘をついていて、申し訳ありません」


 驚きはない。

 建前はありうると思っていた。

 話を続ける。


「要するにあんたは、安全な場所に身を隠せればいいわけだろ?」

「そう、なります。それが私への――」


 胸もとの手をキュッと握りしめるセラス。


「あの方からの、最後の命令ですから」


 どこかにセラスの逃亡を手引きした人物がいたらしい。

 そんな口ぶりだ。

 まあそこはいい。


「そこで一つ、提案なんだが」


 俺はその提案を口にした。


「禁忌の魔女に匿ってもらえるかどうか、交渉してみるってのはどうだ?」


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