日本のみなさまにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか。わたしは元気です。
更新が滞るようになってもう2年近く経過してしまっている当ブログですが、7月末に久々に連絡フォームにメッセージが届いているのを確認しました。以下に転載します。
木野様
突然のメールで失礼いたします。私、ニューズウィーク日本版Web編集部の柾木(まさき)と申します。
今回お願い事がありましてご連絡差し上げました。
このたび『ニューズウィーク日本版ウェブサイト』では、海外にお住まいの邦人筆者による自由投稿形式のコーナー「World Voice」を新設することになりました。
現在の新型コロナウイルス流行など世界に共通する問題や各国各地の社会事象について、筆者の専門性をもとにした一人称の情報が集まるプラットフォームへと成長させていきたいと構想しています。
つきましては、デジタルガバメントでは世界をリードするエストニアで当地と日本に関する問題について独自の視点で考察されている木野様に、ぜひこの「World Voice」に執筆していただきたいと思いご連絡差し上げた次第です。
投稿については、直接こちらのブログシステムに入力・公開いただきます。
画像や動画・SNSの埋め込みやインフォグラフィックなどさまざまな発信の試みを歓迎します。
原則として公開前に編集者が確認することはありませんが、コンテンツによっては『ニューズウィーク日本版』のSNSアカウントによるシェア、ヤフーニュースなどへ二次配信をする場合もあります。
お願いしたい投稿の頻度は1ヵ月に2本以上。報酬は月に1万円となります。
お返事は私のメールアドレス(XXXXXXX)にご返信いただけますでしょうか。
突然のお願いではございますが、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
うーん。すでに自身のブログも更新停止状態だし、ニューズウィーク日本版とはいろいろ因縁(後述します)があるのでどうしようかなと思ったのですが、まあせっかくなので久しぶりに日本の読者向けに何か書いてみるのも面白いかなーと考え直して、引き受けることにしました。
契約書を交わし、編集氏と1か月と少しのやりとりと経て、ついに本日最初の記事を投稿したのですが、届いたのは以下の返答。
……記事の内容ですが、こちらがお願いしたWorldVoiceの趣旨とは大きく
外れております。編集部内で検討しましたが、これでは掲載することはできません。
(中略)
WorldVoiceの趣旨についてご理解いただけないということですと「覚書」第5条の5にある
「World Voice や本媒体の運営に著しい支障をきたす恐れがある」と判断せざるを得ないので、
参加を取りやめていただくしかないと判断いたしました。
内容の修正依頼でもなく編集部による改変でもなく、連載第一回目の第一稿を送ったところでいきなり「契約解除」だそうです。何が気に入らなかったのか……。
報酬については5,000円払うらしいのですが、せっかく書いた記事がもったいないので、こちらのブログにそのまま掲載することにしました。
(しかし、もう日本の雑誌やらWEBメディアやらはこりごりです。今後は一切の依頼を受け付けないことを堅く決意しました)
以下、「World Voice や本媒体の運営に著しい支障をきたす恐れがある」記事をお楽しみください。

(幻の連載ページ)
連載開始のご挨拶
読者のみなさんはじめまして。北ヨーロッパの小国・エストニアの首都タリンに暮らす日本人の木野寿紀といいます。
「エストニア」という国を知っている人は日本にどのくらいいるのでしょうか。今でこそ「政府が電子化されている国」だとか「選挙でネット投票ができる国」だとか、主に電子立国政策に関する面が認知されているようですが、わたしが移住した2015年の時点では、大多数の日本人にとってほとんど馴染みのないマイナーな国だったと思います。「旧ソビエト連邦から独立したバルト三国のうちの一国です」と説明してようやくなんとなくイメージしてもらえる、といったレベルの認知度だったことを覚えています。
そんな国に留学生として渡り、首都タリンにある国立大学で社会科学を専攻、学生生活をたっぷり楽しみつつ3年半で卒業したのち、現地の企業に就職して今に至る......というのがわたしのこれまでの経歴です。しかし、一部の記憶力のよい日本のネット市民たちには、木野といえばエストニア云々よりも「レイシストをしばき隊」の人、として知られてるのではないかと思いますので、そのあたりも説明しておきましょう。
「レイシストをしばき隊」(現・対レイシスト行動集団)は、2013年に結成された反人種差別団体で、「在日特権を許さない市民の会」などの人種差別団体のデモ行進や集会を妨害したり、差別主義者の個人情報を割り出して社会的制裁を加えたり、SNSでヘイトスピーチを行うネット右翼を攻撃するなどの人権擁護活動を現在も活発に行っています(主宰の野間易通が『実録・レイシストをしばき隊』(河出書房新社)という書籍にまとめておりますので、詳しくはそちらをお読みください)。わたしは結成当時からのメンバーで、日本を離れる直前までこの団体での活動を行っていたのでした。
わたしのエストニア移住後の2016年に「ヘイトスピーチ解消法」が成立するなど、われわれの活動も一定の成果を得たのですが、活動初期は頭が悪くて不勉強な倭マスコミどもにずいぶん誹謗中傷を書かれたものです。その筆頭が「ニューズウィーク日本版」の「『反ヘイト』という名のヘイト」(深田政彦・著、2014年6月24日号掲載)という、どうしようもないゴミクズ記事だったんですよね。「差別はいけないが、反差別を訴える勢力は下品だ。だから差別主義者より反差別運動の方が害悪である」という、いかにも2010年代の倭マスコミが書きそうな取るに足らない内容の文章なのですが、深田スルメロック政彦の馬鹿っぷりを弄りたいという方はバックナンバーに目を通してみるのも一興かもしれません。
そういった経緯があったので、今回ニューズウィーク日本版から「WorldVoice」への寄稿の依頼のメールを受け取ったときには、大変驚いたものです。ほんの数年前にめいっぱい不誠実の限りを尽くした相手に「寄稿のお願い」とは、お前らはいったい何様のつもりなのだと。深田のゴミ記事への嫌味をさんざん伝えた上で断ろうと思ったのですが、どうやら「近年のニューズウィーク日本版は、深田が書いていた頃と比べて論調がずいぶん変わった」という評判もあるようなので、とりあえずWEB版の記事にちょっとだけ目を通してみることにしました。
(寄稿の依頼を受けた2020年7月末当時の)トップページに表示されたヘッドラインのなかからとりあえずクリックしてみたのが、ジャミラ・ルミューというアメリカのコラムニストによる「抗議デモに参加した17歳息子の足元に新品の靴 略奪に加わった可能性が...」という人生相談コラムでした。
このコラムは本当に素晴らしくて、大いに心を打たれました。「BLMムーブメントの背景には何があるのか」「アメリカが現在直面している問題は何か」さらに究極的には「正義とは何か」といった重要な論点がごく短い文章の中に凝縮されていますので、みなさんもどうぞご一読ください。
これはニューズウィーク日本版が自前で用意したものではなく、米オンライン誌「スレート」から翻訳のうえ転載した文章のようですが(そういう提携を結んでいるのでしょうね)、それでもこれを日本語にして日本の読者に配信したのは偉いです。日本の人々の大部分は「正義とは何か」なんてことを考えたことすらなく、「法律を破ることは即ち悪である」「権力に逆らうことは即ち悪である」などといった稚拙な理解しか持ち合わせていないでしょうから、この鮮やかなコラムに対するネットの反応も相当荒んだものになっているのではないでしょうか(それこそ深田政彦クンが真っ先に発狂しそうな内容ですね!)。
そんなわけでニューズウィーク日本版をほんの少しだけ見直すに至り(とはいえ提携社の翻訳記事しか褒めるところがなかったわけですが、まあ良しとしましょう)、今回の連載の依頼も承諾する運びとなりました。これまでの経緯を考えるとさすがに深田政彦については馬鹿にせざるを得ず、連載第1回目の貴重なスペースを大きく割くことになってしまいました。次回からはエストニアでの暮らしをとおして見たこと・感じたことを中心に書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。