日産は2020年8月20日、日産の新たな幕開けに合わせ、木村拓哉さんをブランドアンバサダーに起用した。
8月22日から放映を開始した新TV CM「やっちゃえ NISSAN 幕開け篇」を皮切りに、さまざまな場面で、新しいブランドコミュニケーションを開始すると発表した。
8月22日から放映を開始したTV CM第1弾「やっちゃえNISSAN 幕開け篇」では、木村拓哉さんが往年の名車を乗り継ぎ、最後に新しい日産の象徴である「アリア」に乗り込むなかで、日産の挑戦の歴史とクルマへの情熱を力強く語る様子を描いている。
キャッチコピーの「やっちゃえNISSAN」は日産が持ち続けてきた「他がやらぬことをやる」という精神を、いま一度胸に刻み、新しい時代へと踏み出していく意味が込められているという。
注目は第1弾のTV CMに出てくる日産の名車達。KPGC10型スカイラインGT-Rをはじめ、初代サファリ、初代フェアレディZ(240ZG)、R32GT-Rの4台だ。
CMを見たけど、どんなクルマなのか、わからないという人たちのために、各車の魅力とともに、今いくらで買えるのか、モータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説する。
文/岩尾信哉
写真/日産自動車
【画像ギャラリー】キムタクが乗った”日産座間記念庫”に保存されている名車達
キムタクのCMに出てくるクルマは何?
プライベートでも個性の強いSUVやスーパースポーツを所有していることで知られる“キムタク”こと木村拓哉氏が、新たに「やっちゃえNISSAN」というキャッチコピーとともに、日産のブランドアンバサダーとして就任。日産の企業広告となるTV CMに登場するようになった。
映像も凝った演出が施されており、深夜から夜明けを待つというシチュエーションの設定のもと、1970年代から1980年代にかけて日産のラインナップを飾ってきた名車たちが姿を見せ、最後にはニューモデルとして発表されたばかりのアリアが姿を見せるかたちで結ばれている。
ところで“キムタク”のクルマに関するTV CMといえば、トヨタのイメージが強かった方も多いのではないだろうか。
1994年に公開された初代RAV4は懐かしい限り。近年ではカローラフィールダー(ステーションワゴン)がイメージに残っている。
フィールダーでは氏自身が特別仕様車の企画に参加するなど、クルマ趣味への拘りが見え隠れしていた。
9代目カローラの“初代”カローラフィールダーのCMキャラクターとして2006年から起用されてきた氏は、以降10代目(2006年)、11代目(モデル途中の2013年)と継続してCMキャラクターを務めてきた。
トヨタとの契約が切れたことは容易に想像されるが、同業種のライバル企業への“移籍”は珍しい話でもなく、今後どのような展開になっていくのか興味は尽きないところだ。
マックのCMに登場した日産テラノ
前振りではないが、つい最近では同じく木村氏がマクドナルドのドライブスルーのTV CMに、初代テラノに乗って出演している。ついでではないが、これにも少し触れておくとしよう。
日本での1980年代のRVブームに火をつけた初代テラノ(WD21型)は、日本市場では1986年8月から1995年8月まで生産されたモデル。
いまや“エッジ”だらけの現代のクロスオーバーSUVとは違って、スッキリとしたエクステリアデザインが時代を感じさせる。
メカニズムについては、フロントが独立のダブルウィッシュボーン/トーションバーとリアがダットサントラックから譲り受けた5リンク式リジッドアクスル/コイルを備えるなど、同時代のライバルとなったハイラックスサーフなどとともに、街乗りでの利用を意識したSUVの先駆けといえた。
パワートレーンを見ると、VG30型(140ps)/VGDE型(155ps)のガソリンV6とTD27型(85ps)/TD27T型直4(100ps、115ps)に5速MTと4速ATを組み合わせていた。
発表当初は3ドアのみだったが、1989年10月のマイナーチェンジで5ドア車が追加された。
初代テラノの中古車市場での価格は181.8万~333.9万円、平均価格は107.4万円と手頃感がある。なお、現在でも北米などの海外市場では「パスファインダー」と名を変えて販売されている。
名だたる4モデルが登場するTV CM
やや脱線したが、2020年8月22日から放映された、木村拓哉氏出演の第1弾TV CM「やっちゃえNISSAN幕開け編」の登場車種について、順を追って説明していこう。
少しだけ裏話を加えておくと、CMに登場する車両はどうやら神奈川県座間市の座間事業所(旧座間工場跡)にある日産ヘリテージコレクションから引っ張り出されたようだ。
公開されている日産の“記念車”には、日産の所有車とともに収集家やオーナーからの寄贈車も含まれる。
スカイライン2ドアハードトップ2000 GT-R(KPGC10)

TV CMの冒頭を飾るのは、闇に包まれたマウンテンロードを行く通称ハコススカ、2ドアハードトップのKPGC10型GT-R(1970~72年)だ。ちなみにリアフェンダーのみにオーバーフェンダーを装着するのが“正解”だ。
1969年2月~70年に販売された4ドアのPGC10型とともに、S20型DOHC直6(排気量:1989cc)を搭載したことが最大の特徴。
このエンジンは、レーシングマシンであるR380から受け継がれたGR8型直6を基本として、最高出力160ps、最大トルク18.0kgmを誇った(足回りはストラット/セミトレーリングアーム)。
日産の量産車としては最高レベルのプレミアが付くこのクルマ、ヒストリックカーとしてフルレストア車両では2000万円前後の値が付いている。
さすがに7500万円以上の価格が付くといわれるたった197台のケンメリGT-Rほどではないが、今後さらに値が上がっていくことが予想される。
初代サファリ(161型)
日産のクロスカントリービークルの先駆けである初代サファリは、海外市場では1965年から「パトロール」として販売されていた後に、1980~87年にかけて日本市場でも販売された。
ラダーフレームと前後リジッドアクスルのサスペンションはいかにもオフローダーとしての性能確保に留意した基本スペックを備え、現在でもトヨタのランドクルーザーとともに、海外市場ではパトロールとして活躍し続けている。
初代は3ドアショートボディと5ドアロングボディ、3ドアは車体後部にFRP製トップを与えたハードトップ、5ドアにはハイルーフが用意された。
1985年10月のマイナーチェンジにより、ヘッドランプが丸型2灯式から角型2灯式に変更(消防仕様車を除く)。TVCMに登場しているのは角形ヘッドランプだから後期型161型のはずだ。
国内向けには1.8L、直4SOHCガソリンNAのL18型(最高出力95ps)と、3.3Lの直6 OHVディーゼルのSD33型(同95ps)、後にターボのSD33T型(同120ps)が用意され、5速MT(海外市場には4速MTや4速ATも設定)と組み合わせていた。
なお、輸出仕様は2002年まで160型のまま継続生産されていた(主に日産車体で生産)。
TV CMで荒々しく渡河する(サファリだけは夜のイメージを与えられていない)、白のルーフにメインカラーが赤の2トーンボディはいかにもクラシカルだ。
残念ながら、中古車市場でも初代サファリはほとんど出回っておらず、価格が確認できなかったほどのレアモデルになってしまっている。
フェアレディZ 240ZG(HS30型)
TV CMで夜のテストコースを疾走するのは、輸出仕様に設定されていた2.4L(2393cc)のL24型直6(150ps、20.5kgm)を日本仕様でも採用した(1971年11月発表)、240ZのなかでG(グランド)ノーズとオーバーフェンダーを装着したフェアレディ240ZGだ。
初代Zは1969年10月の東京モーターショーで登場。現在に至るまでのフェアレディZの歴史を飾るモデルのひとつである。
初代Zは、240ZGを含めて、すでに先に登場した箱スカGT-Rとともに稀少車の世界に踏み込んでいて、それこそ500~1000万円という値段が付いているが、S30では箱スカGT-RとともにS20型エンジンを搭載する432とともに、プレミアモデルとなった。
CM映像では特徴的なノーズとヘッドランプとともに横姿を捉えていて240ZGならではの魅力を上手く表現している。
スカイラインGT-R(R32型)
3代目R32型GT-Rは1989年5月に発表(生産は1989年6月~1994年12月)、GT-R伝説の復活を遂げた。
RB26DETT型DOHC直6ツインターボエンジンの最高出力は280ps、最大トルクは36.0kgm。
このパワーをスーパーHICAS(4輪電子制御操舵システム)や基本後輪駆動のアテーサET-S(電子制御トルクスプリット4WD)を装備、グループA時代のモータースポーツでの活躍は言うまでもないだろう。
中古車市場を見ると、価格は430.5万~529万円と高止まっており、平均価格は386.7万円。
なかには1000万円レベルの高価格車両も存在するなど、1994年12月に生産終了して30年を経た現在でも人気の高さを窺わせる。
映像イメージでのトンネル内などでの疾走感はR32GT-Rならではのものと感じ入ってしまう。オヤジのツボを巧みについている。
アリア
夜明け前の映像としてTV CMのトリを飾るのが、2020年7月に正式発表された日産の新たな電気自動車(EV)であるアリアだ。
2021年中盤の発売が待たれるアリアは、先んじて日本市場で発表されたコンパクトEVであるホンダeには日本市場での導入時期で後れを取ったものの、こちらは欧州では激戦区といえるミドルクラスに投入される(当然500万円“から”と予定価格は高めの設定)。
EVでは、ことさら一充電航続距離が注目されがちだが(最長公表値は610km)、1モーターで前輪、もしくは2モーターで四輪を駆動するシステムと4輪の制動力と前後駆動力の制御によって生み出されるシャシー性能がどれほどのポテンシャルを備えるのか注目される。
65kWh仕様と90kWh仕様があり、それぞれに2WDと4WDが設定される。65kWh仕様の2WDは160kW(217ps)、300Nm(30.6kgm)、もっともハイパワーの90kWh仕様の4WDだと実に290kW(394ps)、600Nm(61.2kgm)という高出力。航続距離は仕様により430~610kmとなる。
日産は先の決算発表会で「A to Z」として、アリアから新型Zに至るまでの近い将来のニューモデルの発表を謳っている。
日産がブランドイメージを再び構築するうえで、全力を傾けていく必死の思いが、このTV CMから伝わってくることは間違いない。
後はこの先登場してくるニューモデルが、日産ファンの心を捉えられるかどうかに注目したい。