「原発はトイレなきマンション」のいい加減な批判に徹底反論する!

『奈良林直』

読了まで8分

奈良林直(北海道大学大学院特任教授)

 小泉元首相が、高レベル廃棄物の埋設処分を行うフィンランドのオンカロに行ってから、自分のシンクタンクへの寄付を断られた腹いせとのうわさがあるが、「こんなもの出来っこない」とばかりに高レベル廃棄物の処理を困難視して、いきなり脱原発を唱えだしている。しかし、素人の考え休むに似たりである。

 小泉元首相の知識の想定外と言えるほど、我が国も世界の技術も、ずいぶん進んでいる。原発の議論をすると、必ず放射性廃棄物の問題を持ち出してくるが、フィンランドやスウェーデンなどはかなり着実に技術開発を進めて、国民への理解も進んでいる。原発は「トイレなきマンション」だとか、「廃棄物を地下深くに埋設し、10万年もの間、保管しなければならない。これは子孫に対する冒涜だ」と批判されているが、まず、このあたりの誤解をわかり易く解説する。この点を明確に説明し、これが技術的に解決できると示すことが、原発に対する理解を得るためにも必要と思う。

 使用済核燃料の処理法は、4つある。まず、①キャスクという容器に使用済み燃料を入れて、そのまま保管する方法と、②再処理してプルトニウムとウランを分離し、メルターという装置で電気を流してガラスを溶かし、高レベル廃棄物を均一に混ぜて、キャニスターというステンレス製容器に流し込んで固化体するもの、そして、③高速炉で毒性の高いアメリシウムなどを消滅させてから、ガラス固化体にする方法がある。保管期間でいうと①が10万年、②が2万年、③が300年となる。政府が「もんじゅ」を廃炉にすると言っているが、これは世論迎合もいいとこで、まったくの誤りだ。
高速増殖原型炉もんじゅ=福井県敦賀市
高速増殖原型炉もんじゅ=福井県敦賀市
 「もんじゅ」の役割は人類2500年のエネルギーを供給可能とする技術開発と、高レベル廃棄物の削減と保管期間の大幅短縮になる技術の2つがあり、まさに一石二鳥の優れた技術で、既に技術的には十分実用化可能な範囲にある。④は、加速器の中性子ビームで、高レベル廃棄物を無害化するもので、現代の科学技術を持ってすれば、原理的に可能であるが、ビームを発生する装置とその運転コストを考えると、捨てるゴミに大金をつぎ込むことになり、経済性が全くない。

 中性子ビームで無害化するには、核融合炉が実用化する100年後くらいまで待っていればよい。核融合炉のブランケット(毛布)として、外周に並べておいて核融合反応で漏れてくる中性子を使えばよいのだ。いずれ人類の知恵が解決する。

 なぜ、我が国の使用済燃料の再処理技術の開発に時間がかかったかについて説明する。原子炉の中で燃料が燃えていく間に白金族というプラチナの親戚みたいなものがたくさんできる。それらは不溶解残渣(ざんさ)としてメルターの下の方に沈殿してたまってしまう。メルターは電気を流してガラスを溶かす(メルトさせる)装置である。ここに電気を通すと白金などの金属のほうに電気が流れてしまって、ガラスが均一に溶けない。このことが安定的な運転ができなかった最大の理由である。

 フランスの再処理施設についていた不溶解残渣を取り除く沈殿槽を省略してしまったことがつまずきのもとで、気付いた時点で追加すべきであったが、国も地元自治体も「計画通り」の開発を要求したため、産みの苦しみとなってしまった。フランスの場合には、沈殿槽を使って白金を沈殿させ、残りの部分をガラスと混ぜる。ところが、日本ではコストダウンのため、この沈殿槽を省略してしまった。原子力研究開発機構の東海村の小型の研究施設では上手く行っていたのだが、大型化すると不均一になりやすいにもかかわらず、不溶解残渣と高レベル廃棄物の溶液を分離しないで、いっしょに投入するといういささか乱暴な処理装置にしてしまったのだ。

 沈殿槽を省略した形で計画書を出し国の認可を得ているので、後になって、やはり沈殿槽を設けたほうがよいとわかって、「日本原燃が沈殿槽を設置させてください」と言っても、地元も国も認めない。オリジナルの「計画どおりにやれ」というわけで、ずっと苦労しながら、試行錯誤を繰り返し、沈殿槽なしで白金も一緒に混ぜながら処理する技術の開発に何年もかかってしまったのである。

 次に、ガラス固化体がなぜ良いかについて説明する。鉛ガラスという放射線の遮蔽能力の高いガラスがあるが、これは金属の鉛を高温のガラスに均一に混ぜてできたやや黄色の透明なガラスである。鉛が均一に溶け込んで透明になったガラスなので、放射線の遮蔽能力が高く、放射能が非常に高い施設の窓ガラスに使われている。この鉛ガラスの鉛の代わりに、高レベル廃棄物や不溶解残渣をガラスに溶かし込んで「キャニスター」と呼ばれるステンレスの容器のなかに流入させる。透明なガラスがステンレス容器のなかで固まり、極めて安定した「ガラス固化体」ができる。

 フィンランドやスウェーデンでは、使用済み燃料をそのままステンレスや銅のキャスクと呼ばれる容器などに密閉して、地下300m以下の深地層に保管するが、使用済み燃料の被覆管などの腐食が進むと、キャスク内に放射性物質が漏れだし、キャスクも次第に腐食していくので、途中で掘り返せるようにとの要求もついてしまった。ウランの鉱脈レベルにもどるまで10万年かかるので、その間の保管に一抹の懸念があるという主張だ。

 そもそも高レベル廃棄物は、最初は放射能が非常に強いのであるが、再処理して、半減期の長いウランやプルトニウムなどを取り除くと40年で千分の1、150年で1万分の1になる。8百年で10万分の1、 3千年で百万分の1である。いつまでも減らない地球温暖化ガスと違って、どんどん減衰して毒性が低下していくのである。それでも、ウラン鉱石と同じレベルになるのは2万年といったオーダーになるから大変だが、300年ぐらいなら、江戸時代からある老舗もあるので、ガラス固化体もきちんと管理できると思う。空冷であれば、すでに鉄筋コンクリートの建屋のなかで、安全に保管されている。

 私は1千分の1になるまでの40年間で、しっかり方向性と地元理解を得るように議論すべきと思う。その議論をしながら、再処理と高速炉の技術を堅持して、埋設処分の技術をしっかり開発するのがよいと思う。

 高レベル廃棄物の埋設処分場の候補地の選定も必要である。筆者は、スウェーデンの岩盤研究所ASPO(エスポ)を訪問した。使用済み燃料を収納した大型トレーラーがらせん状のトンネルをぐるぐる回りながら、地下450mまで降りていける。地下には、トンネルが枝分かれしていて、大きなキャスクを岩をくりぬいた穴に差し込んで、岩石と粘土で蓋をする。このための大型のマシンがすでに開発されている。我が国のトンネル技術とロボットなどの遠隔操作技術を以てすれば、今、すぐにでも建設が開始できる。
使用済み燃料を入れた容器をトンネルの穴に挿入する作業マシン=スウェーデンの岩盤研究所
 日露平和条約を締結したら、北方領土を経済特区とし、長年の運転実績があるロシア型の高速炉を建設する。日本に向けて送電するとともに、高レベル廃棄物の削減と保管期間の短縮を可能としたうえで、高レベル廃棄物の埋設処分場も建設すると良い。六ケ所の再処理施設とも比較的近いし、高速炉の使用済み燃料を処理する第2再処理工場を建設するのも良い。福井県にはシンもんじゅを建設し2つの炉型で、徐々に高速商業炉の稼働を高めていく。

 高速炉は我が国の年間電力売り上げ20兆円を2500年にわたって供給できるので、5万兆円(5京円)の価値がある技術開発である。高レベル放射能を減容して、保管期間を大幅低減できる。我が国の骨太の活力ある社会の未来への存続に向けて1兆円や2兆円の投資にガタガタ言うなと言いたい。冷静に考えれば、全て実現可能である。

この記事の関連テーマ

タグ

核のごみ、小泉純一郎の放言はここがおかしい

このテーマを見る