日経支局に警察 香港の“大陸化”に懸念
2020年9月5日 07時21分
香港警察の捜査員が裁判所の令状を持って日本経済新聞社の香港支局を訪れた。香港民主派の逮捕と関係があるとみられる。“大陸流”の言論統制が香港でも現実のものになったことを懸念する。
香港紙の報道によると、民主化運動リーダーの周庭氏や民主派寄りの香港紙・リンゴ日報創業者の黎(れい)智英氏が香港国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕された八月十日、警察官三人が日経香港支局を訪問した。
反政府デモが頻発した昨年、周氏が所属する民主派団体・香港衆志(六月に解散)が国際社会に支援を訴えた意見広告を日経が掲載した。日経側は訪問理由を明らかにしていないが、保釈中の周氏は一日、記者団に「逮捕された際の取り調べで意見広告を容疑の証拠として示された」と明かした。
香港警察は地元メディアに「令状により(日経に)資料提出を命じた」と述べたが、外国の言論機関にまで圧力をかける行為とみるほかないだろう。
香港警察は黎氏を逮捕した後、リンゴ日報本社を家宅捜索した。「一国二制度」の下で香港で保障されてきた「報道の自由」はすでに崩壊の危機にあった。
今回、干渉が外国メディアにまで及んだことで、内外を問わず露骨な統制に乗り出す香港政府の姿勢が明らかになった。メディアを単なる「宣伝機関」としか見ない大陸流の報道統制に近づくあしき一歩である。
中国政府は憲法で「言論、出版、集会等の自由」を保障しているが、国家や社会の合法的権利を損なってはいけないとの理由で、報道統制を正当化してきた。
特に、習近平国家主席は二〇一六年、国営新華社通信などを訪問し、「党と政府の意見を代弁すべきだ」と述べ、メディア統制強化を指示した。その後、中国公安当局が本紙を含む一部外国メディアの大陸の支局を突然、訪れる事態があった。「雑談」が名目であったが、自由な報道に対する威嚇効果を狙ったものに映る。
今や香港がメディア統制の最前線となったが、中国に返還された香港が国際貿易都市として輝き続けてきたのは、民主を支える言論の自由が健在だったからである。
国安法はまさに、中国共産党や政府を批判するような自由な言論を封殺する目的で制定された。
黙って見過ごせば、アジアの民主主義の重要な拠点であった自由な香港は完全に葬り去られる。
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