気になる病気・症状
職業性肺疾患の症状、塵肺症、じん肺症の予防と治療
化繊肺は、合成繊維の吸入によって起こる慢性的な肺疾患です。
合成繊維は、石油を原料としてつくられているものが多く、線維の種類も実に様々です。線維の種類には以下のようなものがありますが、これらの化繊繊維を加工する段階で発生した粉塵を長期に渡って吸入することで、化繊肺になると言われています。
1.ナイロン(ポリアミド)
2.ポリエステル
3.アクリル(ポリアクリロニトリルなど)
4.ビニロン(ビナロンとも)(ポリビニルアルコール系繊維)
5.ポリオレフィン (ポリエチレン、ポリプロピレンなど)
6.ポリウレタン
7.含ハロゲン系
この中でも、ナイロン製品の加工段階では、化繊繊維の粉塵を吸い込むことにより、化繊肺を起こしやすいと言われています。最近流行しているフリース生地を加工する工程(フロッキング)が、特に注意が必要です。
ナイロン製品加工工場で働く労働者の方は、細い気道の壁や気道と肺胞間質に、慢性的な炎症や瘢痕化を起こす可能性がありますので、微粒子マスクの着用や、定期的な健康診断(特に胸部レントゲン撮影)で、化繊肺の予予防や早期発見に努めることが必要となってきます。
化繊肺は、細かい線維の粒子が吸入されて肺に入り込むことで、安静時の息苦しさや労作時の呼吸困難が起こります。初期は自覚症状がほとんどありませんが、徐々に症状が進行して、アレルギー症状に似た気管支の狭窄症状が出現したり、咳や痰が増加したりします。
症状として
1. 鼻汁
2. 咳嗽
3. 喀痰
4. 労作時の息苦しさ
5. 目のかゆみや充血
化繊を吸引する環境から離れることで、症状が軽減することもありますが、慢性気管支炎へ移行する場合もありますので、継続的な経過観察が必要です。
自覚症状がある場合は早めに呼吸器専門医を受診し、化繊粉塵を吸引する環境で仕事をしていたことを説明し、検査を受け、副腎皮質ホルモンによる治療などを早めに受けることをお勧めします。
人体への悪影響って?スズの粒子を吸いこむことで起きるスズ症
特定の物質の粉じんなどを吸入することで、肺のX線画像に異常所見を認める場合があります。しかしこれらの物質の場合、肺の内部で大きな反応を起こすわけではなく、じん肺特有の呼吸器症状や肺機能の低下を起こすことはありません。
酸化鉄を吸いこむと鉄塵肺症を、バリウムを吸いこむとバリウム症を、スズの粒子を吸いこむとスズ症を発症します。
スズ症
スズは炭素族元素の1つであり、銅の合金として古く青銅時代から利用され、生活の中で多用されているものです。
スズの生体内への侵入経路は、経口、経気道、経皮膚の3通りがありますが、有名な物にスズ加工時のスズ粉塵を吸入することによる、良性の塵肺症であるスズ肺が知られています。
スズ肺は胸部レントゲン写真の所見では異常として認められますが、これといった呼吸器症状がないため、特に治療は必要とはされていません。
普通に日常生活を送っていると、スズは人間の体内に大部分が食物、水と共に経口的に摂取されますが、その大部分(約90%以上)は腸管から吸収されず、尿によって体外に排泄されます。
その他、有機スズを除く通常のスズ化合物によるヒトの中毒としては、高濃度のスズを含む缶詰飲食品による急性胃腸炎が知られています。
スズの人体への影響
有機スズ(トリブチルスズやトリフェニルスズ化合物)に関しては、防汚または酸化防止を目的として魚網や船底の塗料に大量に使用されており、このような有機スズは、人体に吸収されると副腎皮質ホルモン関連遺伝子に悪影響を及ぼすともされており、近年問題視され、厳しい使用規制が実施されています。
このように、スズは塵肺症においては呼吸器症状を出現させないということで良性として扱われていますが、人体に有害であることは否定できません。
可能であれば粉塵に暴露される環境からできるだけ早めに回避し、自身を安全な環境に置くことをお勧めします。
疑わしい症状が出たら労災の申請を!石綿肺は労災の適応疾患です!
石綿肺は石綿に高濃度暴露することで発症するじん肺です。初期の病態は細気管支周囲から始まる線維化で、肺胞壁、小葉間隔壁、気管支血管周囲へと線維化が拡大し、最終的には蜂窩肺(肺が硬化するもので、間質の線維化と細気管支の二次的拡張により蜂の巣の様相を示す)となります。
変化は下肺野で強くおき、診断基準は次のようになります。
1. 石綿の高濃度の暴露歴(高濃度の石綿の塵肺を吸入していたという事実)
2. 下肺野を優位とするびまん性間質性肺炎
3. 間質性肺炎を呈する他の疾患の除外
以上3つを満たすことで診断がなされます。
労災認定統計では、石綿肺はじん肺症に含まれており、単独では認定条件が公表されていません。人口動態統計では石綿肺の死亡者数が公表されており、1996~2000年5年間では410人と報告されていますが、死亡診断書ではじん肺と記載されていることが多く、実際の死亡者数はこの数より多いと推測されています。
胸部単純レントゲン写真では肋骨横隔膜角付近の微細な線状影にはじまり、様々な所見が認められます。CT検査でも小葉内間質や小葉間隔壁の肥厚像などがみられます。肺がんを高率に合併するために、画像検査は非常に重要となります。
石綿を扱う際の労働上の注意は、石綿障害予防規則などに基づき、作業管理、作業環境管理、健康管理が厳格に定められていて、離職者には健康管理手帳が交付され、労災疾病と認定されれば、医療給付、休業補償、葬祭料、遺族年金が支給されます。
どちらにしても、作業に当たる際は厳重な注意が必要なことに変わりはありませんので、作業に携わる方は、自身の健康管理に十分気を付けて従事する必要があります。疑わしいと思われる症状が出現した場合は、躊躇せず、労災の申請を行いましょう。
炭鉱労働者などに起こるじん肺の一種‘黒色肺’の予防と治療
黒色肺とは、炭鉱労働者などに起こるじん肺の一種で、肺の内部に石炭の粉塵が入り込むことによって起こる疾患です。黒色肺は、石炭の発掘などに長期に携わり、石炭の粉塵に暴露されることで発症します。
黒色肺を発症してしまうと、他のじん肺同様、根治する治療法がないため、あくまでも予防が大切となります。
予防法として
1.粉塵の吸入を防ぐための防塵マスクを着用する。
2.粉塵が付着しにくい作業着を選ぶ。
3.排気装置を設置する。
…などがあります。
単純性黒色肺の場合、はじめは何も症状を起こしません。もともと喫煙者が多かったためか、血中の酸素濃度が低くても苦しいと感じない状態になっているからだという意見もありますが、これが発見を遅らせてしまう要因となっています。
この病気を患う方の多くは、喫煙者に多くみられる気管支炎や肺気腫などの気道の病気を合併することが多く、せきや息切れが起こりやすくなります。重症の進行性塊状線維症では、生活に支障を来すようなせきや息切れを起こすため、長期在宅酸素療法(long-term oxygen therapy;LTOT, home oxgen therapy:HOT)を必要とします。
長期在宅酸素療法:HOTとは
呼吸不全は呼吸機能障害のため室内空気呼吸時PaO2が60Torr以下となる状態を言います。この呼吸不全に対して、長期在宅酸素療法(HOT)が行われます。慢性呼吸不全に対しる酸素療法の目的は呼吸困難の軽減、QOL(生活の質)の向上、生命予後の改善とされており、じん肺などの肺線維症の方は実に多くの方がこのHOTを必要としていて、1日15時間以上の酸素療法は、酸素療法を行わない場合に比べて生命予後が改善することが明らかになっています。
10年以上炭鉱で働いてきた、もしくは長期間にわたって石炭の粉塵にさらされてきた人が、胸部X線画検査で肺に特徴的な黒色の斑点を示す所見が現れた場合、黒色肺と診断されます。
できるだけ早期に発見し、合併症予防のための治療や呼吸不全にならないための生活習慣の改善などが、その予後に大切となってきます。
塵肺の一種である珪肺(けいはい)の原因はシリカ粉塵の吸入!?
シリカとは二酸化ケイ素によって構成される物質のことを言いますが、ケイ酸、酸化シリコンなどとも呼ばれる物質です。
本来シリカはそのままでは毒物ではなく、結晶性、非結晶性として様々な場所に存在しています。石英だったりガラスの原料となったり、シリカゲルとして乾燥剤として使用されているほか、生物の骨格として存在していたり、人体の中では毛髪や爪、血管や関節・細胞壁にも存在しています。ケイ素を含む食品として人体に摂取され、免疫力を向上させたり、肌の保湿やコラーゲンの再生など、美容食品としても重宝されていたりするものです。
しかし、自然界に鉱物として存在しているシリカは、工事などで粉砕することで粉塵となり、これを吸入し肺に入れることで、一転、人体に悪影響を及ぼし、塵肺の一種である珪肺の原因となります。
珪肺が発生し、多数の死者をだした有名な事故として「ホークス・ネストトンネル事故」があります。これは、1930年代、アメリカ合衆国ウェストバージニア州南部のトンネル工事において約476名の鉱夫が急性珪肺によって死亡した有名な労災事故です。
トンネル工事中、不幸にも作業員たちがシリカ鉱石を発見するわけですが、本来粉塵化すれば有害物質だと知られていたシリカに対し、その採掘も命じられました。作業員らは掘削作業時に防塵マスクや呼吸用保護具を一切与えられずにシリカ鉱石の採掘を行い、これが原因で高濃度のシリカ粉塵にさらされたために、多くの坑夫が珪肺症を患い、死亡しました。
中には1年も経たないうちに亡くなるケースもあり、このケースは急性珪肺症の重症例が多発した事故として大きく取り上げられることになります。
シリカ結晶は、国際がん研究機関によりグループ1の「ヒトに対する発癌性が認められる」物質に指定されており、吸入しなければ問題は認められないにも関わらず、微粉末の吸入が問題とされる物質に認定されています。
現在は防塵マスクや酸素補助器具なしに作業を行うことは認められていませんし、工事の際、周辺に粉塵が飛散しないように水をまくなどの対策を講じることが必要だとされています。作業に当たる方には十分な注意が必要な物質です。
(Photo by:http://www.ashinari.com/2009/11/20-030544.php )
著者: カラダノート編集部