検証「安倍政治」 未完の外交 対米重視だけでよいか
2020年9月4日 08時04分
強い権力基盤に支えられた安倍政権は時間をかけて外交に取り組んだが、大きな成果は残せなかった。「過去最良」と評価される米国との関係を背景とした外交が、前進を阻んだ面はなかったか。
安倍晋三首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」をうたい、国際会議でも積極的に発言した。中東では独自の外交も展開、日本の存在感を一定程度高めた。
中でも旧民主党政権時代に冷え込んだ日米関係について「同盟の絆を取り戻す」と意気込み、オバマ前大統領の被爆地・広島の訪問につなげた。辞任を表明した会見で、これを実績として誇った。
しかし、唯一の戦争被爆国・日本は、米国の核の傘に入ったままだ。核兵器禁止条約には背を向けており、非核化を願う世界の人々を失望させている。
トランプ大統領とは会談やゴルフを重ね、「友人」として強い信頼関係を築いた。
ただ過度な対米追従は、足元を見られる結果になった。米国は、貿易赤字解消を要求、高額の防衛装備品購入などで応じざるを得なくなった。在日米軍の駐留経費負担も大幅増額を迫られている。
日本人拉致問題について安倍首相は「任期中に解決する」と約束し、辞任会見でも「あらゆる手段を取った」と強調した。しかし実際は、米朝首脳会談を実現したトランプ大統領に依存した。一方で圧力外交にこだわり、北朝鮮との直接対話は実現しなかった。
北方領土問題では、ロシアのプーチン大統領と二十七回会談を重ねたが、毎回「協議加速化」で合意する繰り返しだった。
途中から事実上二島返還に方針を転換したが、ロシアは応じるどころか「領土の割譲禁止」を明記した改正憲法を発効させた。日本側の一貫性を欠く対応によって、返還はいっそう遠のいた。
安倍政権下で、周辺国との関係は冷え込んだ。韓国とは徴用工問題を巡って険悪になっている。
発端は韓国最高裁の判決だが、安倍首相は国会答弁などで、刺激的な発言を行い、関係悪化に拍車をかけた面は否めない。
中国とは一時関係改善が進んだものの、中国公船による尖閣周辺への領海侵入が続く。米中対立が激化する中、日本は他の民主主義国家とともに足並みをそろえ、中国と向き合う必要がある。
後任の首相は、安倍外交を冷静に検証したうえで、外交政策を再構築すべきである。
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