K114.明治神宮・代々木公園の日中の気温分布(3)
著者:近藤純正・内藤玄一・近藤昌子
夏期の晴天日中の明治神宮・代々木公園における気温観測のまとめである。
神宮境内の北部にある広い芝地上を気温の基準とする気温差を用いて水平分布を表した。
明治神宮・代々木公園全域の気温差の平均値はマイナス0.5℃程度であり、顕著な森林クールアイランド
は観測されない。
詳細にみると、代々木公園は人工的によく整備された市民公園であり林内の風通しがよく、気温の場所に
よる違いは小さく、気温差は-0.6℃~+0.3℃の範囲にある。
これに対し、隣接する神宮境内の大部分は自然に近い森林であり、気温差は-1.3~+0.3℃の範囲に
あり、森林が密になるほど気温差はマイナスの値が大きくなる。
特殊な例として、大雨後の林床下の土壌が湿った日、及び雲の多い日には林内の気温上昇が遅れ、
結果として気温差は1℃ほど低温側にずれて、マイナスの最大値として-2.3℃が観測された。
気温差(マイナス値)は風速に依存し、自然に近い神宮境内の林内における気温差は風速が強い日
ほどマイナスの値が小さくなる。すなわち、風速が10m/s以上になると、林内と林外の気温差はゼロに
近づく。
(完成:2015年10月24日)
本ホームページに掲載の内容は著作物である。
内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用
に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。
更新の記録
2015年10月20日:素案の作成
2015年10月23-24日:細部に加筆・修正
目次
114.1 はしがき
114.2 林内気温を決める要因
114.3 気温の観測
114.4 気温差の水平分布・風下距離との関係
114.5 気温差の風速依存性
114.6 まとめ
観測協力者・機関(敬称略):
徐 健青
松山 洋・和田範雄
明治神宮
東京都建設局東部公園緑地事務所
代々木公園サービスセンター
114.1 はしがき
森林内は日陰が多く、風通しがよければ涼しく感じる。そのため、林内は実際の気温より低いという
ことが常識のようになっている。
これまでに行なってきた、東京都内(北の丸公園、新宿御苑、明治神宮・代々木公園)、つくば市内
(洞峯公園、農環研の森林)や、平塚市内の公園や防砂林などにおける観測結果によれば、林内の気温
は林外の広い芝地の基準点に比べて、ほとんどの場合、±1℃以内にある。この気温差は、放射影響の
大きい通常の気温計で観測する場合の誤差に匹敵し、正しい気温分布を知ることが難しかったと考え
られる。
気温観測の誤差
屋外での気温観測は簡単なようだが、とても難しい。市販の通常気温計では
1~2℃の誤差、極端な場合は5℃以上の誤差がある。この誤差を知らずに測定している
研究者たちは多い(「K98.自然通風式シェルターに及ぼす放射
影響の誤差」を参照のこと)。
気象庁や農業関係機関が用いている強制通風式の気温計でも、晴天日中は0.3~0.4℃ほど
の放射影響による誤差がある(「K99.通風筒の放射誤差(気象庁
95型、農環研09S型」を参照のこと)。
放射影響の大きい気温計を用いて森林内で観測する場合、日陰の少ない森林
外縁部では気温は高めに観測され、日陰の多い森林内部では放射影響は小さくなる。
その結果、見かけ上の気温分布として森林内部が非常に低温として観測されることがある。
新しい考え方
高精度気温計を用いた筆者らのこれまでの研究によれば、気温分布は
水平スケール30m~100m程度の局所的空間の風通し、及び地表面がアスファルト舗装
か芝地などの種類によって大きく異なる。それゆえ、都市ヒートアイランドや森林
クールアイランドについて、従来の同心円型の等温線を描く表現から、新しい表現方法
へと進化していくべきだろう。
すでに別章で示したように、樹木・建物など障害物近くの風速(風通し)は空間広さの
関数で近似的に表される。空間広さとは、観測点から周辺を見たときの樹木・建築物まで
の距離を X、樹木・建築物の高さを h、その仰角をαとしたとき、次式で表される。
空間広さ:X/h=1/tanα
現実の風向は時間変動するので、主風向の方位の±20°範囲で平均した空間広さを
用いる。長時間の場合は、風向が大きく変動するので、方位360°について平均した
空間広さを用いる。
空間広さについての詳細は、
「K57. 森林内の開放空間の風速」、
「K63. 露場風速の解析ー北の丸と大手町」、
「K64. 観測露場内の地物の仰角測量」、
「K75. 日だまりの気温―各地の観測結果」
などが参考になる。
空間広さ=1は、α=45°である。森林内では空間広さは 1 以下に相当し、空間広さ
を用いるのは適当でなくなる。それゆえ、森林内では見通しが良好か不良のパラメータを
用いる。
一方、林内気温を決める林床の放射環境を表すパラメータとして、「木漏れ日率」を
用いる。
林内外の気温差は林床の放射環境を表す「木漏れ日率」と「見通し」の兼ね合いに依存
する。風通しの良し悪しは、見通しと関係する。
次の「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」
をクリックして参照してください。その後、プラウザの「戻る」を押してもどってください。
東京都心部には比較的広い森林公園が数か所あり、それぞれの特徴をもつ。明治神宮境内
は大部分が自然に近い森林に覆われているのに対し、それに隣接する代々木公園は、
よく手入れされ、林内は見通し良好で100m以上の遠方まで見える。
図114.1 明治神宮と代々木公園の航空写真、方位の北は写真の上方向(カシミール、
電子国土空中写真より)。
代々木公園は南西部、明治神宮境内は北東部。明治神宮境内の北部に付けた赤丸印は
広い芝地に設置した気温観測の基準点を示す。
写真の下のほうを東西に伸びる道路「放射23号線」の南側は陸上競技場・屋外ステージのあるB地区
であり、今回の観測は北側A地区の森林公園を対象としている。
本章の目的
こうした特徴をもつ明治神宮・代々木公園について気温水平分布の特徴を明らかにし、
・ 森林公園内に設置されている気象観測所(例:北の丸露場)の管理指針
・ 快適な森林公園の管理指針
に役立てたい。
114.2 林内気温を決める要因
森林内外の気温は日射量・季節に依存する。季節変化については、続報でも示す予定であり、すでに
一部を報告してきた(「K101.森林公園内の気温ー北の丸公園と自然教育園」、
「K107.林内気温の日変化・季節変化、春~入梅期」)。
ここでは日射量の比較的多い4月~9月期の晴天日(快晴日または日射の多い薄曇日)を想定すれば、
林内の気温が林外に比べて高温になるか低温になるかを決める主な要因は次の5つである。
(1)林床の放射環境(日射量がいかほど届くか)
(2)林内の熱拡散(風通しがよいかどうか)
(3)林床面下の貯熱効果(雨後の土壌水分が多いとき地温・気温の上昇は遅れる)
(4)ボーエン比の気温依存性(気温の異なる春と夏で樹木による加熱効果が異なる)
(5)森林上の一般風速(強風時は気温が一様化される)
これらの要因を意識してデータ解析する。
次の「林内気温を決める主な要因(詳細)」
をクリックして参照してください。その後、プラウザの「戻る」を押してもどってください。
林内の日射量の分布はまだら模様であり、通常の方法では難しいが、筆者らは林内観測用の
日射計を用いて独特な方法で観測し、木漏れ日率と林床の日射量の関係をもとめてある
(「K113.林内の日射量と木漏れ日率の測定」)。
その結果によれば、両者は1対1の関係にあるので、簡単に目視できる「木漏れ日率」を
本シリーズ研究では用いている。
森林の規模としては森林公園や防風林を想定し、面積が100m平方~1000m平方程度の
森林を対象として、林内の見通しの良好・不良による気温の振舞いに注意する。
林床面下の貯熱効果については、晴天が続く条件と雨後の林床面下の土壌水分量が多い条件
における林内気温の違いに注意する。
ボーエン比の気温依存性については、春(4月、5月)に比べて夏(6月~8月)は気温が
高く、放射量が同じであったとしても、その配分比(ボーエン比=顕熱/潜熱)は
夏に小さくなり、森林の大気加熱効果は小さくなる。
強風時は鉛直・水平混合が盛んで、場所による気温の差は小さくなることが予想される。
114.3 気温の観測
気温は高精度の強制通風式気温計を用いて観測する。この気温計の総合的誤差(通風筒
に及ぼす放射影響を含む)は0.03℃程度である(「K100. 気温観測用の
次世代通風筒」)。
観測は原則として快晴日または直射日光の強い薄曇りの日に行なうこととし、1日の最高
気温が現れやすい時間帯の11時~15時までの4時間を原則とする。ただし、風向や天気など
の条件によって短縮することもある。
気温のサンプリングは20秒ごとに行ない、4時間の平均気温をもとめる。センサーは
Pt1000オーム、受感部の直径は2.3mmを用いている。
通風式気温計は伸縮棒(長さ0.85m~2m)の上端に取り付け、三脚に載せて気温は
自動記録する。通風筒の吸気口の地表面からの高さは1.5mとする。気温計の
うちの1台は広場基準点で、他は小規模芝地(日だまり)や林内で観測する。
気温差の定義:
林内と広場基準点の平均気温の差は次式で定義する。
気温差=林内気温-広場基準点の気温
広場基準点の気温とは、周囲が開けて空間広さが広い芝地上の気温である。
気温差がプラスのときは林内が高温、マイナスのときは林内が低温である。
明治神宮・代々木公園では、明治神宮境内北部の宝仏殿前の広い芝地(図114.1の赤丸印)、
または代々木公園のみの観測の場合は中央広場を広場基準点として選ぶ。
東京都心部の公園(北の丸公園、新宿御苑、明治神宮、代々木公園)にある広場基準点の
気温は、東京都心部の広範囲を代表する気温とみなしてよい。
本章では、2015年夏(6~8月)の観測のうち、
広場基準点の気温>27℃
の場合を解析する。ただし、後掲の気温差の風速依存性のグラフ(図114.4)では25.57℃の条件も含む。
114.4 気温差の水平分布・風下距離との関係
晴天日中の明治神宮・代々木公園の周辺では南寄りの風が吹くので、代々木公園の南縁を
風下距離ゼロの基準とし、気温差と風下距離との関係を見てみよう
(観測一覧は表114.1に示してある)。
図114.2の上図は気温差の水平分布である、ただし大雨後の気温差はプロットしていない。
下図は風下距離と気温差の関係であり、代々木公園(丸印プロット)と明治神宮(四角プロット)は
記号を変えてある。下図では大雨後の気温差も別の記号(紫色)でプロットしてある。
図114.2 夏の明治神宮・代々木公園における気温差の分布(広場基準点の気温>27℃)。
プラス:基準点より高温(℃)、マイナス:基準点より低温(℃)
上:気温の水平分布、赤丸印は日向、青四角印:林内、赤二重丸印:広場基準点
大雨後の観測値は上図にはプロットしていない。(方位の北は地図の右方向、1200mのスケールは
地図の下にある)
下:気温差と風下距離の関係、大雨後の観測は別記号でプロットしてある。
下図にプロットした大雨後の観測値に関して;
気象庁の北の丸露場では降水量63.5mm(16日)、14.5mm(17日)、0.5mm(18日)が
あり、その直後の7月19日に観測した4地点の気温差は-2℃前後となっている。
なお、7月19日の北の丸における11時~14時の日射量は3.16、3.30、3.22、3.03
MJ/m-2であり、十分に強い日射の条件である。
大雨後の7月19日を除外すれば、気温差の幅は1.6℃(-1.3~+0.3℃)であり、比較的に
小さい。これは高精度気温計を用いて得られた結果であり、新宿御苑で得られた気温差の
幅1.3℃とほぼ同程度の幅と言える(
「K109.新宿御苑の気温水平分布」を参照)。
気温差にプラスとマイナスがあるので、森林公園は林外より低温であるとは必ずしも
言えない。
今回の観測では、観測点は均等に配置されたものではないが、図114.2の下図のプロットから
明治神宮・代々木公園全域の気温差平均値を概算してみよう。
代々木公園の日向の平均値=+0.01℃、林内の平均値=-0.23℃
明治神宮の日向の平均値=+0.07℃、林内の平均値=-0.84℃
無樹木域は代々木公園:20%程度、明治神宮:10%程度である。
代々木公園北側A地区の面積は約45万平方メートル、
明治神宮境内の面積は約70万平方メートル、
を用いると、全面積平均の気温差≒-0.5℃となる。
図114.3は気温差は風下距離にほとんど依存しないことを示す図である。
前記の通り南寄りの風のとき、風下距離ゼロの基準は代々木公園の南縁を選んであるが、
明治神宮境内の森林に対して、風下距離の実質的なゼロは南鳥居の付近であり、図中の左端の
プロット(風下距離=250m)の実質的な風下距離は100m程度である。
明治神宮境内では、実質的な風下距離<100mでの観測は行なっていないが、新宿御苑では見通し
不良林の林端から風下距離30mにおいて9月5日に観測した結果によれば、密な森林の場合には30m
程度以上あれば、気温差は風下距離にほとんど依存しなくなると考えられる(続報参照)。
本シリーズ研究では、森林の規模として森林公園や防風林を想定し、面積が100m平方~1000m平方
程度の森林を対象としており、風下距離>30mでは林内の気温水平分布は鉛直1次元モデルによって
近似的に表現できると見なされよう。
図114.3 明治神宮境内で観測された気温差の風下距離依存性(大雨後と強風日を除く)。
マイナス値は、基準点より低温であることを意味する
表114.1 観測地点の風下距離、気温差、木漏れ日率、周辺樹木の平均樹高の表
(2015年6~8月、広場基準点の気温>27℃の条件のみ)
7月19日は大雨後の晴天日、7月22日は強風日(北の丸公園における風速=7.8m/s)
風下距離:図114.2の上図(地図)の下端に示す0mを起点とした風下距離、
気温差:広場基準点の気温を基準とした気温、プラスは基準点より高温
木漏れ日率:観測時間中の複数観測者による平均値
樹高:観測点周辺の平均的な樹高
場所の略称:(例)社務所N150は社務所の北方150mの地点、
六角休所N20は「六角の休憩舎」の北方20mの地点
月/日 場 所 時 刻 風下距離 基準気温 気温差 木漏れ日率 樹高
m ℃ ℃ % m
6/24 南門E60 13:00-15:00 40 28.11 -0.01 49 7
渋谷門E100 10 -0.13 9 15
六角休所N20 490 -0.56 10 15
小池E 330 -0.26 75 7
6/25 中央広場 12:00-15:00 410 27.28 -0.02 100 9
小池E 330 -0.11 68 7
御苑北口S30 540 -0.94 7 18
隔雲亭前庭 470 -0.18 65 15
西道曲がり 350 -1.16 4 25
林苑詰所 650 +0.17 65 18
社務所N150 930 -1.29 4 25
7/19 社務所N150 11:00-14:00 930 32.97 -2.29 17 25
林北端S100 950 -1.90 11 20
林苑詰所 650 +0.01 88 18
西道曲がり 350 -2.15 20 25
南鳥居N100 250 -1.63 6 20
7/20 社務所N150 11:00-15:00 930 31.28 -1.00 16 25
中鳥居N100 670 -0.27 11 22
御苑北口S30 540 -0.75 13 18
隔雲亭前庭 470 +0.25 69 15
菖蒲田休所下 560 +0.02 73 15
7/22 社務所N150 11-12:30/ 930 31.25 -0.49 17 25
小池E 14-15:00 330 -0.14 73 7
六角休所N20 490 -0.17 54 15
西門斜面上 210 -0.08 32 16
渋谷門E 10 -0.02 21 15
7/27 白休憩NE50 12:30-15:00 190 33.39 -0.60 12 18
丘の広場 90 -0.36 86 16
バラ園 60 +0.21 85 17
葬場殿跡NW50 180 -0.33 20 13
オリーブ広場 140 +0.19 89 17
8/22 社務所N150 13:00-15:00 920 31.25 -1.28 16 25
南鳥居N100 250 -1.43 11 20
御苑北口S30 540 -1.27 13 18
114.5 気温差の風速依存性
森林上空の一般風が強い日は、鉛直方向の混合が強く、林内外の気温の差は小さく
なることが予想される。
明治神宮境内で密な樹林の代表地点の一つと見なされる社務所の北方(略称:社務所N150)に注目する。
図114.4に示すように、気温差(マイナス)の絶対値は風速が強い日に小さくなる。
図114.4 明治神宮社務所の北150m(略称:社務所N150)の林内の気温差と風速の関係。
プロットは6月(22日、25日)、7月(19日、20日、22日)、8月(22日)の観測、「大雨後の晴」の
プロットは7月19日の観測である。
風速は北の丸公園の科学技術館屋上(地上高度=35m)の値、ただし明治神宮と北の丸
公園は離れているので、横軸の風速は11時~15時の4時間平均値である。
この図には、雲の多い日の観測値「晴(雲)」の条件の場合もプロットしてある。
「大雨後の晴」の条件では、林外の広場基準点の地温・気温の上昇は相対的に早いが、林内では
日射が弱く風速も弱いので、濡れた樹木の幹表皮と林床面下の土壌の乾燥化が遅れ、熱容量が大きい
ので、地温・気温の上昇は遅れる。その結果として、気温差は通常より1℃ほど低いほうにずれている。
114.6 まとめ
明治神宮・代々木公園で、快晴または日射量の大きい晴天条件における2015年夏の
正午前後の気温を観測し、広い芝地の気温を基準とする各観測点の気温差をもとめた。
(1)よく管理された代々木公園は林内の風通しがよく、気温の場所による違いは小さく、
気温差は-0.6℃~+0.3℃程度である。これに対し、隣接する明治神宮境内の大部分は
自然に近い森林であり、気温差は-1.3~+0.3℃の範囲にある。そのうち密な森林域
での気温差は-1℃前後(-1.3~-0.7℃)である。
観測点は均等に配置されたものではないが、図114.2の下図のプロットから明治神宮・代々木
公園全域の気温差平均値を概算してみると、全面積平均の気温差≒-0.5℃となる。
(2)大雨後の例外を除けば、最高温地点と最低温地点の気温差の幅は1.6℃で小さい。
この気温差の幅は新宿御苑で見出された1.3℃よりはわずかに大きい。
(3)大雨後の林床下の土壌が湿った日には林内気温の上昇が遅れ、その結果として気温差
は1℃ほど低温側にずれて、最低値として-2.3℃が観測された。
(4)樹木の無い日だまり地点では、春とは異なり、気温差は+0.2℃程度の小さな値で
あり、マイナスのこともあり、代々木公園の「丘の広場」で-0.36℃が観測された(図114.2上の
左上のプロット)。
(5)密な森林の場合、気温差は風下距離にほとんど依存しなくなると考えられる。つまり、
風下距離>30mでは林内の気温水平分布は鉛直1次元モデルによって近似的に表現できると見なされ
よう。
今後、林内気温の振舞いについて、鉛直1次元の数値モデルを用いて詳細に調べたい。
(6)気温差は風が強い日は小さくなる(図114.4)。
憩いの場としての森林公園
代々木公園や新宿御苑の木陰における盛夏晴天日における平均気温は、ビル群のある都心部の
広域代表気温に比べて0.5℃前後の低さである。快適な公園であるためには、風通しを良くして
体感温度を下げることである。
代々木公園の大部分は、樹木の根元から2m程度までの枝・葉はほとんど無く、
風通しは比較的によいほうだが、昔からこの公園に来ている人の話によれば、最近は樹木が
成長し、熱がこもるように感じるという。
樹木の樹冠部層で吸収された日射エネルギーの一部は、ボーエン比の
気温依存性にしたがって顕熱に変換されて大気を加熱している。この熱をよりよく発散
させるには、例えば樹高10m以上の樹木なら、根元から高さ3~4mまでの枝・葉が無い
ほうがよい。つまり、風通しをいっそう良くすることである。
さらに、林床面下の貯熱効果を大きくして日中の地温・気温の上昇を抑えるには、土壌
水分量を多くすることである。それには、林床の貯水能力を高めるように工夫することで
ある。部分的に現在実行されているが、例えば、林床に木屑を散布したり、落葉層を厚くする
ことが考えられる。