「失踪しようと思うんだけど、誰か仕事を紹介してくれませんか」-。日本国内にいるベトナム人が参加するフェイスブック(FB)のグループで、違法行為を示唆する投稿が常態化している。不法残留者への仕事のあっせんや預金通帳の売買などがやりとりされ、ネット上でコミュニティーを形成。専門家は、新型コロナウイルスの影響による失業など、支援の網から漏れた技能実習生や留学生が置かれた境遇の厳しさも指摘する。(那谷享平)
「各種銀行カード買います」「船の修理。給与1時間900円。偽造カード必要」
フェイスブックのグループ「ボドイ・コウベ・オオサカ」への投稿だ。約6千のアカウントが集い、投稿数は月に千件近い。ほとんどがベトナム語の文章で、承認されたアカウント以外は非公開となっている。
例えば、日本の金融機関の通帳を撮影した写真とともに「これと同じ名前の通帳を売って」と依頼する文章には、「同じ名前のカードを持っているが、買いますか?」と返信される。同姓同名が多いベトナム人ならではのやりとりという。
「アカウントの多くは留学先や職場から失踪したか、失踪を考えているベトナム人でしょう」と推測するのは、外国人労働者の問題に詳しい神戸大大学院国際協力研究科・斉藤善久准教授(49)。グループ名「ボドイ」とは日本語で兵士や部隊の意味という。「ベトナム戦争のゲリラのように、日本で潜伏して生き残るという意味を込めたのかもしれない」とも話す。
類似の「ボドイ」のページは公開、非公開を問わず多数あり、参加アカウント数が2万件を超えるものもある。盗品や偽造品など犯罪性が疑われる取引が取り上げられる一方で、日本語の知識など生活情報を交換する場でもある。
外国人労働者の受け入れを拡大する政府の方針もあり、ベトナム出身の実習生や留学生は増加。しかし、低賃金や長時間労働を理由にした失踪も社会問題化し、昨年は不法残留容疑でベトナム人実習生721人が摘発された。
斉藤准教授によると、ベトナム人の若者たちは日本の行政を頼れず、情報収集が同胞の集まるフェイスブックに限られる傾向にある。過酷な労働や低賃金、生活の困窮があっても、支援団体の相談窓口にたどり着けない若者がいるという。
今年はさらに新型コロナによる失業なども加わるため、斉藤准教授は「日本で修学や実習を断念しても、すぐには在留資格を失わず再チャレンジできる仕組みが必要」と提言している。