新型コロナウイルス禍の中、米国では「個人の自由」との関係で「着用しない権利」がトランプ米大統領の支持者を中心に一部で主張されるマスク。一方、日本では店頭で品切れになるほど多くの人が積極的にマスクを着用している。
また、コロナ感染の有無を調べる「PCR検査」については、検査に積極的な米国に比べ日本の検査態勢は不十分ではないか、と指摘されている。スウェーデンの「集団免疫戦略」をはじめ各国・地域のコロナ対策では、大きな違いがある。
着用を義務化するなど欧米ではなかなか定着しなかったマスク着用が、日本では強制なしに定着したのはなぜか。日本でマスク着用が受け入れられている理由を中谷内一也・同志社大心理学部教授の研究グループが調査した。それによると、マスク着用は、「他者や自身の感染予防」ではなく「ほかの人がマスクをつけているので自分もそうしたい、という思い」が一番大きな理由だった、という。
調査は3月26日から31日、インターネットで実施。調査対象は一般人1000人。マスク着用の理由をめぐり、「街中や通勤・通学時にマスクを着用する人を目にすると、自分もつけた方がいいと感じますか」「あなたがもし新型コロナウイルスに感染したら、症状は深刻なものになると思いますか」「あなたは、マスクを着用することで新型コロナウイルスへの感染を防げると思いますか」「感染した人がマスクを着用すると、新型コロナウイルスを他人にうつすのを防げると思いますか」「あなたは新型コロナウイルスに対して、何でもいいから、やれる対策はとりあえずやっておこう、と思いますか」「マスクを着用していると不安感を和らげられると思いますか」―の6項目のほか、「マスク着用の程度」を質問した。
これらの質問の回答を分析したところ、マスク着用は「他の着用者を見てそれに同調しようとする傾向と強く結びついており、一方、本来の目的であるはずの、自分や他者への感染防止の思いとは、ごく弱い関連しかない」ことが明らかになったという。
コロナ禍のマスク着用の最大の理由は「マスクをつけることで他者への感染を防ごうという意図はほとんどなく、自分の感染予防でさえ微弱な理由でしかない。主な理由は、他の人がマスクをつけているので自分もそうしたい、という思い(同調)だった」と結論付けた。
今回の調査結果を踏まえ、研究グループは「新型コロナへの各種対策行動を促すためには、人々の同調傾向を利用する手法(ナッジ)が有望であることが示唆される」とした上で「(このナッジ手法を)過剰に実施することは、お互いの監視を強化する窮屈な社会や、個人情報の拡散といった人権侵害を助長するおそれもある」と指摘している。