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 憲政史上最長となった安倍政権は、日本としては例の少ない「外交の顔」をつくった。

 しかし、それに見合うような成果は伴わなかった。数々の看板を掲げたものの、首脳の個人的関係の演出ばかりが上滑りした感がぬぐえない。

 次の首相が誰であれ、変わりゆく情勢をにらみ、日本の針路を描く作業が急務である。平和国家として戦後世界の秩序を守る堅実な外交を求めたい。

 安倍氏が一貫して内外に印象づけたのは、米国に寄り添う姿である。集団的自衛権の一部行使に道を開いた安全保障法制を強引に成立させたのも、日米同盟の強化のためとされる。

 だが、憲法解釈を無理やり曲げてまで追随した米国は、トランプ政権下で「自国第一」を掲げている。両首脳は「蜜月」ぶりで耳目を引いたが、その内実は、日本が米国製の武器を大量買いする一方、貿易交渉では不利を強いられる構図だった。

 地球温暖化を防ぐ協定やイラン核合意から離脱した米国は、もはや国際秩序の守り役とは言い難い。無極化世界ともいわれる中で、日本は何を基軸にするかが問われている。

 安倍氏は第2次政権発足直後の所信表明演説で、こう宣言した。「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった、基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していく」

 強権政治が広がり、モラルがかすむ世界にあって、普遍的価値観を共有する国々との連携を深めるのは、賢明な道である。ただ、残念ながら安倍政権の外交は行動が一致しなかった。

 隣国の領土を併合したロシアの首脳に、懐柔的な接近を重ねた。ここでも安倍氏は個人的な関係づくりに腐心したが、北方領土交渉は動かなかった。

 逆に疎遠だった相手が、韓国と北朝鮮である。いまや日韓関係は国交正常化以来、最悪といわれる。「最大限の圧力」から「条件なしの対話」へと急転換した北朝鮮政策は、拉致問題を含め何も進展しなかった。

 台頭する中国が米国と覇を争い、経済と安保が絡み合う時代である。対米一辺倒という「戦後レジーム」を墨守した安倍外交の功罪を見つめる時だ。

 これからの世界で求められるのは、特定の大国の指導力ではなく、多国間で安定を維持する枠組みの強化であろう。そのためのルール形成に、日本は本腰を入れる必要がある。

 米国が離脱したのちも、環太平洋経済連携協定(TPP)を発効させたのは、自由貿易の原則を守るうえで評価できる。平和と人権、民主の理念を貫き、多国間協調の先頭に立つ日本外交の構築が目標となろう。

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