菅氏出馬表明 「派閥政治」の復活では
2020年9月3日 07時36分
菅義偉官房長官が自民党総裁選への立候補を表明する前から、党内各派閥が続々と菅氏支持を表明し、総裁選の行方が決まる。これではかつて自民党の弊害とされた「派閥政治」の復活ではないか。
安倍晋三首相(自民党総裁)の後継を決める総裁選は八日告示、十四日投開票の日程で行われる。一昨日の石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長に続き、菅氏がきのう立候補を表明し「安倍政権の取り組みをしっかり継承し、さらに前に進める」と述べた。
総裁選は全国百万人を超える党員・党友の投票は行わず、国会議員三百九十四票と都道府県連代表各三人の百四十一票で争われる。細田、竹下、麻生、二階、石原各派が菅氏支持を表明し、菅氏がすでに圧倒的優位に立つ情勢だ。
各派閥が、菅氏から立候補の意向や理念・政策を聴取し、政策協定を結ぶなどした上で支持を決めるのであれば、まだ理解できる。
しかし、公には立候補の意向すら明らかでない段階で支持を早々に決めたことは、勝ち馬に乗り遅れまいとする「派閥の論理」優先と指弾されても仕方がない。
「カネとポスト」を牛耳った自民党の派閥は金権腐敗の温床とされ、政治改革の俎上(そじょう)に載った。
政党交付金(助成金)と衆院への小選挙区制の導入という「平成の政治改革」で、権力や権限は首相官邸や党執行部など政権中枢に移り、派閥がかつてのような政治力を失ったのも確かだ。
しかし、今回の総裁選での動きを見ると、派閥が復活しつつあるのでは、という危惧を覚える。
菅氏は現在派閥に属していないが、史上最長の安倍政権を官房長官として支えてきた。各派閥には菅氏を支持して緊密な関係を築けば、ポストなど政権の果実にありつけるとの思惑もあるのだろう。
理念や政策で判断するのならまだしも、これではとても「政策集団」を名乗るわけにはいくまい。
総裁選は、政策論争を通じて、七年八カ月にわたる「安倍政治」を検証する機会だが、政権の継承を掲げる菅氏の優位が早々と決まってしまっては、実のある論争となるのか、甚だ疑問だ。
石破氏は「納得と共感」、岸田氏は「分断から協調」を掲げ、安倍政治からの転換を主張する。菅氏はそうした問題提起から逃げずに、正面から向き合うべきだ。
限られた時間だが、政策論争に力を尽くすことが、投票機会を奪われた党員・党友、そして国民に報いる、せめてもの道である。
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