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転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります(旧:悪役令嬢は引き籠りたい) 作者:フロクor藤森フクロウ
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夢見る少女②

 レナリア編その2

 ますますやヤバい人間っぽいヒロイン()。もはや自称ヒロイン。

 次はもっとやべー性格が露呈します。



 ジュリアス・フランは靡かなかった。

 どんなにレナリアが笑顔で話しかけても、従僕然とした態度を崩さない。プライベートは絶対教えないし、当然主人であるキシュタリアの情報も漏らさない。

 常に読めない笑みを張りつかせ、踏み込むなといわんばかりだった。眼鏡の良く似合う知的な美貌にうっとりするものの、期待した反応が得られないのはつまらない。

 キシュタリアやミカエリスのように露骨に追い払おうとしないので、まだ脈があるだろう。お菓子をプレゼントしたら、笑顔で受け取っていたし――キシュタリアやミカエリスにも、と渡したので上手く行けば一気に攻略できる。

 思った以上に裏キャラクターの攻略は難しい――だが、キシュタリアを落とせば当然、その使用人のジュリアスは自動で手に入るといっていいだろう。アルベルティーナがいないお陰で、ジュリアスはキシュタリアの従僕として学園にいることが多い。

 やはり、本来なら最短3週目以降のキャラクターなのだから落とせないのかもしれない。


(それに、ジュリアスってどんなに顔が良くても今は使用人だしね。あ、それなら愛人にしちゃえばいいんじゃん。もともとアルベルティーナの御手付きみたいなのはちょっと気に食わないけど、あんな美形ほっとくのはもったいないし…)


 一度、ラティッチェ公爵家の別の使用人を見かけたけど、余り好みじゃなかった。

 なんというかぱっとしない。背がレナリアと同じくらいで、顔立ちは整っているけど、華やかさがないのだ。もっとわかり易くイケメンな方がレナリアの好みだった。

 あまりこちらでは見ない浅黒い肌に、艶のない黒髪。綺麗な黒髪なのだが、まるで光を吸い込むような独特の漆黒だった。小柄な体躯できびきびと動く少年だった。ただ、全く物音を立てないので黒猫のような不気味さがあった。

 続編である2~3年後設定ならストライクゾーンではあっただろうが、今の姿ではレナリアには食指が動かなかった。顔立ちは整っていたが、若いというか幼い。

 それと同じ理由でカインも余り好みではない。呪いの影響で成長が止まっている彼は、真実の恋をすれば呪いが解ける。事実、最初あったころは明らかに幼い子供のようだったが今は12~3歳ほどに成長した。彼のルートのエンディングにはレナリアと同年代の美少年となるはずだが、ハーレムルートだとエンディング時点でも幼いままなのだ。

 正直、呪いを気にしすぎて必死なカイン。依存的なカインの相手は面倒だし、やっぱり一番好みはルーカスだ。そこそこに相手をして好感度は保っておこう。

 ルーカスは順調に攻略できている。アルベルティーナ不在のイベントは、ビビアンにやらせればいいことだ。アルベルティーナ程攻撃的でない。だが、ビビアンは常日頃からレナリアにマナーだの作法だのと小姑のようにうるさかった。学校は平等なのに、会話の順番やカーテシーの姿勢や深さなどをネチネチ五月蝿いのだ。鬱陶しくて仕方なかった。それなのに周りは助けてくれないし、それどころか嘲笑や失笑すら漏れる。いじめだと教師であるフィンドールに泣きつけば、学園に報告するとは言ってくれたが周囲の様子は一向に変わらない。

 役に立たない大人である。同年代にない色気は気に入っていたが、どうもレナリアの思う通りに動いてくれない。やはり第一王子のルーカスが一番レナリアの望む結果をくれる。

巧くレナリアがルーカスをけし掛けてイベントを起こさせた。激しく叱責されるビビアンが悔し気にうつむく姿は胸が空いた。だが、やはり本家のイベント程攻略対象との距離がぐっと縮まる気配はない。


(そうだわ! 課金アイテム、ここにもないのかしら!)


 確か、商店街や繁華街のある一角に魔道具屋がある。その裏路地でややさびれたところに居を構えているはずだ。

 確か、そこでは好感度大アップアイテムが購入できるはずだ。

 問題は資金。ルーカスたちからドレスやアクセサリーを貰っているので、だいぶ身なりは整えられた。でも、現金はあまり持っていないのだ。そもそも、前世で課金するときはサンディスライトの個数だった。はっきりいって、超がつくほど高級な魔宝石である。レナリアに入手は難しい。宝石にならない濁った色の屑石なら、魔石として多少は流通しているがそれでもやはり高価なのだ。

 だが、覗くだけならただである。購入はせずとも、品ぞろえを見るだけでも意味がある。

 さっそくレナリアは学園が休みの時に街へと急いだ。

 魔道具屋だと思っていた場所は露天だった。襤褸布で作られたテント。粗末な棚を置いている。それ以外は地面に布を敷いて広げている。

 怪しげな老婆とも老人といえる白髪の店主が、やはりゲームと同じく怪しげな仮面をつけた顔をこちらに向けた。

 並んでいる商品は、やはりキャラクターに贈ると好感度の上がる課金アイテムだ。

 商品に何が並ぶかはランダムだ。なので、一期一会の可能性がある。値札を見れば、サンディスライトではなく貨幣の単位で書いてあった。銅貨で払えるものもあれば、銀貨や金貨での支払いが必要なものもある。

 ルーカスの好感度アップアイテムは基本高額だった。流石王族らしく、彼の好みは上等な宝石のついた装飾品なのだから当然だ。それ以外、と見れば割と手が届きそうなものに古武術の指南書――ミカエリスの好感度アップアイテムがあった。早速購入し、ついでに愛の妙薬を買う。これは銅貨数枚で買えた――このアイテムは、購入を続けると徐々にランクアップする。金額も上がるが効果も上がる。そして、何より愛の妙薬が優秀なのはすべてのキャラクターに使用できるということだ。

 食べ物に入れたり、香水として使ったり、魔道具を作る際に使用して魅了効果のある装飾品を作ることもできる。

 ただ最後の魅了効果アイテムはかなりの魔力や知力のパラメータが必要なので今のレナリアには無理だ。

 一番手っ取り早いのはお菓子に入れて、好感度アップを狙うことだ。

 でも、手作りお菓子を受け取ってもらうには一定の好感度が必要だ。そのためにも、課金アイテムで彼らを懐柔するしかない。

 さっそくミカエリスに持っていくが、怪訝そうな顔をされた。


「結構だ。それはもう読んだ覚えがある。貰う義理もない」


 ――本来、紳士的な彼は身分が低い後輩とはいえ女子生徒にここまで冷たく当たらない。


 話が終わったといわんばかりに、速足で去られてしまえばレナリアが追い付けるはずもない。背の高い彼は当然歩幅も大きいし、そもそももともと歩くペースも速いのだ。

 この前よろけた振りをして抱き着こうとしたら、思いっきり空振りをして転ぶ羽目となった。その時のミカエリスは手を差し伸べるどころか、レナリアの派手な転倒に引いていた。同じ失態は二度としたくない。

 追いかけるが、走ろうとしたところで作法にうるさい教師に咎められてしまう。

 背中に流れる紅の髪。広い背中があっという間に遠ざかる。


「な、なんでよぅ…巧く行くと思ったのに」


 ぽつ、と呟いた言葉。レナリアにとってはただの古臭い本である、古武術の指南書。

 本来、これをプレゼントされたミカエリスは滅多に見せない年相応な笑みで喜ぶはずだ。なのに、あんなに冷たく突き返されるなんて。

 見たことあるなんて、嘘に決まっている。あの本を差し出せば「ずっと読んでみたかった」と相好を崩してレナリアに感謝するはずだったのに。

 怒りに震えていると視界の隅で紅い髪が翻ったのが見えた。


「ミカエリス様!?」


「…わたくしと兄の区別がつかないなんて、本当にお医者様にかかったらいかが?」


 喜色も露にそちらを向くと、一瞬顔を歪めたもののすぐさま淑女の仮面で取り澄ました美少女がいた。

 いつも通り、とびきり洗練されたお洒落なドレス。学園で纏うものなので派手さはないが、一等品だと分かる絹と繊細な刺繍とレースがあしらわれたデザインは、レナリアがいつも着ているゲームデザインそのままのプロトタイプのドレスよりずっと可愛かった。

 クリームイエローのドレスによく映える艶やかな紅い髪が揺れる。

 ミカエリスと同じくらい鮮やかな赤毛など、学園でも多くいない。ましてや、あれほどの長さとなれば。レナリアが間違えたのは、ミカエリスの実妹だった。


「ジブリール…っ!」


「呼び捨てにされる覚えはなくってよ。それと、お兄様に近づかないでいただける?

 余り知られていないけど、お兄様はすごく面食いで理想が高いの。貴女みたいな貧乏男爵家の尻の軽い小娘はお呼びじゃなくてよ」


「なぁっ!? アンタこそミカエリスはしょうがないとして、キシュタリアやジュリアスに近づかないでよ!」


「そっくりお返ししましてよ、そのお言葉。もう少し社交とマナーを覚えてから出直しなさい。彼らは幼馴染なの――少なくとも、一番の部外者は貴方よ」


 細い肩をすくめたジブリールは、用はないとばかりにさっさとと踵を返していった。

 憤慨するレナリアに周りの視線は冷たい。くすくすとさざめくような嘲笑と、意地の悪い興味の視線が突き刺さる。

 レナリアには友人がいない。

 友人と呼べるほど親しい同性はいないのだ。

 だからこそ、貴族社会の縮図である学園では肩身が狭かった。ルーカスがいれば露骨に攻撃してくる人間は少ないが、それでも目の敵にされることは多い。

 本来なら、キャラの好感度を教えてくれるはずの女子生徒がいるはずだった。ゲームでは寮が同室の女子生徒はなぜか隣室で、レナリアが近づくと素早く逃げるのだ。

 ルーカスもレオルドも婚約者がいる。子爵であり護衛騎士のジョシュアにすらいるのだから当然だ。キシュタリアやミカエリス、カインやフィンドールのように婚約者のいない攻略対象もいるが、基本貴族の令息は10歳を超える頃には一般的にいておかしくない。身分が高ければ高い程、早く決まる傾向がある。王族となればお茶会デビューと同時に婚約者選定が始まる。中には生まれる前から決まっている者もいるが、余りに相性が悪ければ考え直させる場合もあるのだ。

 攻略するにあたり、それぞれの婚約者たちや彼らの問題が壁として立ちはだかることが多い。

 ルーカスとレオルドは婚約者。ルーカスは『君に恋して』きっての悪役令嬢アルベルティーナ。レオルドはキャスリンという地味な婚約者だ。どちらかというと母親である側妃オフィールのほうが強烈である。キシュタリアの場合、義姉のアルベルティーナ。下級貴族ごときが公爵家の人間に近づくなと立ちはだかる。普段は冷遇するが、それでも義妹になるどころか友人すら許せないという狭量さだ。ミカエリスはジブリールだ。邪魔をするというより、ジブリール込みで攻略対象と考えた方が近く、ジブリールの好感度を上げないと攻略できない。フィンドールの場合は過去に亡くした恋人、カインの場合は彼にかかる呪いが障害として出てくる。

 しかし、実際では何故か学園にアルベルティーナがおらず、学園で名をはせる美しき令嬢はジブリールという本来根暗なはずの少女が居座っている。

 とっととジブリールを排除したいと思うが、ミカエリスは切り捨てたくない。

 攻略後にこっそり排除してしまいたい。だが、そもそもミカエリス攻略のカギである二人の不仲が見当たらないのだ。普通に並ぶ姿をミカエリスに会いに行くと見かけるし、穏やかに談笑している。


「なんでよ…! なんで私以外にもいるのよ…っ」


 もっとも危険視していたアルベルティーナがいない代わりに、別の女がヒロイン面してしゃしゃり出てくる。

 ジブリールはキシュタリアやジュリアスとも仲が良いのも気に食わない。しかも、周囲もあのジブリールであればと伯爵令嬢と公爵子息の仲の良さを容認しているのだ。婚約者ではないそうだが、ドミトリアス伯爵家は今代において、一気に勢力を伸ばしているとレオルドが言っていた。ラティッチェ公爵家と提携した事業が当たり、軌道に乗っているのだという。レナリアは難しい話はよくわからないが、名家の令嬢の一人として最も次期公爵夫人に近いのがジブリールだと有力視されているという。

 キシュタリアはあまり特定の令嬢と親しくしない。だが、家のつながりもありジブリールは懇意であるという。そして、今の勢いあるドミトリアス伯爵家ならラティッチェ公爵家に嫁ぐことも可能だと判断だという。

 キシュタリアも相変わらずレナリアに冷たい。

 余り彼らに気を取られるとルーカスが不機嫌になるし、フィンドールやレオルドもルーカスほどでないにせよ窘めてくる。カインやグレアムの視線も鬱陶しい。そして、彼らに近づくために愛想を振りまいてやったジョシュアも最近しつこく声をかけてくる。


(私は次期王太子妃よ? 失礼にも程があるわ)


 今の公的な婚約者は未だビビアンだが、ルーカスはレナリアを溺愛している。必ず妃にしてやると言っていた。

 アルベルティーナ絡みのイベントが起きない分、プレゼントで好感度の埋め合わせをしなくてはいけないのは痛い出費だが、順調にルーカスはレナリアに傾倒していた。

 最近では、ビビアンの名を聞くだけで顔を顰めるほど婚約者と仲が悪い。

 その分、上手く行かない攻略対象への懸念があった。

 レナリアの中で、ジブリールへの憎しみが燃え上がる。モブの癖に、ヒロインの邪魔などするなんて。


「上手く行っているのに…邪魔しないでよ!」




 ――その後、レナリアは運命の邂逅を果たすこととなる。




 読んでいただきありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ

 後編に行くにつれSAN値チェック案件…

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