7年8カ月に及ぶ長期政権の功罪に正面から向き合うことなく、ただ「継承」を繰り返すだけでは、国民の信頼を取り戻し、政治を前に進めることは難しいと心得るべきだ。
菅義偉官房長官がきのう、自民党総裁選への立候補を正式に表明した。党内の主要な5派閥がすでに支持を明らかにしており、国会議員票では圧倒的な優位に立つ。コロナ禍のみならず、少子高齢化や複雑化する国際情勢など、現下の難局に首相としてどう臨もうとしているのか。残念ながら、きのうの記者会見からは、その具体像は伝わってこなかった。
菅氏は第1次安倍政権で総務相に起用され、安倍首相の政権返り咲きに中心的な役割を果たした。第2次政権では一貫して官房長官を務めた。病のため、道半ばで退く首相の無念を受け止め、「政権を支えた者」として、「安倍政権が進めてきた改革の歩みを止めるわけにはいかない」と決意を語った。
ただ、行き詰まりが明らかなアベノミクスにしても、日ロの平和条約交渉にしても、「責任をもって引き継ぐ」「方針は変わらない」というだけでは、新たな展望は見えてこない。
政権の「負の遺産」といえる一連の疑惑への反省がないことも際だっていた。
森友問題では、公文書改ざんを強いられ、自ら命をたった近畿財務局職員の妻が再調査を求めているにもかかわらず、財務省の処分や検察の捜査終結で「すでに結論が出ている」。加計問題は「法令にのっとり進められた」。桜を見る会も「今年は中止し、これからのあり方を全面的に見直す」と語るだけ。
内閣のスポークスマンとして、日々記者会見に臨んだ菅氏がしばしばみせた、木で鼻をくくったような応答が繰り返されたかたちだ。首相をめざす立場を初めて公にしたというのに、質問が続くなか、会見は40分ほどで打ち切られた。丁寧に説明を尽くそうという姿勢にはほど遠く、「国民から信頼され続ける政府でなければならない」という菅氏の言葉が空しく響く。
首相の強引な政権運営や官邸への権力集中がもたらした弊害には、この間ずっと内閣の要にあった菅氏にも重い責任がある。まずは「安倍政治」の総括を語る。それが出発点でなければならない。
総裁選の日程は8日告示、14日投開票と決まった。実質的な首相選びだというのに、わずか1週間という短さだ。岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長は国会議員票ではリードされているが、菅氏に真剣勝負の論戦を挑み、国民の前で開かれた政策論争を闘わせてほしい。
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