滴滴出行が上海市でロボタクシーの試験営業を始めている。現在は、事前登録をしたモニターのみ乗車可能だが、メディアの体験取材が集中している。滴滴出行では、2030年までに100万台のロボタクシーを投入する計画を発表しているからだ。しかし、メディアの体験取材では、ロボタクシーのおかしな挙動も発見できるとAutoLabが報じた。
滴滴出行が上海で始めたロボタクシーに体験取材が集中
中国でロボタクシーの導入が各都市で始まっている。百度は長沙市で、滄州市で、文遠知行(WeRide)が広州市で、そして、滴滴出向が上海市で始めた。百度と文遠知行は、誰でも予約をすれば利用ができる「全面開放」を行っている。滴滴出向は、事前にモニター登録をした人のみが利用できるが、いずれかの段階で全面開放され、そのまま営業運行されることになる。滴滴出行では、2030年までに100万台のロボタクシーを導入する計画だ。
各メディアでも、ロボタクシーに乗車する取材を行なっている。AutoLabの記者では、このような報道などで公開された動画を丹念に検証をした。すると、さまざまな問題が起きていることがわかる。
▲滴滴出向のロボタクシー。2030年には100万台を投入する計画。
▲中央電子台の央視新聞では、複数の記者が試乗体験レポートを報道している。
https://weibo.com/2656274875/J8xRXAUiz?type=comment
[今日环球] 上海:自动驾驶载人测试 记者探访试乘现场 | CCTV中文国际
▲中央電子台国際チャンネルでも、滴滴出向のロボタクシーの試乗レポートが報道されている。
Ride Hailling Experience with WeRide Robotaxi
▲広州市で全面開放をした文遠知行(WeRide)のロボタクシー試乗体験レポート。
自动驾驶真的来了?2020体验全新百度Baidu Robotaxi
1)ロボタクシーは無人タクシーではない
ロボタクシーは中国では「無人打車」と表現されることが多いが、L4自動運転(一定条件下での自動運転)であるために、運転手は必要になる。自動運転の条件を外れた場合には手動運転をする必要があり、また、不測の事態には運転手が対処するためだ。
しかし、滴滴ロボタクシーには、運転手の他に助手席にも人が座っている。エンジニアが座り、さまざまな技術的な測定を行なっているためだ。多くの人が無人だと思って乗ると、すでに2人も乗っているので少しびっくりする。
▲ロボタクシーは無人ではない。試験営業中であるため、運転席には監視員(必要があれば手動運転する)、助手席にはエンジニアが乗車をしている。
2)すぐに出発できない
一般のタクシーであれば、乗って行き先を告げればすぐに出発することができる。しかし、ロボタクシーはすぐに出発できない。まず、試験営業中であるため、滴滴出行の責任範囲についての説明があり、同意書にサインをしなければならない。それからQRコードを読み込むと、事前に登録しておいた目的地などが読み込まれる。
ここからルート計算が行われるが、混雑状況なども加味されるため1分近くかかる。乗車してから出発するまでは数分ほどかかるのだ。
▲ロボタクシーはすぐには出発できない。乗車の同意書の説明を受けて、署名をする必要がある。
3)ロボタクシーは右折が好きで、左折が嫌い
なぜかロボタクシーは右折が好きで、左折が嫌いなようだ。右折が過剰に多いルートを検索する。中国は右側通行なので、右折は易しいが、左折をするときは対向車に注意をしながら曲がらなければならない。左折の方が難易度が高いのだ。
表示されるルートでも、右折をして、大通りを通るルートが検索されていて、かなりの遠回りになっている。
▲モニター右下の手書きのような図形が、システムが選んだ走行ルート。なぜか右折ばかりし、遠回りになっている。試乗レポートを見ても、難易度の高い左折をすることはきわめて少ない。
4)安全運転すぎる
現在、滴滴出向のロボタクシーは、標準時速40kmで運行をしている。しかし、不思議な挙動をする。前方に先行車のいない状況では、時速50kmまで速度を上げ、その後、自然減速し、時速30km程度で巡航をする。乗客としてはもう少し速く走ってほしいと感じてしまう速度だ。道路状況や交差点までの距離を考慮して、時速30kmの安全速度を保っているのかもしれない。
▲標準速度は時速40kmに設定されているが、多くの場合、前方車両がいなくても時速30km前後で走行する。
5)ときどき人が運転する
自動運転中、運転手はハンドルの下方に手を伸ばし、いつでもすぐにハンドルを握れる態勢でいる。
しかし、時々、ハンドルを握って、明らかに人間がハンドル操作をしているのだ。エンジニアの説明によると、この日は雨が降っていて、路肩の水たまりを踏んで、水しぶきがあがる。すると、レーダーの精度が落ちるため、運転手にハンドルを握るように指示が出るのだという。
▲運転席の監視員は、通常はハンドルから手を離しているが、路肩の水たまりを踏んで水しぶきが上がると、レーダー精度が低下したアラートが通知され、監視員はハンドルを握った。
6)けっこうギリギリを攻める
交差点で直進するとき、対向車が左折をすると、経路が交錯することになる(日本の右折にあたる)。日本でも中国でも、直進車が優先になっているが、中国の場合、隙があれば左折車が先に曲がってしまうことがある。
この現実を、ロボタクシーの人工知能がどう捉えているのかはわからないが、対向の左折車とかなり接近をした場面があった。
▲交通マナーを守らない車両に対しては、自動運転はまだ対処が必要なようだ。交差点を直進した時、左折をする対向車が、こちらを優先せず、前を横切るように強引に左折をした。実際には余裕があったが、モニター上は接触しそうになっている。ガイドラインに乗って、下から上に直進しているのがロボタクシー。その右上に斜めになっているのが、上からきた対向車で、ロボタクシーの前を強引に左折をした。
7)違法駐車車両を追い越すのに、センターに問合せ
前方の路上に荷台を牽引したスクーターが放置駐車してあった。しかし、ロボタクシーは障害物と認識をしてしまい、その手前に停車をしたままになってしまった。車両と認識をすれば、車線変更をして追い越すのだが、障害物の識別ができないため安全停止をしたようだ。
結局、エンジニアがタブレット経由でシステムに、その障害物が「故障停車中の三輪車」と入力することで、ようやくロボタクシーは追い越しを始めた。この間、40秒、ロボタクシーは停車した。
滴滴自動運転の韋峻青CTOによると、現在、ロボタクシーの人工知能は、自動車、バイク、自転車、歩行者を見分けることができるが、荷台を牽引している車両については形状も複雑で、まだ判別が難しい面があるのだという。
▲前方に、荷台を牽引しているスクーターが放置駐車してあった。システムの人工知能は、この物体が何であるかを判別できず、ロボタクシーは停止してしまった。助手席のエンジニアが、路上障害物であるということをタブレットから入力して、ロボタクシーは再び出発した。
実用に向けて走り始めた中国のロボタクシー
このような小さな問題は続出している。しかし、当然ながら、乗客の安全や走行に影響を与えるような大きな問題は起きていない。このような小さな問題を修正しながら、誰でも乗車できる「全面開放」、正式営業、100万台投入と段階を進んでいくことになる。先行する百度、文遠知行も、刺激を受けてサービス提供地域を拡大していくことも予想される。2030年、タクシーはもう人が運転するものではなくなっているかもしれない。