印紙税は何のために存在するのか 「日本の税金でもっとも不合理」と強い批判も
税金・お金
納税者からしてみれば税金はどれも不合理なものですが、中でも課税の根拠が見えづらく不合理・不透明だと言われる「印紙税」。ルーティンワークで送っていたお礼状が印紙税対象の文書だと税務調査で指摘され、印紙税と過怠税合わせて3千万円払ってねと指摘される――といった事態は現実に起きています。そもそも印紙税は必要なものなのでしょうか。(ライター・拝田梓)
●「印紙税」と「印税」は全く別のもの
三菱UFJ銀行が「紙の通帳をやめれば1000円キャッシュバック」というサービスを展開し、地銀などで追従する動きが出ています。インターネットを通じて残額を確認できる“デジタル口座”が普及してきたことによる、銀行の事務負担を軽減するためのこの動き。銀行にとって最大のメリットになるのが、印紙税の節約です。
実は銀行や郵便局の通帳には、1口座当たり年200円の印紙税が課されています。1件1件は小さくても、金融機関にとっては大きな出費です。
そもそも、税目の中でも分かりづらい印紙税。印紙税とは、契約書類などを作ることで掛かってくる税金です。これは、マンガや書籍、作詞などで著作権者に入ってくる「印税」とは言葉は似ていても全く別のもの。
財務省のホームページでは、印紙税について「各種の経済取引に伴い作成される文書の背後にある経済的利益に担税力を見出し、負担を求める税」と説明されています。つまり、お金を払っているのだからさらに税金を払うだけの余裕(=担税力)があるだろうということが、課税される理屈になります。契約書、受取書、証書など20種類の文書に課税され、身近なところでは5万円以上の領収書、不動産の譲渡などで掛かってきます。
買うものにかかる消費税、儲けたお金にかかる法人税や所得税と比べ、税金がかかる理由が分かりづらい税目です。経済的利益があった人は消費税なり法人税なり所得税なりを納付しているわけで、何重にも課税されることになります。
印紙税の発祥は17世紀オランダで、戦費ねん出のために税務官吏が「発明」したことがことの起こり。その後明治時代に日本でも取り入れられました。
現代社会で印紙税に似た例を他国に見ると、イギリスの土地印紙税やシンガポールの印紙税などがあります。ですが、どちらも必要とされる場面は限定的です。
●お礼状に料金を記載したら、課税されたケースも
印紙税がかかる書類は法律で決まっていますが、「実質的に契約書になっているかどうか」に対して納税者の認識と課税当局との認識に齟齬があり、そのつもりがなくても納付漏れしてしまうような事例も発生しています。
例えば、冠婚葬祭業者が葬儀を行った利用者に対して送るお礼状にサービスのつもりで料金を記載したら、「領収書」とみなされ課税された案件。この事例では、正規の領収書は別に作成していたにも関わらず課税されてしまいました。
さらに別の事例では、銀行が住宅ローン申込者に送った「ローン審査結果のお知らせ」という文書に印紙を貼っていなかったことで課税されています。
税務調査で印紙を貼っていなかったことが指摘されると、過怠税も合わせ必要な印紙税額の3倍の額を払わなければなりません。
納税者が間違った認識をしていて納税を怠った場合、税務当局がそれを正すのは当然です。ですが、こと印紙税については、「いま日本にある税の中でもっとも不合理。専門家の間で存置を肯定する人はまずいない」と租税法を専門とし、著作「税のタブー」(インターナショナル新書)においても印紙税を取り上げている三木義一氏は語ります。
●印紙収入の決算額は1兆729億円
課税に不合理感のある印紙税。経済界からの要望も多く、かねてから経済産業省は「印紙税のあり方の検討」という税制改正要望を行っています。しかし、日本の税収の中でもそれなりに大きなインパクトがあるために廃止論には至りません。
正確な実態の把握は難しいのですが(手数料の納付も印紙を使って行われるなどの理由による)、平成30年度の決算額を見ると、印紙収入の決算額は1兆729億円となっています。これは、関税をも上回る額となっています(財務省:平成30年度租税及び印紙収入決算額調)。
さらに印紙税の性格をおかしくしているのは、課税文書の作成が国外で行われれば印紙税が課税されない、課税文書でもFAXや電子契約でのやり取りの場合には印紙税がかかってこないという点です。
法が施行された当初はもちろんこの事態は想定していなかったでしょうが、今となっては、「アナログ課税」とすら言える状況になってしまっています。デジタル化のさらなる進展も踏まえ、そのあり方を本気で見直すべき時ではないでしょうか。