アインズ様はストイック   作:大城之助

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5 パンドラズアクターは現在、悩んでいた

(うむ~)

 

パンドラズアクターは現在、悩んでいた。

 

パンドラズアクターにとって、絶対の存在とはアインズ・ウール・ゴウンその人である。

よって、何においてもアインズの命令が優先される。

 

しかし、文面通りにしか受け取らないのは、無能のすることである。

アインズの言葉には、多くの意味が込められているのはナザリックにおいて常識レベル。よって、文面の奥にどのような意図が隠されているか。

これを探らないというのはパンドラズアクターの選択肢になかった。

 

(アインズ様は仰った。「1時間後に迎えにこい」と…しかし…)

 

「アッ、アインズ様ッ!!そこはダメです!!御堪忍を!!いっ!!」

 

「おやおや、リュミエール。主人の前で粗相とはメイドとして鍛錬が足りないないか?」

 

主人は絶賛、お楽しみ中だった。

 

(アインズ様の今回の試み。「心労を癒す」という目的は達成しているようですね。それはなによりです)

 

えっ?それだけ?と冷静なアインズがこの光景を目撃すればツッコむことは、想像に難くない。

しかし、パンドラズアクターにとって問題とは主人が楽しめないことであり、約束の時間をすぎていることなど問題にもなりはしないのだ。

 

よって、パンドラズアクターが困っていること。それは、でていくタイミング。

お楽しみ中の主人を邪魔するなどあり得ないが、主人が自らに「1時間後に迎えにこい」と命令したこともまた、確かなのだ。疎かにはできない。

 

現在、考えている案としてはプレイが落ち着き、ピロートークが終了するまで。これが確実のタイミング。パンドラズアクターは、主人の邪魔にならぬよう気配を消した。(完全不可視化)

 

 

「かはっ!!!」

 

アインズはしてもいない呼吸を久しぶりに行った。そういった体の反応に困惑する。

 

(う~ん…俺何してたっけ?)

 

先ほどのまで気を失っていた様に頭もぼうとしている。

アンデットが気を失うはずなどないのだが…

 

(確か…シャルティアの体に入って、オレンジジュース飲んで…その後…何か体が変だな…と思ったら…)

 

思考を取り戻し、何気なく横を見たアインズ。

 

目をキラキラしたリュミエールと目が合った。

おかしい。

 

ナザリックのNPCが自分と同じベッドに寝ているのだ。そんなことはあり得ない。

というか、裸だ。てか、自分も裸だ。あり得ない。

しかも、リュミエールの右手は親愛の証のようにアインズの指先をいじらしく摘まんでいる。

厳格な関係を望むメイドがそんな態度をとるなどあり得ない。

さらに追加で、頬は上気している。はぁはぁと乱雑な呼吸もどこか幸せオーラが漂っている。その様子を一言で表すなら。

 

事後…である。

 

(うっそだろぉぉぉぉおお!!!!!!!!!!)

 

アインズはすべて思い出した。

 

なぜだ!どうしてこうなった!!!

 

(冷静に原因を考えるならシャルティアの<血の狂乱>が発動。これによって、俺は無意識的にリュミエールに手を出して…今、効果が切れた…ということか?)

 

「アインズ様?どうかなされましたか?」

 

あたふたと慌てる様子を感じ取ったリュミエールがアインズに声をかける。

その声は猫なで声だ。

 

男女(実態はレズプレイ)の仲が深まった証だろう。

アインズは動揺する。

 

~アインズの脳内~

 

「あ~あ。モモンガさん。女の子襲っちゃたんだ~」

 

「しかも、俺のシャルティアの体でっすか!?うらやま…けしからん!!俺も混ぜろ!!」

 

「あ、お巡りさん。あの人、記憶がないことに言い訳して女性の部下に手をだしてま~す。

セクハラとパワハラですよね」

 

「それじゃ、モモンガさん。署で話を聞きましょうか?」

 

 

 

(違うんです!!俺にはそんな気はなかったんです!!ただ飲んで、寝れればそれでよかったんです!!)

 

「ど、どうされました!?アインズ様!?」

 

頭を抱えて、ジタバタしだす主人にリュミエールも流石に仕事モードが入る。

…素っ裸だが。

 

また、別の方角からも声が掛かる。

「ア~インズ様!!どうでしたか!?実験のほうは!!!!」

 

「うおっ!!」

 

「きゃああああああああああああああ!!!!!」

 

 

勿論、アインズとリュミエールは裸である!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、パンドラズアクターはベッドの前で正座させられている。

パンドラズアクター的には、最高のタイミングで登場したと思っていたが主人の目線では自分の努力が足りなかったようだ。

 

なんでも、混乱しているのに目の前に来られたらびっくりする。とのことだ。

聡明なるアインズ様が混乱することなどあり得ないので、同衾していた一般メイドの動揺を気遣ったのだろう。なんとお優しいホロリ。

 

パンドラが主人の慈悲に感動していると、奥にあるカーテンが開き、ポールガウンを着た吸血鬼と未だ足取りに動揺が見られる一般メイドが寝室に入室する。

 

パンドラズアクターは、片膝を付き報告する姿勢を整える。

普段ならこのポールガウンを纏う吸血鬼は、同格――役職的には上役であるのだが――であるため、この様な姿勢はとらない。

 

しかし現在、この吸血鬼には主人が憑依している。

憑依していても至高の41人のオーラ――自らの創造主の圧が感じられるため、パンドラズアクターは今、膝を折っているのだ。

 

跪くパンドラズアクターの真正面にアインズが立つ。

「早速だが、問いたい。パンドラズアクターよ。お前が来るタイミングは<憑依>の効果が切れるとされた1時間後であったな?」

 

「はい!その通りでございます!アインズ様!」

 

「…ふむ。今は何時だ?リュミエール」

 

「現在、午前の1時半でございます。アインズ様。」

 

アインズは困惑していた。<憑依>には、ゲーム時代から規定時間が存在する。

よって、体力が一切減らされていなくても、元の自らの体に意識が返っていく仕様であった。

 

そして、現在。<憑依>の使用から2時間近く時間が経っている。

しかし、アインズの意識がシャルティアから離れる様子はない。

 

(なぜだ…?これは、この世界に来たことによる魔法の効果の変容なのか?)

 

「これは…実験の時はどうだったのだ?パンドラズアクターよ。」

 

「はっ!私は吸血鬼の花嫁を対象に使用したのですが、一時間経過した時点で意識は対象から離れ、私自身の体に帰っていきましたが…」

 

パンドラズアクターの声に困惑が混じる。つまり、想定外の事態だ。

 

(これは…まずくないか…?)

 

<憑依>は、アインズが実践で使用した記憶がないと称するほどの微妙魔法だ。

代用手段が多く、耐久値が低い。と散々弱点を挙げてきたが…まだ、弱点がある。

 

「耐久値が0になること」と「規定時間の経過」でしか、術が解除できないのだ。

この仕様は、任意に複数の体を交互に憑依するというプレイスタイルを禁止するために運営が設定したと考えられる。

 

(ぷにっと萌えさんが、全属性の死体を揃えて完全メタ張るぞー!!ってはりきってたんだけどなぁ)

 

導入前には、ぷにっと萌えの様な変態プレイヤーに期待された<憑依>だが導入後はこの仕様のせいで話題になることはなかった。

せっかく用意したモンスターの死体が無駄になってしまった。と愚痴っていた彼を思い出す。

 

(いや!今は思い出に浸っている場合じゃないぞ!)

 

ゲーム時代であれば、解除されないという事態は発生しなかった。

むしろ、すぐに解除されてしまうので解除されなくて困るという事態など考えたられたこともなかった。

 

では、現在のアインズが<憑依>を解除するにはどうすればいいか。

 

・耐久値を0にする→シャルティアの体力を削り切るのは容易ではないし、アインズはプレイヤーなので復活できるか分からない。

よって、死を伴う手段など論外

 

・規定時間の経過→とっくに過ぎている。よって、達成できない。

 

(あれ?詰んでね?)

流れるはずのない汗が背中に流れるのを幻視する。

 

「ふむ…これは原因がわかるまでこの姿で過ごすべきなのだろうか…」

動揺しながらも支配者ロールで威厳を出すアインズ。

 

「申し訳ございません…それしか手段がないようです。至急、原因を突き止めたいと思います!」

想定外の事態にいつになく真面目なパンドラズアクター。

 

「アインズ様はシャルティア様の御姿も非常に似合っておられますので問題ないかと…!また、お疲れの際は私を呼んで頂ければ幸いでございます…」

シャルティア姿のアインズに、いい思いをさせてもらった記憶を反芻するリュミエール。

 

「妾もアインズ様に体を使って頂けて…それにさっきのプレイ…最高だったでありんすぅ!!」

興奮しているシャルティア。

 

「あれ?」

 

「「「どうされました?アインズ様?」」」

 

 

 

「…あれ?」

 

ーーーーーーーーー

 

<憑依>が解けない理由は、事情を分かっていなかったシャルティアがアインズの意識を引き留めていた。という大したことのないものであった。

 

これも世界の転移による変化なのだろうが…

どうやら、<血の狂乱>の発動でアインズの意識が混濁したことで、その間を埋めるようにシャルティアの意識が少し復活していたらしい。

 

(いや!?なんだそれ!?)

 

パンドラの推測を思い出したアインズは執務室の机を叩く。超理論であり、理解はできない。

だが、思い返すと納得はできる。

 

(俺があんなテクニック持ってるわけないもんなぁ)

 

リュミエールとのレズプレイが上手すぎたのである。

アインズにレズプレイの経験はない。というか真っ当なプレイの経験もない。

だが、シャルティアの意識が動きを補佐していたというのなら納得だ。

つまり、これからアインズがシャルティアに<憑依>を使うとアインズとシャルティアの意識がごちゃ混ぜになった状態で一つの体を共有することになるらしい。

 

(なにそれ、すごいややこしい)

なんでこんなことになるかな…と軽く困惑したアインズであった。

 

…なにはともあれ、紆余曲折あったが<憑依>を使った実験は概ね成功した。と言っていいだろう。どうせ、次回からは別の適当なアンデッドに<憑依>するのだから、今回の様なはハプニングは起こりえない。

 

(はぁー!!今回は散々だったけど、次回の休暇が楽しみだなぁ!!)

 

飲酒に睡眠。入浴だって今回はできなかったのだ。結果としては散々だったが、<憑依>によるリフレッシュはアインズにとって大きな希望をもたらした。

 

アインズは机に持っていた書類を置き、アンデッドに不要な伸びをする。

その表情はどこか楽しそうなものに見えた。

 

第一部 完

 




勝った!第一部 完!!!

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