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漸く話が進んだ気がする。
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モモンガとエンリの2人は丸3日ほどモモンガの拠点にて行為に及び続けたのだが、3日目以降もお互いの情欲に火が灯ってしまったが為に、結果として合計で約7日間も愛情と情欲に満ちた生活を送っていた事になる。
その行為の最中にもモモンガとしては良くもあり悪くもある新発見があったのだが、それは後で語る事にしよう。
今2人はモモンガの居宅内のリビングにあるソファで初々しくも互いに寄り添いながらエンリが淹れたお茶を飲んでいた。
「エンリ、俺が言うのも何だけど本当に身体は大丈夫なのか?」
彼女の肩に手をまわしていたモモンガが心配そうに尋ねる。彼が彼女を労るのは当然の事で、つい1時間前まで行為に及んでいたからだ。
エンリは恥ずかしながら静かに頷いた。
「ハイ、大丈夫です。流石に7日間も
「そうか。でも無理はしないでくれよ。」
2人は7日間も村を留守にしていだのだ。普通に考えればなんの連絡も無しに7日も留守になれば大事になる。だが、それも行為に及ぶ7日前から既に対策はしていた。それは今もバレる事なく実行出来ているのも定期的に報告を受けている。
(咄嗟だったけど、
モモンガはあのギリギリ理性を保っていた状態で宝物庫最奥の守護者に『金貨を使って2体のドッペルゲンガーを召喚させて、自分とエンリの代わりに村で過ごす』旨を指示していた。
ユグドラシルでは知力が高いモンスターであれば1日に3回のみ金貨を使った傭兵モンスターを生み出すことが可能だった。その為、最奥の守護者は命令を実行、2体のドッペルゲンガーをユグドラシル金貨を使った召喚してくれた。
ドッペルゲンガー達は微塵も疑われる事もなく、カルネ村の日常に溶け込んでいる。故にまさか本物がこの様な東の森深くで1週間も行為に及んでいたなど誰も想像すらしていない。
「それにしても、モモンガさんがこんな所に家を建てていたなんて驚きです。」
「え、えぇ…たまたまいい感じに開けた場所だったので…」
「でも1人だけだと大変じゃないでしょうか?」
「え?いや…まぁ、大丈夫…です」
エンリが疑り深い人じゃなくて助かった。前人未到の魔境であるトブの大森林…その奥深くを拠点にしてる時点でまぁまぁ怪しい筈なのに、エンリは「モモンガさんの強さなら納得です」とキラキラした尊敬の眼差しでそのまんまの意味で信じてくれている。あの宝物庫となった洞窟は幻術でただの小丘にしか見えないようにしているし、外にいたアンデッド達は、みんなグの小屋に1週間も鮨詰め状態だ。
流石にアンデッド達をこのままにするわけにはいかない為、エンリの言う通りそろそろ村に戻る必要はあるだろう。
早速、モモンガは《
「や、やっぱり凄いですね…モモンガさんは。戦士としてだけでなくて、魔法詠唱者としても。」
「やっぱりこういう第9位階とかって…見たこと無いんですか?」
「だ、第9位階ですか?…そのぉー、私は魔法に関する知識は無いのでなんとも言えませんけど…第2位階を扱えるンフィーで天才って呼ばれてるから…かなり凄いと思います。」
エンリも含めた村人の曖昧な知識を聞くあたり、あまり一般的に魔法は浸透していない可能性がある。この世界で魔法はあまり馴染みが無く、発展も遅れているのではないだろうか。ただ単にこの世界特有の魔法しか知らないというのもある。
(まだまだこの世界の事をあまり良く知らないのだから仕方が無い。これからそう言った情報も集めていく中で段々と分かってくる筈だ。)
言われてみればまだこの世界の人が使う魔法を見たことがない。機会があれば是非拝見してみたいと思う。それも出来れば敵対ではなく良好な関係として。
「やはり大きな街に行くべきか…」
となると向かうべきはやはり『エ・ランテル』になるだろう。この辺りで一番大きな都市と言えば話を聞く限りだとそこしか無い。本来なら
(別に彼女が悪いわけじゃないんだし。そもそも、その情報収集の時間を…情事に費やしたのは他でもない自分だハイ後悔してません最高でした。)
とにかく村に戻らなくてはならない為、エンリとモモンガは《転移門》をくぐった。
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カルネ村の近くにある森の中にモモンガとエンリはいた。ここから見える村の様子は1週間前と変わっておらず、皆がせっせと畑仕事に精を出している。
「それじゃ、ドッペルゲンガーたちを呼ぶとしよう。」
モモンガが《伝言》を使って自分たちに化けているドッペルゲンガー達を呼び出した。少し待っていると農作業の途中だったのか、土汚れの付いたエンリの姿をしたドッペルゲンガーと、同じく土汚れのある身なりをしたモモンガのドッペルゲンガーがやって来た。モモンガドッペルは農作業を手伝っていたのだろう。
2体はモモンガの前へ来ると片膝を地面に付けて頭を下げた。
「すまなかった、1週間も…」
「滅相もございません!」
「モモンガ様より与えられたこの使命に感謝の言葉もございません!」
感謝すると言えばまた狂信的な面持ちで感激の言葉を口にする。それがエンリや自分自身を模した姿であれば尚更違和感があるものだった。
(おっかしいなぁ〜。傭兵モンスターは召喚者に忠を尽くすものだと思ってたけど…なんで俺にここまで?)
考えられる要因はこの2体を召喚した宝物庫最奥の守護者だ。あいつが何か吹き込んだに違いない。
(忠誠心は嬉しいけど、ここまで来るとちょっと引くなぁ。)
ユグドラシル時代は魔王ロールを楽しんではいたが、実際は魔王なんて気質があるはずもなく、AOGも多数決制で成り立っている組織だ。ギルド長なんて肩書きはお飾りに近い。やはり自分は何かの組織の上に立つ本物の支配者の役は務まらないなぁと改めて実感した。
とりあえず衣服も2体に似せる為に土汚れを付けて、その後はこの7日間で起きた出来事や行なっている仕事などの申し送りを受けた後、役目を終えた2体をモモンガは消滅させず、今後何かとお世話になるだろうと踏んでそのまま拠点へ送る事にした。
2体を《転移門》へ送る最中、エンリはずっと「ありがとうございました」と頭を下げて感謝の言葉を口にしていた。自分たちの仕事を肩代わりしてくれたのだから、彼女の気持ちは良く理解出来る。
後であの2体にご褒美でも贈るべきだなと考えながらモモンガはエンリと共に村へと戻って行った。
「お待たせしてすみませんでした。」
「おかえりなさい、モモンガさん。そんな事気にしなくてもいいんですよ。」
「そうですよ。寧ろ手伝ってくださって本当に感謝してるんですから。もう休憩は良いんですか?」
モモンガが戻ってくるとエモット夫妻は笑顔で迎えてくれた。休憩に行っていたという事でなんの疑いもなく戻る事が出来た。因みにエンリは井戸水を汲みにいったという事になっている為、少し遅れてやって来た。
「お待たせ!」
「あぁ、エンリ。ありが……ん?」
エンリの父が汲んだ井戸水の入ったバケツを持って戻って来たエンリを見て首を傾げた。
「エンリ…なんか身体付きが変わった…ような…ん?」
「どうしました?…あら、エンリ?」
どうやら母親も彼女を見て違和感を感じたらしい。モモンガは自身の心臓が少し飛び上がった様な衝撃を受ける。流石にずっと一緒にいる親子となればその変化に気付くものらしい。
「え、そう?いつも通りなんだけど?」
「そ、そうですよ。エンリは何も変ってませんよ。」
エンリは素で否定しモモンガもエンリに同調した。2人は顔を見合わせて「そうかな?」と少し納得いってないようだったが、取り敢えずは乗り切る事が出来た。
エンリの身体が女性として魅力的になっているのは『淫夢魔の呪印』の副次効果によるもので決して気のせいではない。暫くは『畑仕事による身体付きの変化』という事にする必要があるし、エンリもそれで納得してくれるだろうが、畑仕事での身体的変化が筋肉ではなく女性として磨き掛かると言うのは違和感があるかもしれない。
(でも説明のしようがないよなぁ。無理やりでも納得してもらうしかない。)
正直エンリを見ているだけでドキッとする。しかし、7日間も行為に及んだ末、モモンガは自身の情欲をある程度コントロールする事に成功した。それでも不安と無茶はあるが最初と比べれば大分マシだ。
この『淫夢魔の呪印』…最初は情欲を無効化する効果も持つと思っていたが、正確には『自身の情欲を一定値まで蓄える』もので、『一定値まで到達すると一気に解放・暴発。蓄えた分以上の情欲を装備者とその相手となる異性に与え、効果を受けた者の下腹部に淫紋を刻み込む』。持続時間は不明だが、少なくとも淫紋が消えるまで暴発した情欲効果は続くことは身を持って体感した。
更に淫紋はただ効果を受けた者の判別マークではなく、その淫紋によって体力回復などの補助効果も付与されるらしい。次にこれも詳しい経緯は不明だが、これらの効果を受けた女性に、女性としての魅力を上げる何かしらの効果を永続的に与えるようだ。
その結果、エンリはモモンガ好みの身体付きに変異した。モモンガのムスコもこれ以上無い、エンリと最高の相性となったのだが。モモンガも行為が始まるとムスコがエンリ専用のエモノに変わっていた。終わると元に戻る。
これらだけでも意味不明なのだが、困った事に指輪を付けた事による情欲を抑える効果が最初の時ほど現れなくなっていたのだ。
指輪を付けていても普通に発情する。この事から、この指輪には回数制限があって使えば使うほど効果も薄くなる類なのかもしれない。だが、情欲を溜める時に現れる紫の光のメーターは問題なく溜まっていく一方。
試しに指輪を外して過ごしてみたら情欲が徐々に増して来たので慌てて付けた。どうやら指輪が要らなくなったわけではないらしい。
また、指輪を付けた状態でも発情する為、指輪を付けたままでも十分行為に及ぶことも出来た。ここでもう一つの発見は指輪を付けたまま行為に及ぶと紫の光のメーターが減っていたのだ。これは嬉しい発見で、つまり適度に行為を行えばあの時の暴走モードに入ることはないのだ。
また自涜はそれに含まれないらしい。
色々と課題はあるが身を持って体験しその効果を確認・把握しつつあるのは間違いない。
「まぁ細かいことは抜きにしよう。そろそろ夕飯の時間だ。エンリ、悪いがネムも呼んできてくれ。」
なんとか誤魔化せた事にホッと胸を撫で下ろした。この体だと嬉しい事も多いが、こういう時は精神抑制が働くオーバーロードの体が恋しくなる。
(そう言えば最近元の姿に戻ってないな。)
モモンガは本来の姿を懐かしく感じながら、エモット家と一緒にお昼の準備を始めた。その間、村人たちがエンリの変化に少し驚いていたが、それも時間が解決してくれるだろうと考えてる事にした。ぶっちゃけ言うと『逃げ』である。
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夕飯を楽しんだ後、御両親がどうしてもという事で今日はエモット邸に泊まる事となった。
その際、エンリが当たり前のようにモモンガが寝泊りする部屋へ入るのを普通に御両親に見られてしまった。
その時の温かい目は忘れない。
しかし、そのまま部屋で行為を行うわけにはいかない。指輪を付けていると言ってもたった一夜で情欲が治るとは到底思えなかったし、済ませられる自信もない。
その結果、やはりと言うべきか指輪のリミッターが一気に1/3まで進んでいた。これが一周し貯めるとかなりやばい事になる。その代わりに情欲の大部分を抑えてくれたのだが、やはりそこそこ残っている。
(一気に劣化したなぁ…うぅ〜、もどかしい。)
かなり欲求不満だったが朝からお祭り騒ぎだった為、直ぐ隣ではエンリがスヤスヤと眠っている。今回はこの愛らしい寝顔で我慢するしかない。
モモンガはエンリを起こさない様にベッドから立ち上がると月明かりが入る窓から外を見渡した。まだ幾つかの家に灯りがついてる。
持続の指輪を外してもムラムラがある状態では自分は寝付けない。自涜もあまり意味がない為、悶々とした時間を過ごすしかなかった。
(こうなったらエンリをまた拠点へ連れて行って……いや、朝までに済ませられる自信がない。それに明日にはエ・ランテルに向かう予定だし。)
この暇な時間をどう過ごそうかと悩んでいると、カルネ村郊外へ見回りをしていた
《どうした?》
《夜分遅くニ申し訳アリません、モモンガ様。実は……》
報告を聞いたモモンガは一気に緊張が走った。
《村が襲われた?》
《ハッ、カルネ村よリ南方の小サな辺境の農村なノデすが、全身鎧ヲ纏った集団ニ襲撃を受けテオりましタ》
彼が言うには森から現れるモンスターではなく、何かしら組織制のある集団からの襲撃を近隣の村々が襲われたと言う。
(森からではないだろう。それならリュラリュースやハムスケが何かしら対処してくれただろうし……いや、彼等でも対処出来ない強者という線も。)
だがモモンガは直ぐにこの考えを破棄する。
先ず何か問題が起きたら、2人に渡した《伝言》能力を持つマジックアイテムを使って自分に知らせる様に決まりになっている。それが無いとなればソイツらは森では無い全く別の所からやって来た事になる。武装と聞くあたりどこぞの国家に所属している可能性もある。
単純にその集団が高い隠密能力を有しているなら話は別だが…
《その集団を今も追跡しているのか?》
《ハッ。気付カれてオリまセん。彼奴らハ、森沿いニ北上シつつ移動をしてオリマス。《
モモンガはデスシーフと視覚を共有させてその武装集団を確認する。そこには木の上からの光景が映り込み、その先に例の武装集団が確認出来た。
(なるほど。装備は統一されているし、動きも素人っぽくないな。見た感じ何処かの兵士みたいだ。…ん?アレが『野伏』職を持つヤツか?うーん、確かにお粗末だ。)
モモンガは盗賊の類の可能性を棄てて、何処かの国に所属する兵士達であると睨んだ。そう考えると『バハルス帝国』か『スレイン法国』、もしくは『竜王国』か『アーグランド評議国』だが、生憎モモンガはそれらの国の標準装備をまだ見た事がない。
(レベルは……たったの10前後だと?うーん、装備もただの鉄製で何の特殊能力も無いし、これは…。)
ハッキリ言って雑魚だ。
しかし、それはモモンガ基準だから言えることであってこの世界の一般人からすれば十分脅威である。それにこの世界にはユグドラシルには無い『
(この世界でレベルが低い=雑魚とは限らない。どんな脅威が潜んでるのか全くの未知数なんだ。)
モモンガは気を引き締め直して観察を続ける。数は大体50人弱だろうか?その中のリーダー格と思われる男が何やら指示を出している。デスシーフと共有するのは飽くまで視覚なので声までは分からないが、その下卑た表情から察するにモモンガの嫌いなタイプだと予測出来る。
人は見かけによらないと言うが第一印象は大事だ。
《此方に向かって来ると思うか?》
《襲撃を受ケた村ハ、カルネ村の隣でス。遅かれ早カレ其方の村に到達スルかと。》
《そうか…》
もしかすればあの集団は国に背いた村を見せしめに襲っているのかも知れない。もしそうなら罪人を裁いている事になる。迂闊に手出しするべきではない…のだろうが。
「ここはやはり…直に確かめてやる必要があるか。」
実は敵対国家の実動部隊という線もある。ならば黙って見ている訳にはいかない。
どちらにせよ、カルネ村にまで危害を加えようものなら容赦しない。
敵かそうでないかはこの目と耳で確かめる。
モモンガはベッドから立ち上がると漆黒の全身鎧に着替えた。勿論、万が一に備えて囮役や盾役のアンデッドも不可視化で付き従えさせている。
ベッドでスヤスヤと眠るエンリの頭を軽く撫でた後、《転移門》を開いて武装集団がいる辺りに向かった。
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スレイン法国偽装部隊副隊長のロンデス・ディ・グランプは、正直に言えばうんざりしていた。
幾ら人類存続の為と言えど、リ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフを誘き寄せて抹殺する為に、何の罪もない村人達をこの手で殺めていかなければならない事に。
だがそれ以上にうんざりしているのは偽装部隊隊長ベリュースの態度だ。
(アイツ…使命云々関係無しに無力な人を殺す事を楽しんでやがる。)
今もベリュースは「んん〜!今度は夜襲と行きましょう!」と上機嫌に部下達へ命令を下している。これなら向かう村…カルネ村と言ったか?そこで夜襲を仕掛けようと言うらしい。昼間に襲った村でも抵抗出来ない女子供を無残に殺していた。あの時の奴のゲスな笑顔は思い出すだけで虫唾が走る。
「ほう?まだ灯が付いていると?…ふーむ、ならば仕方ない。明朝まで待ちますか。」
どうやら夜襲は無しのようだ。正直ホッとしたがあの村の人間達の寿命がほんの少し延びただけだ。
夜明けと共にあの村に死が降りそそぐ。
「さてさて…ガゼフ・ストロノーフはあと幾つ村を滅せば現れてくれますかねぇ?」
本来なら村は2、3潰すだけで良い。それも皆殺しにする必要もない。我々の任務はガゼフを誘き寄せる事が主目的なのだ。
「無事ガゼフを誘き寄せた後、陽光聖典が奴を始末すれば……報酬はたんまりとぉ〜…クククク!」
ベリュースがくつくつと卑しい笑みを浮かべながらぶつぶつと呟くその姿は実に気味が悪い。あまり奴のことは考えないようにして、ロンデスは部下達に明朝まで休むよう指示を出そうとした。
「では、各員明朝までー」
「ガゼフ・ストロノーフの始末?…では何故村を襲う必要がある?」
「なんだ、作戦を忘れたのか?いいか、これは……え?」
ロンデスを始め各兵士たちが声の聞こえた方向へ顔を向けた。
「な、何者……何者だ!!??」
誰かが叫び、周りが一斉に剣を抜く。突然の出来事に驚いたベリュースは直ぐに部下達の背後へ隠れた。
そこには漆黒の全身鎧を纏った男が腕を組んで立っていた。夜風に靡く真紅のマント、金と紫の紋様が入った漆黒に輝く全身鎧、細いスリットのある面頬付き兜、先端が扇状に広がったグレートソードを2本背中に備えたその姿は…見るものを圧倒させる。
間違いなく只者ではない。
「俺はただの旅人だ。それよりもお前たちの話を聞いていたのだが……そのガゼフを殺す為に、何故何の罪もない村人達も殺す必要があるのだ?」
「…た、旅人風情に答える義理などないわ!」
ベリュースが漆黒の騎士から一番離れた場所でそう叫ぶが、誰が見ても分かる通りただの旅人な訳がない。
アレはヤバイ…本当にヤバイ。
ロンデスの勘がそう叫んでいる。
「そうか…だが、いくつもの村を焼き払い、その住民を殺し尽くしてきたのは事実なのだろう?」
静かで淡々と話して来る漆黒の騎士だが、その言葉一つひとつに激しい怒りが込められているのがロンデスにはハッキリと理解出来た。体が震え、剣や鎧もカチャカチャと鳴っている。周りを見るとどうやら自分だけではないらしい。
皆があの得体の知れない騎士に恐怖している。
「だ、だからなんだと言うのだ!?我々は神より与えられし崇高な使命を果さんとしているのだ!村人を殺したくらいでなんだ!?あんな泥だらけの薄汚い連中を殺した所で誰も困らんではないか!!我らの作戦を盗み聞きしたと言うのならば、貴様もここで始末する!オイ!!奴を殺せ!殺すのだ!!」
ベリュースがそう叫ぶも誰も動けずにいた。「おい何をしている!?」と彼が叫ぶも誰1人としてその場から一歩も動けなかった。ただ腕を組んで佇むだけの漆黒の騎士相手に皆が畏怖していたのだ。
「その日その日を懸命に生きようとしているもの達を殺すことが……崇高な使命?…使命だと?ふざけるのも大概にしろ……そのクソったれな使命で一体何人の罪無き人達を殺した?……一体何人の力無き者達を殺した?」
あの騎士から悍しい瘴気の様なドス黒い煙が溢れ出ている。目の錯覚?いや、錯覚ではない。徐々に空気が激しく揺れ始め、呼吸も上手く出来ない。既に部下の何人かが地面に膝を付けて、苦しみのあまり今にも倒れそうになっている。
「このクズどもがぁぁぁぁッ!!!!!!!」
恐ろしく怒気の孕んだ大声が聞こえた瞬間、漆黒の波動が一気に自分達へ襲い掛かって来すると、何の抵抗も無く意識が遠くへ飛んでいってしまった。
意識を失う寸前、その場にいた皆が抱いた感情は…抗うことなど出来ない『恐怖』だった。
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モモンガは怒りのあまり思わず怒鳴り声を上げてしまった。これがオーバーロードの身体であればそうなるよりも前に精神抑制が働いていただろうが、今は人化のモモンガだ。抑制など起きるはずも無く、そのまんまの激しい怒りの一端を露わにしてしまった。
その拍子に『絶望のオーラI』も発動させてしまい、まるで糸の切れた糸人形のように力無く目の前にいた兵士全員が卒倒した。
(あ、やべ。)
命は奪わないがもっと懲らしめるつもりだった。何だか物足りなく思っていると、茂みの奥へ隠れようとする腰が抜けた兵士を見つけた。
アレは確かリーダー格の男だ。
「おい」
ドスの効いた低い声で男を呼び止めた。気付かれたと悟ったのかビクッ!と体が跳ねた後はガタガタ震えるだけで動けなくなってしまった。やれやれとモモンガが奴の元まで歩み寄る。男は何とか身体を此方に向けるが完全に尻餅を着いた状態で腰が抜けている為、動く事が出来ないでいた。
「絶望のオーラのギリギリ射程外にいたのか…中途半端に影響を受けてしまったようだな。」
「ひ、ひぃぃぃィィィィィ!!」
リーダー格…以降隊長と呼ぶ事にしよう。隊長は顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、股間部分もすっかり濡れている。無様な姿だがモモンガは男の胸ぐらを掴むと軽々と持ち上げる。
信じられない膂力に隊長は必死に浮かぶ足をバタつかせる事しか出来なかった。
「貴様らは何者だ?何故ガゼフとやらを殺すのに何の罪もない人々を殺す?」
「じゃ、じゃまれぇ!おれをだりぇだと思っでいりゅ!?おりぇはベリュー」
スパァン!!
「へぼぉ!?」
ここまで来てこの威勢はある意味凄い。だが腹立たしいのでモモンガは彼の頬にビンタを炸裂させる。勿論、本気ではない。そんな事すれば彼の頭部と首から下がお別れする事になってしまう。
「何故罪のない人たちを殺した?」
「こ、こんにゃ事してただでー」
スパパァァン!!
「へぼぼぉ!?」
再び数発のビンタをかました。
そこから先はもう質問も無しに容赦なくビンタを喰らわせ続けると、あっという間に隊長の顔は何倍にも腫れ上がった。
「も、もうやめ…やめじぇぐだしゃい…ゆるじ…で…お、おがね…おがねあげまずがら…」
情けなく命乞いをしながら泣きべそかくしかなくなった隊長は漸く観念した。
「これ以上痛いのが嫌なら答えろ。貴様らは何者で…何が目的だ?ガゼフを殺すことがその目的なのか?」
モモンガの問い掛けに隊長はいつ来るか分からない暴力に怯えながら何度も必死に頷いた。
「わ、だじは…ず、ズレイン法国の…偽装部隊隊長で…王国戦士長…ガゼブ・ズドロノーブを…誘き寄ぜ……べ、辺境の地で…殺ず作戦…でじだ。」
「スレイン法国?」
スレイン法国は確か此処より南方にある国家の名前だ。村長曰くかなりの秘密主義国家の為、詳しい事はよく分からないらしいが…
(何故法国の人間がこんな事を?)
モモンガは更に質問を続けた。
「何故ガゼフを殺そうとした?何故ここへ誘き寄せる必要があった?」
「お、王国を…崩壊ざぜる…だ、為…に…」
王国の崩壊?何でガゼフの死がそれに繋がる?
「も、もうゆるじで…ごろざないで…!」
悲痛な叫びだった。モモンガとて殺すつもりは無いが無事に済ませるつもりもない。カルネ村にも危害を加えようとしていたのなら尚更だ。
「人を傷付ける事は出来ても、自分が傷付けられる覚悟は無いのか?ならば……」
「ひ、ひえェェェェェェェェ!!!!???」
夜の森に男の悲鳴と聞き心地の良い連続ビンタの音が木霊する。その後、痛みのあまり気を失ってしまった。顔は既に倍近く腫れている。
「ふん!…カスが。」
モモンガは掴んでいる胸ぐらを離すと隊長が地面へ落ちた。周りを見回すが立っている者はいない。皆が絶望のオーラIを浴びた事で、恐怖のあまりに泡を拭いて気を失っている。
「……取り敢えず運ぶか。」
モモンガは兵士達全員を縄で縛り上げると、開いた《転移門》の中へ乱雑に放り込んだ。全員、放り終えると最後にモモンガが《転移門》をくぐり、カルネ村へと戻った。
作業を終えた頃にはすっかりと夜は明けてしまっていた。
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翌朝、村は朝から騒ついていた。
村の広場に縄でグルグル巻きにされた兵士達がいたのだ。その傍らには武装したモモンガが腕を組んで立っていた為、村長は詳しい事情を彼から聞いた。
「な、なんと…村を…!?」
「はい。コイツらは複数の村を襲撃し、このカルネ村も明朝に襲うつもりだったようです。」
村人達から悲鳴と混乱、罵声が聞こえて来るが村長が何とか場を鎮めた。
「まさかそんな事が起きていたとは…襲われた村は気の毒としか言いようがありません。それにこの村もその襲われた村と同じようになっていたと思うと……モモンガさん!またこの村を救ってくださり誠にありがとうございます!」
全員がモモンガに向けて頭を下げた。
慌てふためくモモンガは頭を上げてくださいと必死に伝える。
「今回の件は本当に偶々です。何はともあれ…皆さんが無事でよかったです。」
モモンガの優しさに皆が感動の涙を流している。こんな辺境の村をここまで気に掛けてくれて、本当に頭が下がると思いだった。
そこへ再びデスシーフからモモンガへ《伝言》が入った。
(……やれやれ、コイツらの増援か?)
報告を聞くとどうやら統一性の無い謎の騎馬集団が此方に向かって来ているとの事で、あの数十分程で此方に到着するらしい。
(一難去って何とやら……なに?)
デスシーフからの追加報告に少し耳を疑った。
(レベル30弱が1人いるだと………?)
レベルだけで見れば雑魚だが、人間種でここまで高いレベルを持つ個体は初めてだ。
(何者だ…?)
モモンガは村長に謎の騎馬集団が向かって来ている為、皆に家の中へ隠すよう伝えた。村長は女子供だけを家の中へ隠し、村の男達は武器になりそうな物を持ってモモンガと共に留まった。村の男達は「もしもの時は俺たちも戦います!」と言って聞かなかったのだ。最悪の場合は彼らを守りながら戦わねばならないと心静かに覚悟を決める。
その騎馬集団が何者か不明だが村に危害を加えようものなら容赦するつもりはない。
モモンガが堂々とした佇まいで広間に立っていると奥から巻き上がる土煙が近づいて来た。徐々にその集団の姿がハッキリと見える。
確かに皆が戦士風のバラバラな装備だ。山賊かと思ったがそれにしては妙に面構えがしっかりし過ぎてる気がする。その中の1人…偉丈夫で鋭い眼をした男が此方に視線を向けていた。
(コイツが…レベル30弱の個体か。)
これまで会った人間種の中で一番強いだけあってかなり鋭い眼光をしている。ふと村人達へスリット越しに視線を向けると、皆ホッとした面持ちをしていた。
(ん?知ってる人なのか?)
モモンガが聴くよりも早くその偉丈夫の男が口を開いた。
「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ!!王の御勅命により村々を襲う帝国の騎士から民を救うために参った!先ずはこの村の責任者と話がしたい…だが、その前にー」
王国戦士長と名乗ったガゼフが一層鋭い眼光をモモンガに向けた。
「貴殿は何者か?見たところ帝国の騎士では無さそうではあるが…それに…」
ガゼフは村の広間に纏められている兵士達に眼を向ける。
「アレは見たところ帝国の騎士達のようだが……詳しい説明を求めたい。」
再びモモンガに視線が向けられる。ガゼフからの視線だけでも体に穴が空きそうなのに、その場にいるほぼ全員からかなりの注目が自分に集まっている。
モモンガは堂々とした佇まいのまま思った。
(めっちゃガン飛ばされてる……怖ぁ)
R-18版が思ったより高評価でホッとしてます。
アンケートは締め切らせて頂きます。
ご協力ありがとうございました。
そして新たにアンケートを立てましたので、お時間のある方は是非御協力お願いします。
モモンガの餌食になるとしたら?(飽くまで参考)
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ヒルマ・シュグネウス
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ブリタ
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イミーナ
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レエヴン侯の妻
-
吸血鬼の花嫁