第二話 『旅立ちの日』
二話投稿遅れてすみませんでした!
※3話投稿すると言って大変遅れてしまいましたが、区切りの関係で2話に大幅後付けしてという形の更新にさせて頂きました。テスト終わって比較的暇なので、週明けには3話として正式に投稿したいと思っていますので、よろしくお願いしますmm
「よし、行くか」
翌日の昼前。孤児院の建物前で、準備を終えた3人と見送りに来た人たちが集まる。
「では、そろそろ行ってきます。マリー先生にみなさん、これまでありがとうございました」
と、クロハは自らの恩人と一緒に暮らしてきた仲間たちに、深々と頭を下げると、レラとクロードもそれに倣う。
「はい、どういたしまして。でも、ちゃんと帰ってきてくださいね」
クロハはそう返答するマリーの表情が、一瞬憂いを帯びていたのを感じた。そしてそれを振り払うように、
「はい、きっと帰ってきます」
そう、力強く告げた。
「って、出発の雰囲気になってるけど、マリーさ(・)ん(・)、ちょっといいかな」
クロードがいつもになくマリーを「さん」付けで呼ぶが、
「はい、なんでしょう」
マリーは特に気にした様子もなく答える。が、他の周囲の人たちはクロードの発言を察して押し黙る。
「マリーさん、帰ってきたら、俺と付き合ってくれますか?」
とクロードが直球の告白をすると、マリーは一瞬のうちに様々な表情を浮かべ、
「帰ってきたら、ですよ?待ってますからね、クロード」
と言う。その承諾の返事に、周りからは盛大な拍手が響く。
「良かったな、クロード」
クロハは友人に対して祝福の言葉を贈るが、クロードは上を向いて顔を両手で押さえ、
「言っちまったよついに…」
と、完全に上の空な状態だった。
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孤児院を出発し、時刻が正午を回ったころ。クロハ、レラ、クロードの3人は町の郊外まで来ていた。
「クロード、さっきの告白さ、もうちょっと言い方あっただろ」
とクロハは若干呆れつつ言うと、
「いいんだよ、受けてくれれば」
とぶっきらぼうにクロードが返す。
「そのお前の無駄に前向きな性格、嫌いじゃないよ…」
とクロハは諦めながら言う。
「マリーさん、ロマンチックな告白が良かったと思うな…」
レラがクロードに追撃を試みるも、
「そういやレラ、親には挨拶済ませたのか?」
クロードが即座に話題を逸らす。スルースキルが高いのか、意外と気にしてたのか。多分後者だろう、とクロハとレラは視線を交わし、その後レラは
「あれ、言ってなかったっけ?」
と不思議そうに言ってくる。因みにクロハも聞いた覚えはない。
そのようにして話しながら歩いていると、一つの小高い丘を越えたところで、街道の手前と奥とを物理的に隔てる、巨大な壁が見えてくる。世界最大と言われる、ポーヴィル関所だ。
「あれがポーヴィル関所…」
「関所というより、砦か何かじゃないかコレ?」
レラとクロードが、驚いた様子で声を上げる。
そこから20分程度歩いたところで、関所の前に到着する。閉まった関所の扉の前で迫力に押されて立ち止まっていると、横の小屋から出てきた兵士と思しき鎧を纏った体格のいい男に話し掛けられる。
「何だ、お前ら…関所越え希望者か?ここは子供の来ていい場所じゃねえんだ、帰んな」
と、やけに威圧的な対応をされる。すると、
「私たちは全員16歳以上なので問題ないです、手続きをお願いします」
とレラが強気に返す。
「年齢のこと言ってる訳じゃねえ。あんたら駆け出しの冒険者だろう、最近はこの先で行方不明者が多い。死にたくなきゃ引き返しな」
言い方はきついがこちらを心配してくれていることからきっと根はいい人なんだろう、と感じたクロハとクロードは、穏便に話して解決しよう、と思ったが。
「力を示せば、通してくれるってことですか?」
レラがとんでもない発言をして、クロハとクロードは血の気が引くのを感じる。関所の防衛をする兵士は、エリート中のエリートである。そんな人物に挑発とも取れる発言をするなど、余程の実力者かバカかのどちらかだろう。もっとも、2人に言わせてみれば、“両方”なのだが。普段は大人しいレラだが、時々頭のネジが外れているんじゃないかと思うこともある。
「ほう、中々強情な奴だな、そんなに自信があるなら、関所の壁に全力で魔法を撃ち込んでみろ。それで見極めてやる」
男は先程までとはうって変わって獰猛な笑みをその顔に浮かべる。
レラはその言葉には返事せずに、氷魔法で氷柱のような形状の弾丸を正面に向ける。魔力が注がれていくにつれ、その氷柱は鋭く、長くなっていく。
一瞬、氷柱が一際煌きを強めた瞬間。
氷柱針は鏑矢のような甲高い音を上げ、高速で飛翔し、
壁に僅かに刺さり、砕け散った。
暫くの間、静寂が訪れる。そしてその数秒後に、
「何の騒ぎだ!?」
と一つの甲冑を纏った人間が、その重量感に見合わぬ速度で飛び出してくる。
「ゴードンさん、えっと、これは…違うんです…」
兵士から威勢の良かった表情が消え失せ、青ざめた顔で、ゴードン、と呼ばれた上司らしき人物に釈明を試みる。その男は、その場の状況を一目で察したようで、
「何やってんだこのアホが」
この後滅茶苦茶怒られた。
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しばらく怒られてから、3人は関所を通過する手続きをするため、詰め所前の建物内で順番待ちをしていた。
「商隊が先着か…こりゃ結構時間掛かりそうだな…」
クロードが憂鬱そうな表情で話しながらため息をつく。
「確かに、結構な規模だな…」
とクロハもそれに賛同する。今しがた出ようとしている、「ポーヴィル貿易都市」はには商隊が訪れ、定期的に商業区でバザーを開いている。彼らの姿は、街の住人なら見たことがないものはいないくらいだ。しかし今はいつもの広場でのバザーの様子とは違い、圧迫されているような感覚を受ける。
入り口近くにいる人から番号入りの整理券を受け取り、手頃な椅子に腰掛けていると、不意に横から
「今のうちに、買い物とか済ませておこう」
とレラがそう提案してくる。
「こんなところで何か置いてるのか?」
「うん、向こうに売店があるみたい。ちょっと行ってみない?」
「おう、折角時間あるんだし行ってみるか。クロード、お前も善くか?」
「いや、俺はいいよ。二人で行って来い、二人で」
「二人で」と強調する様子に頭の中で疑問符を浮かべつつ、クロードを置いてレラと一緒に建物内に併設されている売店に向かう。そこには、流石は交通の要所にある店ということもあってか、日用品から武具に至るまでさまざまなものが陳列されている。
「すごい品揃えだね…」
とレラが呟く。
「そうだな、何でも買えそうだなここなら」
「食料とか、十分な量はあると思うけど、念のため買っとかない?」
「そうだな、万が一、な」
そんなことがないことを願いつつ、カゴの中に缶詰入りの保存食を投げ込んでいく。
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買い物が終わる頃には、それなりに時間が経過してしまっていた。待合所の方へ戻ると、商隊の人は殆どが既にいなくなり、先程までとはうって変わって、建物内の重厚な雰囲気が感じられた。
一瞥してクロードの姿が目に留まり、そちらの方へ歩いて戻っていくと、クロードは隣にいる人物と楽しげに会話をしている。
「おお、クロハ、戻ってきたか。買い物楽しかったか?」
とクロードがこちらに気づいた様子で呼びかけてくる。
「まあ、楽しかったよ。それより、隣のその人は?」
とクロードの隣にいる男性に視線を飛ばして問いかけると、
「クロハ君に、そっちはレラちゃん。久しぶり、と言っても、どうやら覚えてなさそうだね。私はジェイス。ここで物見をしている」
「こんにちは、どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
とレラが挨拶を返す。
「君たちが小さかった頃だからね、覚えていないのも仕方ない。私も昔は、マリー院長にお世話になっていたんだ」
クロハは、ジェイスは兵士なのに随分丁寧な物腰だな、という印象を抱いていたのが、それを聞いて合点がいった。マリーは、こと礼儀に関してはとても厳しかったからだ。
「そんなこんなで、久しぶりの再開に、しばらく話し込んでたって訳だ」
そのとき、建物の奥のほうからジェイスさん、と呼ぶ声が聞こえてくる。
「おっと、呼ばれたみたいだ。クロード、話の続きはまた今度しようか。クロハ君たちも交えて、冒険の話を聞かせてくれ。」
「おう、分かったぜ。じゃあ、またな」
と手を振るクロードを脇に、クロハとレラは軽くジェイスに会釈する。
「なんだか、いい人そうだね」
「おう、あいつはいい奴だぞ。俺もいつも遊んでた仲だ」
「クロードと仲いいとかむしろ不安だな…」
と冗談を言い、また沈黙に戻る。
それから5秒も経たないうちに、受付のほうからクロハたちの整理券の番号が呼ばれる。
「呼ばれたみたいだよ、行こっか」
とレラがそれに反応し、各自荷物を背負ってカウンターの方へ向かう。
「こんにちは、通過希望者の方ですね、私が受付を担当させて頂きます、どうぞよろしくお願いします」
とカウンター奥の女性が挨拶をしてくるので、3人も
「「「よろしく(お願いします)」」」
と唱和して挨拶を返す。
「では、関所通過の手続きについて説明させて頂きます。まず…」
と各種手続きについての説明を受けつつ、書類にサインしたり身元確認などをしていくが、事前に聞いていたことだったので案外スムーズに事は運んだ。
「…では、手続きはこれで以上となります。何か質問があれば気軽にお申し付けください」
その言葉に、質問がないことを素振りで示すと、
「ではみなさん、お気をつけて。良い旅を」
といかにもマニュアル通りな感じで締めくくられる。
ゲートのように仕切られている部分を通過して、
「ふう、やっと手続き終わったね」
と息をつくレラに対し、
「おいおい、まだ始まってすらいないのに、何言ってんの」
と、多少呆れつつクロハは答える。そして何ともなくクロードの方をみると、なんだか深く考え込んでいる様子だったので、
「なんか考え事でもしてんの?」
と聞くと、
「いや、このまま外に出るには、なんか忘れてるような気がするんだよな…何だったっけ…」
「まあ、多分大丈夫だろ」
「何とかなるよ、きっと」
と、若干不安になりながらもクロハとレラがそう返事する。
受付の人に見送られて建物の入った側とは反対側の扉をくぐると、目の前には橋が架かっていて、そこから街道が繋がっている。
初めて「町」から出たことに、何か心にくるものがあり、感慨のような感情を抱きつつ、橋を渡って歩き出す。そして口々に門出の感想を、
「やっぱこういうのって、気持ちいいな」
「うん、なんか、こう、今から一直線に進んでく、って感じするね」
「そうだ…な…?いや、やっぱ駄目だったわ」
クロードだけはなんだか歯切れの悪い返事をしてくる。
「馬車借りるの…忘れてね?」
「「あっ…」」
それから馬車を借りて無事出発に漕ぎ着けるのは、30分後の事であった。
第二話読んでいただきありがとうございました。今回字数少な目でしたが、次話多めにする予定ですのでよろしくお願いしますmm