第一話 『門出の前夜に』
こんにちは、Esterです。失敗を重ね心機一転3作目の投稿になります、全力で執筆していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
「ふう、やっと終わったか…」
大きく膨らんだ3つの鞄を眺め、クロードが呟いた。
「じゃあ、外で剣の稽古でもする?」
と、レラが返す。
レラは女の子だからもう少し女の子らしくすればいいのに…と思ったけど、そんなこと口にしようものなら彼女に氷柱針を撃ち込まれそうなので黙っておく。
「おっ、じゃあ行くか」
とクロードが賛同し、クロハ、レラ、クロードの3人で孤児院の裏手の空き地に出てくる。
「木剣忘れてきた。今持ってくるわ」
というクロードにクロハは手でそれを遮って、〈換装〉の能力を使って虚空から取り出した2本の木剣のうち1本を縦回転で放る。
「危ねえな何投げてんだよ…」
と軽口を叩きながら、片手でそれをキャッチする。
「ちょっと待ってて、今耐久に強化掛けるから」
と言って、レラは〈水魔法〉系統の防御魔法の詠唱を始める。その5秒後位に、
「準備できたよ、それじゃあよーい、どん!」
レラの合図をきっかけに、クロハとクロードは同時に地面を強く蹴る。2人の袈裟斬りが交差し、木剣同士が衝突してカン、という子気味のいい音を立てる。そしてじわじわとペースを上げつつ剣の応酬の速度が上がっていく。
「まだ上がるだろ?」
とクロードに煽られ、クロハは
「当たり…前だ!」
と返しつつ、さっきまでよりも重い一発を打ちこんでから後ろに飛び退く。
気づかない内に付いていた小さな傷が、レラの回復魔法で癒えていくのを感じる。
暫し視線を交えた後、クロハは一瞬早く動き出す。クロードも真面目な表情になり、それを迎え撃とうとする。クロードは〈軽業〉の能力を発動し、軽めに撃ち込んできたクロハの攻撃を紙一重で回避し、斬り上げで反撃する。その斬撃をまともに食らい、クロハは顔を歪める。
慌てて回復しようとするレラをクロハは片手で制し、まだ戦える、と意思を示す。
再度クロードの懐に突撃し、反撃されるのを視野に入れ、それを回避する余裕を持って慎重な攻撃をしていく。〈軽業〉で真正面からの攻撃を全部避けられ、どこかで仕掛けなければならないという焦りを無理矢理押し潰し、少しずつペースを上げていく。
十合ほど切り結んだ辺りで、クロードの回避がほんの一瞬、だが確実に遅れたのを感じたのを感じ、
「ここだ!」
と全力の斬り上げを放つ。そして振りぬいた剣をそのまま虚空に放り投げる。
「!?」
クロードは不意を突かれて驚きの表情を見せる。
クロハは〈換装〉で‘2本目の’木剣を中空から抜刀し、真一文字に剣を振りぬく。
だが。当たると確信を持っていたその一撃は、
「本物だったら俺の負けだな、」
とクロードの右手に掴まれていた。そしてそのまま動けないクロハに、木剣の柄での打撃が叩き込まれた。そして意識が暗転する。
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気がつくと、目の前にはレラの顔があった。
「目、覚めたみたい」
とレラが言ったタイミングで膝枕されていたのだと気づき、顔の近さに赤くなりながら
「…ありがと」
と言い、クロハは体を起こす。
「随分暗くなったな…今、何時?」
クロハが聞いた丁度その時、孤児院から子供が出てきて
「クロハ兄ちゃん達、ご飯できたってさー」
と、食事に呼びにくる。
「もうそんな時間か…にしてもクロハ、ホント子供に懐かれてるよな」
クロードの呟くのをよそに、3人は孤児院の中に入っていく。
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「ただいまー」
クロハが食堂の扉を開けると、
「おかえり、クロハくん。クロードにレラちゃんも」
と、柔らかな口調で院長のマリーが出迎えてくれる。
「マリーちゃんただいまー」
「こんばんは、マリーさん」
とクロードとレラも返事をして、空いている椅子に腰掛ける。そのまま3人で待っていると、食事当番の男の子が、皿を運んできてくれる。
「はいこれ、クロハにーちゃんにレラねえちゃん、あとクロードの分」
「最年長の俺だけ呼び捨てとはいい度胸してんじゃねーか」
と、クロードが冗談半分に返す。そんなこんなで暫く喋っていると、
「みんな、準備できたね、それでは、いただきます」
とマリーが声を掛けると、食堂内に
「「「いただきます」」」
と唱和が響き、少しして楽しげな会話の声が聞こえてくる。
クロハたちも、
「2人とも、おつかれさんっす」
とクロードがコップを掲げると、軽く乾杯をしてから食事にありつく。
「そういえばさ、またクロード〈軽業〉使える時間伸びてないか?2ヶ月前の倍くらいになってるんじゃない?」
「いやいや、流石に気のせいだろ。まあここしばらくは鍛えるの結構頑張ってたけどな。クロハこそ、あそこで剣投げてから繋いでくるとは恐れ入ったよ」
と、クロハとクロードが互いに健闘を称えていると、
「私もやりたかったのに…」
とレラが不機嫌そうに会話に割り込む。
「マリーさんが子供達の授業あったんだし、回復できるのはレラしかいないから仕方ないだろ?それに、レラの防御魔法あると全力で攻撃できるから助かってるし。な、クロード?」
「お、おう、そうだよなクロハ」
と2人でレラを宥める。
事実、彼女が持つ水属性は、支援系・回復系において優れた性質を持っている。クロハとクロードからしても、相手の怪我を殆ど気にせず全力で打ち合えるから助かっている。
「それに、俺レラに〈換装〉と〈軽業〉使われたら、多分勝てないし」
「ああ、それは同感だな」
彼女の能力〈同調〉は、視界内の人の能力を同時に1人までコピーして使用できる能力だ。とはいえ、完全なものではなく、能力のデメリットが大きくなってしまい、発揮できる力も能力所有者本人よりも劣化してしまう。ゆえに、彼女は周りから器用貧乏だと言われているが、クロハとクロードは知っている。
彼女は非力ながらも男顔負けな異常なまでのスタミナを有し、こと持久力に関しては誰にも負けない程だ。その上、クロハの性質上デメリットがない〈換装〉と体力を使う代わりに大幅に運動能力を上げる〈軽業〉の能力は、彼女と抜群に相性がいい。
クロハも、初めて彼女の使う〈換装〉を目の当たりにしたときは、正直自信を失くした位だ。
「もう、謙遜しないでよ…私を褒めても何もないからね?」
と口では言いながら、満更でもなさそうな様子だし、実際謙遜なんかじゃなくて事実じゃないか、とクロハたちは目を合わせた。
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そうして食事が終わり、軽く入浴を済ませて床に入る。
クロハとクロードは途中でレラと別れ、部屋に入って二段ベッドに横になる。
暫くの沈黙の後、クロードがそれを破って言った。
「なあ、クロハ」
「どうした?」
「いや、寝て起きたらついにここを出るんだな、って」
「ああ、そうだな」
それぞれが感慨深そうに、会話を繋いでいく。
クロードが唐突に
「俺、明日マリーちゃんに告白するわ」
と言うと、
「ああ、いいんじゃないかな。誰かに取られたら困るもんな」
とクロハは茶化す。
クロードが院長…マリーさんを好きなのは、当人を除く孤児院のほぼ全員が知っている事実である。
「まあ、受けてくれるといいな」
「そんなこと言って、お前にもレラがいるだろークロハ」
「アイツは昔のことがあってから俺に懐いてるだけで、そんなことはないよ…きっと」
と言うと、再び部屋は静けさに包まれる。
「気付いてやれよクロハのバカが…」
とクロードが最後に呟いたのが、クロハに聞こえることはなかった。
第1話、閲覧ありがとうございました!
感想、レビューなどどんどん受け付けていますのでよろしくお願いしますmm