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転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります(旧:悪役令嬢は引き籠りたい) 作者:フロクor藤森フクロウ
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お父様と学園見学

 読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

 おかげさまでブックマーク3000件越え、総合評価一万越えしました。

 へっぽこ令嬢と魔王パパのターンです。

 アルベルはなんだかんだといってかなりのファザコンです。


 お父様は私が目の届かない場所に行くのを嫌う。

 どれくらい嫌がるかといえば、セバスの胃薬消費量が激増して、使用人から青い悲鳴が上がるくらい。

 でも私が出かけたい場合、取れる選択はただ一つ。

 今までそれほど出かけたい用事はなかったし、基本屋敷の中で事足りたから少し賭けなのだけれど――いけるわよね?

 それとなく以前行ってみたいといったときのお父様の様子からするに、それは確信にすら変わっていた。

 なので! お父様のその娘ラブなお心を利用させていただきます!

 下種な娘ですみません。だってお父様色々心強過ぎる。攻略対象という天敵がいっぱいの魔窟に行くには一人じゃやっぱり怖すぎる。



「お父様。お出かけしたいのですが一人じゃ怖いから、一緒にいて下さらない?」



「勿論だよ、私の可愛いアルベルティーナ。ついでに王都のブティックにでも行くかい?

 それともアルベルの作ったローズ商会を見に行こうか? まだ一度も見にいったことないだろう?」


「ふふ、お父様のお出かけなんて久しぶりですわ。お父様にお任せします」


 作ったのはほぼほぼジュリアスとセバスの尽力の賜物で、たまたま私が我儘ぶちかました言い出しっぺなだけなんだけれど・・・・

 お父様が嬉しげなのでよしとしましょう。

 修道院の問題さえなければ、ラティッチェ親子はとても仲良しなのよね。私も相当ファザコンだわ。

 親の心子知らずというけど、子の心親知らずだわ。私はラティッチェ家が――お父様が失墜するのなんて見たくないわ。公爵家が没落するなんて嫌。

 急に私がお父様をデートに誘ったことは申し訳ないけれど、セバスは優しいから怒らない。というより、ラティッチェ家のみんな、おバカ娘ことアルベルティーナに甘い気がするのよね。おかげでヒキニートは今日も平和にほえほえ笑っていられるのですが。

 お父様の腕に自分の腕を絡めると、顔がふやけるんじゃないかというくらいにこやかである。ここで脂下がって見えないのが美形ゆえよね。

 うちのお父様はお腹も全然出ていないし、纏う衣装も歴史ある貴族と流行の最先端をうまく使ってスタイリッシュでカッコいいもの。

 ローズブランドの最新ドレスは、最近大流行のスレンダータイプ。ハイウェストの切り替えがあり、鮮やかな青のリボンがサッシュベルトとなっている。白いドレスには繊細なレースと刺繍をふんだんに盛り込んであり、派手さはないが上品で美しい。ふんわりと膝の上で広がるシルエットが綺麗でお気に入り。

 髪はハーフアップで結い、銀とアクアマリンの細工でできているバレッタで留めた。

 耳に揺れるのはドロップ型のお揃いのアクアマリンのイヤリングとネックレス。

 お父様とのお出かけなんだから、気合入れてお洒落をしないと。

 私は知らない。私の『我儘』で、お父様のご機嫌がむこう一か月くらいは保障される! と感涙していたこと。しかも可愛すぎる我儘は一緒にお出かけ。お父様には完全にご褒美に過ぎない。娘パワーは偉大過ぎなのだ。




 お忙しいのにお父様はこうもあっさり娘の我儘聞いちゃっていいのかしら。

 でも大変ありがたいでござる。攻略対象に会いに行くにあたり、周囲にフラグかブラフか分からないものが乱立している真っただ中にはいきたくない。

 チキンには無理でござる。引きこもりたいでござる。だけど破滅ルートは断固拒否でござる。

 お父様は文武両道の極みにいる人だ。剣を持てばミカエリスも圧倒するし、魔法を使えばキシュタリアさえ翻弄する。正しくチートそのものの存在――だが、そのチートを持ってすら本家アルベルが排斥されたのは、そのチートパパがルートによっては国境で指揮を振るわなくてはいけなかったり、国内で不穏な事件がありアルベルの近くにいけず威光を示せなかったりする状態になっていた。

 お父様はアルベルティーナの最強の盾にして剣。

 ごめんなさい、娘は一生お父様のすねかじりかもしれません。

 やめるにはやはり規律正しい修道女になるくらいしかない・・・。

 ヒキニートに労働なんて今更無理です。

 清貧生活に耐えられるかしら・・・住めば都にできるかしら?




 学園にいくと、超絶VIP対応だった。そりゃそうですよね、うちのお父様ってものすごい権力者だもの。

 公爵にして元帥。すごいですわぁ、娘ヒキニートですけど。

 ちょっとけばけばしいほどのキンキラした調度品のある応接室に通してもらえたけど、呼び出したいのが公爵子息のキシュタリアじゃなくて、ジブリールだということに驚いていた。

 一応顔を隠すために、つばの広いボンネットを被っていた。


「ああ、そうだ。アルベル。少しいいかい?」


「はい、何でしょうか」


 お父様が私の耳、というかイヤリングに触れると俄かにふわりと空気が動いた。

 この感覚は魔力? 首をかしげると、髪色がお父様の御揃いのアッシュブラウンになっていた。キシュタリアより、ちょっとだけ明るい茶髪はお父様の色。もしやと思い、目を確認しようとしたらセバスがさっと手鏡を差し出してくれた。やはりアクアブルー。


「まあ! お父様と御揃いですわ!」


 色味が明るいから、だいぶ雰囲気が柔らかい感じになる。

 この状態で並んだら、本当に親子っぽいですわ! 私、お母様の遺伝子が強すぎるせいかお父様要素が薄い・・・・本家アルベルはあの有象無象に冷酷無比な感じお父様の遺伝子を感じるけど。

 でも、お父様の目を盗んでお母様――クリスお母様が浮気とか無理過ぎますわ。そんな可能性、お父様が私に一切興味をなくすくらい在り得ない。

 でもなんでかな? ニコニコしたまま首をかしげる。


「アルベルはあまり顔を知られていないからね。だけど、クリスティーナによく似ているから、余計な奴が感付いてはいけないからね」


「お父様がいらっしゃるのに?」


「愚か者はどこにでもいるんだよ、アルベル」


 どこから取り出したのか、眼鏡まで付けられる。これも魔法の道具らしい。何かは言わなかったけど、GPS系かしら。

 それにしても本当におバカさんですわ。お父様を敵に回したい方がいるなんて。本当にもの好きにも程がありますわ。

 愛おしそうに私の頬に触れるお父様の胸には、今は亡きお母様との記憶が去来しているのでしょう。私を見て、私ではない誰かの面影を見ている。

 私の記憶にはほとんどクリスティーナお母様の記憶はない。

 でも、私の姿にお母様の姿を見るお父様を見るのは嫌いではない。私はお母様によく似ている。そして、お父様にはあまり似ていない。だけど、私を通してお母様を見るお父様の眼差しは、私はお父様とお母様に愛されて生まれてきたのだと分かるから。

 そして今、私はカラーリングだけだけどお父様である。

 ちょっとワクワクしちゃうわ。この姿なら、キシュタリアとももっと姉弟っぽく見えるかしら。うずうずと待っていると、焦り顔の学園長が来た。

 なんでも、ジブリールは課外授業で学園から離れた森林地帯にいるらしい。貴族令嬢がなぜそんなところに・・・と思うが、ファンタジーにツッコミを入れても詮無いことだ。そしてここは恋愛ゲームの舞台の学園。多少不条理はフラグの前に木っ端だ。

 小一時間ほどしたら戻るとのこと。


「使えんな」


 お父様がさっくりと嫌味を飛ばすと、学園長が震えあがった。

 嫌ですわ、お父様が魔王モード。可愛い娘が待たされるという事態に大層お怒りのご様子。


「では、待っている間、少し学園を見て回ってよろしくて?」


「ええ! それはもちろん! 今は温室や西の庭の薔薇園が見頃ですよ」


 学校に薔薇園なんているのかよ、そんなツッコミを頭の中でグーパンして黙らせる。

 突っ込んだら負けだ。ブルジョワの多い学園だからそういう無駄設備も多いんだ、きっと。

 しかし、お父様をこのまま待たせていては軽率に何するか分からない。

 私は不自然でない程度にはしゃぎつつ、学園散策をするとしよう。

 見頃といわれた薔薇は見事で、生け垣やアーチを様々な花が彩っていた。陽の光に艶めく緑と、色鮮やかに咲き誇る姿は一枚の絵にしたいほど美しい。


「わあ、とっても素敵ですわね。お父様」


「うちにも作ろうか?」


「うちのお庭も気に入っているので、あのままが一番ですわ。こういうのは少し見られればいいのです」


「確かにね、王宮にも薔薇がたくさんあるけど三日も見れば飽きてしまったよ」


 それは王宮の庭師が泣いていいレベルでは?

 ラティッチェ邸のお庭も、庭師たちが丹精込めて整えている。

 たまにちょこちょこと見に行き、新たな花を見つけるのは私の楽しみの一つだ。全部庭を見たら倒れる。ラティッチェ邸はかなり広い。

 春先などはガゼボでティータイムも乙なものだ。

 そういえば、最近は新作スイーツを作っていないわね。そろそろエクレアとクッキーシューとプリンのレシピを解禁すべきかしら?

 メレンゲや生クリームを効率的に作る魔石動力のミキサーも開発が進んでいるし、調理レベルも着実に上がってきている。魔石の竈や魔石オーブンや魔石コンロを作れるか、魔法使いや職人を集めて試作中だ。魔法使いって家庭製品に興味ないけど、研究費を出すっていったら飛びついてきた。魔石の冷蔵庫や冷凍庫も製品化に乗り出している。どこの世界も、研究というのはパトロンがいないと進まないみたい。


「あら、この生垣は迷路になっていますのね」


「その様だね」


「お父様、競争しませんか? どっちが先にゴールするか」


「競争?」


「ダメですか?」


「構わないよ。――セバス、レイヴン、アンナ。お前たちはアルベルに付きなさい」


 お父様が当然のようにいえばずっと一歩下がって控えていた三人が、すっと私の傍による。

 お父様の周りには誰もいない。

 ええ、ヒキニート娘より公爵にして元帥のお父様をお守りしたほうがいいのでは? 


「お父様はお一人ですの?」


「自分の身くらい自分で守れるし、迷子になりそうなのはアルベルだろう?」


 私は一応ここの卒業生だしね、とチャーミングなウィンクを飛ばすお父様。

 しまった! お父様がこの学園の卒業生だったなんて!

 でも確かに・・・・王侯貴族たちの子供たちが通うのだから、名家のラティッチェ公爵家のお父様も通っていておかしくない。事実、次期当主のキシュタリアは通っているのだから。ちなみに第一王子はじめとする殿下たちも。


「もし迷子になったようなら、薔薇を切り倒して外にでておいで」


「そ、そんなの薔薇が可哀想ですわ!」


 折角こんなに綺麗に咲いているのに!

 お父様が不思議そうに首をかしげるけど、もったいない精神がNOを叫んでいる。


「そもそも、わたくしは迷子になんてなりませんわ!」


 お父様のそれはそれはお優しい笑み。ニコニコしているが、決して肯定はしてくれなかった。なにをぉおう! すぐに脱出してゴールしてやるー!



 で。



「あら????」



 迷ったっぽい。


 勇んで出発したものの、右を見ても薔薇、左を見ても薔薇のこの状態。10分ほどで見事に迷いました。あれもこれも綺麗だと目移りしてふらふらしすぎたのかしら? あら、いやだ。

 頬に指を添えて「あるぇー???」と首をかしげてしまう。私ってもしかして方向音痴だった? そういえば、道って大抵ジュリアスやキシュタリアが先導してくれていたような気がする?

 急に足が止まり、あっちへうろうろ、こっちへうろうろしだした私に従者たちはお父様と同じ生ぬるい慈愛のアルカイックスマイルを浮かべている。レイヴンは不思議そうに眺めている。

 おやめ! その微笑ましい表情が余計にいら立ちますわ!

 もはや意地になりつつ、周囲をきょろきょろ見ながら当て所なく歩き回る。


「ううう・・・」


「お嬢様、そちらの道は先ほどいきました」


「そうですの? では・・・」


「そちらは行き止まりです」


「あら?」


 そうだっけ。だめだ完全に迷っている。

 もう来た道すら不明。ピヨピヨと頭の周りでひよこがピヨっている。混乱しています。

 レイヴンはじっと私をみている。私もレイヴンを見る。


「レイヴン、お願い」


 両手を合わせて『お願い』と小首をかしげるとコクンと頷いて案内を始めるレイヴン。

 うちの従僕は本当に優秀で助かりますわ~。楽ちんでござる~。そしてますます堕落するヒキニート令嬢。

 だが、ずっと淀みなくすたすたと歩いて、時折私の方を振り返りついてきているか確認していたレイヴンが唐突に止まった。

 無表情に近い顔に、困惑をわずかに浮かべている。解りにくいといわれるレイヴンだが、とても困っているように見えた。


「どうしたの、レイヴン?」


「お嬢様をこの先にお連れすることはできません」


「まあ、どうして?」


 レイヴンはジュリアスと違ってとても素直。意地悪しない良い子である。

 私が一歩近づくと、明らかに狼狽して両手を伸ばしてきた。私の両肩に手を置き、押しとどめるようにした体勢で止まった。

 レイヴンは咄嗟とはいえ、妙齢のご令嬢である主人に勝手に触れたことにおろおろとしていた。レイヴンは小柄とはいえ異性なので、余り褒められたことではない。考える前に手が出てしまったようで、目の中に葛藤や動揺がぐるぐると回っている。


「お、お下がりください。お嬢様」


 実際には汗などかいていないのだけれど、明らかに動揺しきっている。

 一歩たりとも私をこれ以上進めたくないようである。

 一生懸命な従僕を無下にすることもできず、私は仕方なく一歩下がった。だが、さらにもっと下がって欲しいのかレイヴンはグイグイ押している。後ろ歩き、得意ではないのだけれど。


「レイヴン?」


 困ったわね。レイヴンを覗き込もうとすると、行こうとしていた場所から声が聞こえた。

 多分若い女性? 先客がいたのかしら。今、授業中のはずなのだけれど。おサボりかしら。

 しかし、その声に先ほどまでの微笑ましいといわんばかりだったセバスとアンナの顔が能面となった。すっと表情が抜け落ちて、ぞっとするほどの真顔に変貌したのだ。


「セバス? アンナ? どうしたの?」


「このセバスが先にみてまいります。アンナ、レイヴンとともにお嬢様を」


「はい、お願いいたします。セバス様。お嬢様、こちらへ――安全の確認が取れるまで、お下がりください」


 え? 学園ってこんなところにも修羅場があったの? いつどこでフラグ立てたの?

 セバスが向かった先から何やら騒ぎが聞こえる。どうやら、女性だけでなく男性もいたようだ。セバスに何か罵声を浴びせている。思わず飛び出しかけたが、すぐにレイヴンとアンナに押しとどめられた。

 はらはらとした心境のなか、指を胸の前で組んで待っていた。セバス、大丈夫かしら。

 しばらくして、セバスはいつもの優しい笑顔でひょっこりと生垣の曲がり角から現れた。


「申し訳ございません。お待たせしました」


「ええ、と。先客がいらっしゃったのかしら?」


「立ち退いていただいたので、問題ありませんよ。きちんとご納得いただいたうえで、出ていかれました」


 そうなの?

 首をかしげながら進むと、ベンチが置いてあり少し拓けた場所となっていた。ガゼボみたい。

 所謂休憩所的なスペースなのだろう。私みたいに迷ってしまった人のための。

 ちょっと休憩しようかなとベンチに近寄ったら、目をひん剥いたセバスとレイヴンが素早く通せんぼをし、私を横抱きにして持ち上げた。


「あの、セバス? レイヴン? ちょっとベンチに座ろうとしただけよ?」


 ペンキ塗りたてって感じでもない木製ベンチなのに、なんでそんなに二人とも反応するの?

 壊れているようにも見えないし、比較的新しそうなベンチだ。

 二人とも無言でブンブン首を横に振って、アンナも静かに首を振った。良く分からないけれど、使用人たちの間では意思疎通ができているらしい。

 結局レイヴンが「歩くのが疲れたのなら、私が運びます」と頑ななまでに言い切って、一切おろしてもらえない状態で迷路を出ることになった。道案内はセバスだった。

 ゴールした先にいたのは、お父様だった。やっぱり負けちゃった。


「何かあったのかい?」


「さあ? よく分からないのですけれど、あったみたいですわ」


 レイヴンはお父様の目の前で私を降ろした。

 セバスと謎のアイコンタクトを交わすお父様。何も言っていないけど、納得したご様子。なんで。

 だいぶあとでミカエリスからきた手紙にあったんだけど、薔薇園で白昼堂々、とあるご子息とご令嬢が如何わしい行為をしていたということを回りくどく、それはもう非常に遠回しに伝えてきて、ちょうどその事件があったのが、私がこっそり学園にやってきた時期と重なっていた。ミカエリス的には、いくら安全といわれる学園でもくれぐれも気を付けて欲しい程度の気持ちだったんだろうけれど――ごめん、その現場のぎりぎりに私いたかも。

 たまたまアンナやレイヴン、セバスがいないときにその手紙が来たのだ。

 あとで気づいたアンナが「るヴぉあーっ?!」みたいな悲鳴を上げていた。何が乗り移ったと私は怯えた。休暇を出してお祓いしてもらった方がいいかと、真剣に考えた。


 それは置いておいて。



 見事なカーテシーを披露して、学園だから比較的シンプルなドレス――でもローズブランドでも今年の新作の人気のエンパイアドレスを纏っている。同じ色のリボンを燃えるような鮮やかな赤毛につけている。裾に少しあしらったレースとビーズの刺繍がポイントになっている。

 令嬢然としたジブリールに妙な感動を覚える。これがかつて伯爵令嬢とキャットファイトして、顔面パンチから鼻血ブーまでさせた女の子だと誰が思うことか。


「久しいな、ジブリール嬢」


「ええ、お会いできて嬉しゅうございます。ラティッチェ公爵様、アルベルティーナ様」


「アルベルが久々に会いたいというのでな、連れてきてしまったよ。

 私は少々、学園側と話をしなければならない用事ができてしまったのでアルベルを頼むよ。何かあればアンナかレイヴンを使ってくれ」


「ありがとう存じます」


 お父様が鷹揚に頷くとセバスとともに部屋から出ていく。足音も遠ざかった途端、ジブリールがへたり込んだ。


「・・・・相変わらずですわね、公爵様は」


「どうしたの、ジブリール? 体調が悪いのかしら?」


「いえ、その・・・相変わらず公爵様は滅茶苦茶怖いなぁ・・・と」


 怖いのか? あれ怖かったかな? 普通にニコニコしていたけど・・・

 首をかしげるが、ジブリール曰くお父様は『王者の風格』というか『強者の威圧感』みたいなのが満ち満ちており、目の前にいるだけで圧倒されるのだという。

 娘にはデレデレドロデロに甘いけれど、他所だと基本魔王降臨だからな。


「学校には王子殿下たちもいるけど、正直公爵様に比べると子息どころか、一通りの有名どころの貴族の当主ですらかすんで見えますわ・・・」


「お父様は軍人でもありますから・・・・」


「もはや、そう云うレベルの方ではないと思います。国王陛下のご尊顔は近くで拝謁したことはございませんが、公爵と陛下なら絶対公爵のほうが緊張します」


「そうかしら?」


 陛下どころか、他の貴族なんかほとんどあったことがないから分からない。

 むしろ、新製品のお話を商人たちと話していることの方が多いかもしれない。

 その商人も、お父様が厳選してかつ護衛のいる状態で、勝手に私がキャッキャとうきうきしているふざけたものだけど。お膳立てが過ぎるくらい。

 相手も私が男性を苦手なのをわかっているのか、連れてくる付き人や助手はレイヴンくらいか彼より年下。ゴリゴリした感じより華奢な人が多い。もしくはお爺ちゃんってくらいの年齢や、稀に若い女性。


「公爵様に慣れていらっしゃるアルベル様には分からないかもしれないけれど、風格といいますか風采といいますか、纏うものが一線を画していらっしゃいます」


 あれに幼いころから晒されていたから、ジブリールにとって社交界は楽勝だという。

 他の貴族が気配で威圧してきても、全く動じないというかお父様と比べるとショボイと一蹴できるという。

 原作のジブリールは引っ込み思案で、劣等感からミカエリスともぎすぎすしていた。たった一人の妹と仲良くしたいが生真面目で不器用なミカエリスは、華やかな容姿と経歴の兄に嫉妬と羨望に歪んでしまった自分に自信のないジブリールとはなかなか打ち解けられなかった。

 ミカエリスは妹を守りたいと早くに夭折した父の跡を継ぐために忙しくしていたため、兄との差に落ち込み叔父夫婦に怯えてすっかり暗くなったジブリール。すっかり溝ができてしまった兄妹。悲しいすれ違いはずっと続いていた。

 だが、今のジブリールは兄と同じ鮮やかな赤毛と瞳を惜しげもなく晒し、大輪の真紅の薔薇のような華やかさを持っている。社交界でも引く手あまたなのだろうということは、容易に予想がつく。

 正直、ジブリールのように社交もできて、私のようなヒキ令嬢とも仲良くしてくれる子がキシュタリアについてくれれば嬉しいけど――もう清々しいほどそんな気配がない。

 残念ですわ~。

 こんなに愛らしい妹がいたら、絶対可愛がるのに。


「どうしましたの、アルベル姉様?」


「いえ、ジブリールのような妹がいたら素敵だと思ったのです」


「で、では是非お兄様はいかがですか!? その、爵位は低いですが家柄は古く歴史もあり、ラティッチェ領とも近いですわ!

 外見も悪くないと思いますの! 色々とご婦人から襲い・・いえ、お誘いがありますのでとても人気ですのよ! 髪も瞳も赤いから紅の伯爵だの薔薇騎士なんて呼ばれていますし!

 かなり真面目で一途ですので、絶対浮気もしませんし、第二夫人や愛人などを作りませんわ! まだ婚約者もいませんし、とてもお薦めですわ! 是非!

 もし嫁入りが難しいとあらば、私が女伯爵として立つか、適当な婿を取りますわ!」


 立て板に水というべきか、凄まじいセールストークだ。

 ジブリールはミカエリスの思いを知っているのかしら。私に恋文のようなお手紙をくださっているのを知っているのかしら・・・

 面映ゆいを通り越してしまう。恥ずかしいですわ・・・・っ!

 そういえば、ミカエリスにはまだ修道院へ行く予定なのを言っていない。

 目下の問題は、お父様の説得ですが――うーんドミトリアス兄妹は、絶対大反対しそうな気がしますわ。

 周囲から干渉されないためにも、それなりに規律が厳しい場所のほうがいい。権力の都合に、無理やり還俗されても困るのだ。


「わ、わたくし、結婚は考えていませんの・・・ごめんなさい」


「・・・・そうですわね。アルベルお姉さまを娶るには、まずあの公爵様の許しを得ないと誰だろうと命が危ないですもの」


 ふう、と残念そうなため息をつくジブリール。

 本気で残念そうなのは気のせいかしら?


「しかし、その髪と瞳はいかがいたしましたの、お姉様。魔法ですか?」


「その一種かと。お父様が用心の為と用意してくださいましたの。お父様とお揃いでしょう?」


「ええ、公爵様と同じ色ですわ。そのお色もお似合いです」


 でしょう? 見てみてと云わんばかりにスカートの端をつまんでくるりと回る。

 お母様のお色も好きだけれど、お父様のお色も好きなの。







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 いつも楽しく感想を読ませていただいております(*- -)(*_ _)ペコリ

 拙いながらもお付き合いいただければ幸いです!

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