挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
転生したら悪役令嬢だったので引きニートになります(旧:悪役令嬢は引き籠りたい) 作者:フロクor藤森フクロウ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
11/117

心の在処

 読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

 ブックマーク、ご感想、評価ありがとうございます。


 義姉・義弟・義母編。

 生粋の箱入り娘と魔王に目を付けられ引き取られた親子ですが、箱入り娘が箱入り過ぎて色々か保護。ラティママはキシュタリアの感情には気づいていましたが、アルベル自身は弟としては大好きだし、例の魔王はなんだかんだ黙ってみているので静観していました。今回までは。


 私が…でなく・・・を使うのは単純に好みです。三点リーダーより並んだ時の字面が好きなので。なんか三点リーダー好きじゃないんですよね。使ったときの微妙な隙間が。出版小説とかは三点リーダーですが。


 後日、ラティッチェ邸に戻ってきたお父様に修道院に入りたいと伝えたら、全力で聞こえないふりをされた。

 お父様、お耳が遠くなるには早すぎますわ。

 後ろのセバスは立ったまま卒倒してしまったうえ、他の使用人もバッタバッタと倒れていった。事態が事態なのであまり食い下がることができなかった。


 だが、そんな私に最後の最後でとんでもない爆弾が投下された。


 お父様とは修道院へ入るために親子のガチバトルを連日続けている中、お父様を何とか説得できないものかと私は悩んでいた。

 もういっそ、外国に亡命してそこで修道院に入ろうかしら。もしくは、一度入ったら外から干渉の難しい場所とか。教会とかかしら。

 アンナやラティお母様は私を止めようとしてくださるけど、私がラティッチェ――というより、この国内にいるかぎり火種になりうる気がする。

 ラティッチェ家は大貴族であり、王家すら蔑ろどころか扱いに困るほどの譜代の中枢家臣の公爵家。弟の地位を盤石にするためにも、表舞台に出られない場所が望ましい。そして、引きずり出されてしまえば私は傀儡になる未来しか想像できない。

 いつまでもお父様が守り抜いてくれた籠の中で平穏を享受できるわけがない。成人をすれば、なおさらのこと。というか歪みとなる。

 どうやってお父様を説得すべきか憂いていた。

 優しい公爵家の使用人たちは、全面的に私が修道院へ行くのは否定的。私の頼りにしていたジュリアスなど、否定派筆頭。言葉でははっきり言わないけど、そんな気配。専属侍女のアンナも、童顔に涙を貯めて考え直す様に訴えてくる。ラティお母様もその視線は雄弁に語る。お父様は笑顔で基本一刀両断。こんなに私の行動に非協力的な事は初めてだ。私を溺愛するお父様にとって、自分の手元から私がいなくなることなどもってのほかなのだろう。

 思わずため息も漏れるというものだ。お父様の監視を潜り抜けて国外はもっと難しい。

 協力者がいなければ、無理だろうけれど――お父様に逆らってまで、私に協力してくれる猛者などいない。協力者=処刑くらいのレベルなのだから。

 私の正念場だ。

 お父様に楯突いて、平気なのは私だけ。

 そんな時、窓がカツカツとなっているのに気づく。

 風が強いから庭木の枝が当たっているのだろうか。そういえば今夜は嵐らしい。余りに当たるようなら、窓を突き破ってきたりするかもしれない。

 ジュリアスかレイヴンに頼んで切ってもらおうかしら。庭師を深夜に叩き起こすのは可哀想だし、一本くらいなら魔法でスパッと行けるはずだ。なんとなくジュリアスやレイヴンは攻撃魔法が得意そうだもの。

 ちなみにゲーム版アルベルティーナはオールラウンダー。攻撃魔法、呪詛系デバフサポート、結界魔法まで使えるエリート貴族様だった。そして、終盤までその有り余った才能を下種の所業で振りかざしていた悪の華である。ルートによっては「悪役令嬢ちゃう、こいつラスボスだ」なんて有様ですらあった。ちなみに学園にすら通っていない私は、攻撃魔法はヘロヘロのからっきし、呪詛魔法はなんとなーく嫌な感じがする? とアンナやレイヴンに首を傾げられるミソッカス、結界魔法だけは「引き籠りたいでござるぅ!!!」という願望を反映するように鉄壁だった。攻撃・呪詛がへぼいその代わりと云っちゃなんだが、初歩の治癒魔法を使える。

 一応、アッパークラスの頂点にいる上級貴族の令嬢なので、教養とともに魔法の勉強もあるのだ。サンディス王国の王侯貴族は、上級程魔力持ちが多いのも理由の一つ。

 私は完全に防御・支援型。

 つまり、私は木を切ることすら魔法でできないのだ。

 てくてくと窓に近づくと、焦燥感も露のキシュタリアがいた。


「キシュタリア!? どうしたの、こんなに夜遅くに・・・っ」


「どうしたもこうしたも・・・! 家を出ようとしているって本当!?」


 あら、耳が速いこと。でも、それを聞くためにわざわざバルコニーを伝ってきたの?

 お父様が大反対で本決まりではないから、緘口令が出ている。知っているのはお父様との直談判の現場にいたセバスはじめとするごく一部の使用人と、私が最初に教えたジュリアスだけだ。あのジュリアスが、そう簡単に漏らすとは思えない。

 キシュタリアは魔力が強いから、魔法でなにかしらやってきたのだろう。少し濡れ始めている髪や額にハンカチをあてるとみるみるうちに湿っていく。

 一応、姉弟といえ年頃の近い二人は当然別部屋である。バルコニーも易々と移動できるほど近くない。そして、当然公爵家なので侵入者対策を施されている。


「それより、アルベル。本当に修道院に行くつもり?」


「・・・ええ、まだお父様に納得していただけていないから、予定ですけれど」


 お父様に告げた、ということでキシュタリアの顔はますます驚愕に塗り固められる。信じがたいものを見る目で私を見ていた。

 お父様に打診した時点で、私が相当の覚悟を持っていると理解したのだろう。


「アルベルは、この家が嫌い?」


「いいえ、大好きよ。お父様も、お母様も、キシュタリアも。アンナやジュリアスやレイヴンも――みんな大好きよ」


「だったら、ここにいよう? 僕がアルベルを守るよ。お父様がいなくなっても、ジュリアスたちが敵になっても、他の貴族や王家からだって守って見せる」


 お父様と似たアクアブルーの瞳が、嘆願するように私を見ている。

 すっかり私より背が高くなり、逞しくなってしまった弟だがその宝石のような瞳は相変わらず美しい。若いご令嬢など、甘い美貌も相まってコロリといってしまいそうなほどだ。

 キシュタリアが私をこんなにも思ってくれるのは嬉しい。だが、私はここにいる限り弟の障害なる確率の方が高いのだ。

 私以外には魔王のようなお父様の鬼のしごきの後継者指導に耐え、知力・武力・魔力を磨き学園でもトップクラスの実力者だという。順当にいけば、王子たちの覚えも目出度いだろう。

 そんな栄光の道が約束されているキシュタリアに、王族の血を引く社交界に出たこともない引き籠りの傷物の義姉。私が外でどんな噂になるかなんて、想像できる。嫉妬ややっかみ交じりで、お父様もお母様もずいぶん苦労されているはず。キシュタリアだって少なからず中傷被害にあっているはずだ。


「私は、どうあってもラティッチェ家の弱点にしかならないもの。

 いまはまだお父様が庇って、守ってくださるけどいつまでもそうはしていられないわ。

 公爵家に取り入りたい人間も、貶めたい人間も山ほどいる。その中には王家に関係する人たちだっているわ」


「・・・誰に聞いたの」


 ああ、やはりそうなのか。最後の王家という一言に、キシュタリアは一気に険しい気配と変わった。

 原作ではアルベルを、王家は扱いかねていた。数少ない王家筋を示す瞳を持つアルベルティーナ。訳ありのアルベルが王子と婚約したのも、それゆえだ。断罪後も青き血筋は捨てがたいのか、王家の血を増やす腹として扱われるルートもある。望まぬ男たちに体を暴かれる、悍ましいものだ。

 この国周辺では数十年に一度の割合でメギル風邪――別名魔力風邪というものが流行り、魔力の強い人々は特に重篤となる。それ故、今代の王族筋は少ないのだ。平民より、王侯貴族のほうが魔力持ちはずっと多い。確か、ヒロインの選択ルートによっては近年に流行る可能性もある。ぜひやめて欲しい。

 アルベルの祖母は王姉だが、嫁いでいて王都での流行り病から難を逃れた。母のクリスティーナや、仕事で王都を離れていたお父様も。

好色だった前王たちは妃・妾の間にあまたの血を残したが、この病によって大部分は間引かれた――これにより王位継承権争いの苛烈さはかなり収まった。陛下もかかったものの、何とか生き残ったという。

 本来、王位継承権もそれほど高くなかった陛下が玉座に据えられたのは、様々な偶然の産物だ。お父様も暗躍している可能性があるが。

 私が生まれる前のことではあるが、過去に魔法使いが集まった魔導都市や国家を滅ぼした恐ろしい病だ。

 高熱の出るこの病は一般の解熱剤が効かない。効くのは魔力抑制剤や魔力の封殺で、魔力自体を下げること。それにより高熱期をやり過ごせばいいのだ。

 キシュタリアは魔力が強いし、ルートによっては罹る。私の知り合いの中でも一番の魔力持ち。折角ムダ金有り余っているのだから、こっそり入手したが――今はそれより現状問題だ。

 この薬、まだメギル風邪の特効薬と認知されていないのよね。病気自体をおさめるというより、病症をやわらげる効果だし。

 平民でも、潜在的に高い魔力を持っている人はまれにいる。魔力を持っていても、持っているだけで魔法を使用できないパターンもいる。それが、高い魔力持ちが酷くなりやすいという認識を持たせることの妨げになっている

 これをどうやって誰かに気づかせるかも問題だ。やはりヒロインのルートを把握したい。これを発見できる攻略者は限られている。いや、そもそも流行るかも分からないけれど。

 キシュタリアには今のところヒロインの影はない。

 そうでなくても、私とキシュタリアが個人的に仲が良くても、事を荒立てたい人間はたくさんいる。


「いいえ、誰も。でも、馬鹿な私でもそれくらい分かるわ。子供じゃないの、子供ではいられないのよ」


「アルベルは馬鹿じゃないよ・・・君は必要な人だ。そんなに自分を卑下しないで」


 白い絹のネグリジェ越しに、肩から手の平の温かさが伝わってくる。

 すっかり姉想いの優しい子に育って、とほろりとする。

 最近、ジュリアスから青天の霹靂の告白があり、ミカエリスからの手紙が幼馴染や妹というより男性が女性へ送るものへと変わっていて、今までの仲良し幼馴染グループから脱線しつつあることに心が荒んでいた。そもそも、修道院に入るという考えは幼いころからあったせいもあり、余り男女の仲にも恋愛にも積極的になれなかった。基本喪女思考だし――私の恋人や旦那なんてお父様の奴隷と同じだ。

 そして、お父様は私が絡むと頻繁に魔王のような冷徹で悪逆をものともしない側面が出てくる。

 お父様は本当に優秀な人なの。私とは全然違う。私さえいなければ、王家との軋轢もマシになるかもしれない。お父様は、私以外に目を向けて幸せを今から探して欲しい。

無知で無力な娘の世話で駆けずり回っていい存在じゃない。

 私ばかり気に掛けるこの状態が長引けば、当然キシュタリアが公爵になったときにも影響が出る。

 キシュタリアは優しい。キシュタリアまで、お父様の二の舞にならないでいいの。


「・・・足手まといなのは、事実よ」


「なら僕が助ける。ずっと一緒にいよう」


「それはだめ、キシュタリア。当主となればいつか、伴侶となるご令嬢に他家から嫁いでもらう形となる。

 それは貴方を社交界で助けてくれる、人生のパートナーよ。その女性を大切にして。

 本家筋の長女でありながら私は何もしていなかった。でもその人はラティッチェ家の女主人としてたくさんのことを背負うことにな――「いらない」」


 低い声が私の言葉を遮った。思わずはっと顔を上げると、明るい青い瞳に苛烈な光りを宿したキシュタリアがいた。

 その目は、何度か見たことがあった。揺らぐように姿を消していたので、気のせいかと思っていた――それは最近にみたことがある。ミカエリスやジュリアスの宿すものに似ていた。

 気づきたくなかった、と今更理解した。目を背けていた。自分の楽園を壊す、それの正体にずっと目をそらしていた。

やめて、キシュタリア。聞きたくないよ。

 逃げたくても、掴まれた両肩は私が目を背けることすら許さない。


「そんな女、いらない。僕は貴女しかいらない」


「ずっと、ずっとアルベルだけを見ていた。

 アルベルが僕を弟としてしか見ていないことも知っていた。

 弟として、とても愛して大切にしてくれているのも解っていた。

 社交界や学園で、アルベル以外の令嬢たちにもあったけど、所詮はアルベル以外の女なんてどれも同じだ。何も感じないし、好きにならないし、愛せない。僕はそういう人間なんだよ」



「僕を、選んで。」



 私の小さく狭い、幸せな世界は壊れた。




 そのあと、私の部屋に私以外の気配を感じたレイヴンがナイフ片手に入ってきた。

 ノックもなしに、というあたり完全に侵入者だと思っていたようだ。だが、一瞬にして距離を詰めて組み敷いて――ナイフを振ろうとしたところで相手がキシュタリアだと気づいて、僅かに表情を顰めて離れた。だけれど、警戒するようにキシュタリアを睨み、背後に私を庇いながら部屋から出ていくように促した。

 ちなみに、私はレイヴンとアンナにいくら弟とはいえ、異性を部屋に入れたことをこっぴどく叱られた。

 レイヴンもアンナも、あの口ぶりからしてキシュタリアが私を姉ではなく異性として見ていると知っているようだった。私は矢張り鈍感らしい。ますます社交界なんて無理だ。

 乙女ゲームのシナリオに縛られ過ぎていたのかな。

 頭のどこかで思っていた『アルベルティーナ・フォン・ラティッチェ』が誰かに愛されるはずもないと。特に攻略対象である彼らには。


「お嬢様のその手の事柄に関しては、公爵様が徹底規制してらしたのである意味仕方ないのかもしれませんが・・・本当にお気づきではなかったのですね」


「・・・むしろ今まで良く肉体関係に持ち込まれず、食い荒らされなかっ「レイヴン、こっちにこい」


 何か不穏なセリフを言いかけたレイヴンを、ジュリアスが威圧感のある笑顔で遮って、口をふさぐ。そしてそのままどこかへ引きずっていった。

 今、私は危うい状況にいるらしい。

 というより、今までも危うかったのかもしれない。

 頭が拒絶して、理解したがらない。

 昨日、私の部屋に忍び込んだ――私が迂闊にも招き入れたのだけれど、それを差し引いてもバルコニーに侵入したのは事実であり、それがバレたキシュタリアは、私に対して接見禁止となっている。


 ラティお母様に。


 お父様(魔王様)でなく、お母様(ラティママ)に。




 茫洋とした記憶から、なんとか思い出す。


 今まで見たことの無い形相で、般若なんて可愛いほどの怒りの形相を見せて、持っていた南国鳥と銀白鳥を重ねた扇が折れるほどの強打をくりだした。キシュタリアを問答無用で殴りつけた。今日持っていた扇が木製でもなく金属製でもなくてよかった。

 まさか、お父様もそこまでラティお母様が激怒するなんて思っていなかったのだろう。呆然と立ち尽くしていた。

 普段穏やかで淑やかな淑女の鏡であるラティお母様が、頭から湯気が出そうなほど怒り、髪を逆立てている。


「キシュタリア! 貴方、アルベルに何をしたか分かっているの!?

 アルベルは未婚の女性よ!? いくら書面上は弟とはいえやっていいことと、いけないことの分別はついているはずです! アルベルが箱入りの温室育ちで、そのうえ結界付きの宝箱の住人で―――とにかく無防備でそういったことには人一倍・・・いえ、一千倍は疎いのは良くわかっているでしょう!?」


 そこまで鈍いかな、私。喪女歴は長いけど。

 色気より食い気で、いつも思い付きで色々やらかしてきていた。本当に令嬢らしくないのは解っている。ええんやで、どうせ取り繕うべき体裁もない張りぼて令嬢なのは解っている。十分瑕疵物件だから、すでに。

 だから、そこまで怒らなくても・・・


「でも、お母様。招き入れてしまったのは私で・・・」


「アルベル・・・あなた嵐の中、弟がいきなりバルコニーに現れて気が動転していたのでしょう?」


「え、はい・・・」


 かなり度肝を抜かれたのは事実だ。ジュリアスとレイヴンは、叩かれたキシュタリアに近づこうとした私を押しとどめた体勢のまま動かない。

 一人でも難しいのに、二人ともしっかり私の肩を押さえているし、目の前に立ちはだかっております。軟弱なヒキニート令嬢には不意を突くことすら難しい。


「そしてキシュタリアは廊下を通ってアルベルの部屋に行けば必ずジュリアスやレイヴンに見咎められると分かって、態々そちらからいったのよ。

 アルベルが夜の寒い中、雨に濡れたこの子を放置などしないと見越したうえでね!!」


 だん、と部屋に鋭く轟く音。ローズブランドの最新作の薔薇のコサージュの残像が見えた。エナメル靴が床を叩く。ヒールが折れんばかりの力強さに、私が飛びあがった。

 最後の言葉を云い切ると同時に、鋭い視線を実の息子へむける。


「・・・ごめんなさい、アルベルを怒っている訳ではないの。

 ただ、一歩間違えばアルベルがどう抵抗しようとも、キシュタリアを伴侶として選ばなくてはいけないことになっていたのよ。

 嫌よ、私は。望まない結婚を強いられた令嬢が、一時の感情で命を絶つことなんて社交界で何度も聞いたわ。心身を病んでしまう人だっているの。可愛い娘をそんな形で失うなんて絶対に」


 ラティお母様のその言葉に、キシュタリアから一気に血の気が引いた。

ぶたれて鬱血し変色した頬が、ラティ母様の怒りを物語っている。

 私に触れていたジュリアスの力が、一瞬強く籠る。すぐにそれはなくなった代わりに、ごまかす様に椅子に座るよう勧められた。

 ふと影が差したかと思うと、慈愛と悲哀を滲ませたラティお母様が華奢な腕を伸ばしてきた。


「血がつながっていなくても貴女は可愛い娘よ、アルベルティーナ。

 継母である私と義弟のキシュタリアを拒絶する権利だって、貴女にはあったの。

 でも、誰よりも歓迎してくれたのは貴女だった。知らない人が怖かったのに、頑張って歩み寄ろうとしてくれた貴女は、私にとって何よりも心強い存在だったわ」


 ギュウと抱きしめられると柔らかさと温かさ。女性特有の少し甘い香りが、お母様の髪の香油やほのかな香水と混ざり合い、大人の女性の香りを演出する。

 その温かさに強張った体から力が抜けていく。

 それと同時に、目から熱いものがぼろぼろとながれてくる。



「お母様・・・わたし」


「なぁに、アルベル?」


「う・・・うわぁあああんっ」



 ラティお母様。本当は、私は公爵家にいたいのです。

 でもいられないのも解っているのです。

 変わりすぎた未来が、現在がどうなるか分からない。怖くて怖くて仕方がない。

 特別な人ができたら、さらに縋りつきたくなる。共に居られたら、と願ってしまう。

 それすら、私だけでなく公爵家の立場を危ぶませ、その人の立場を追い詰める可能性があるとわかっていれば、その感情を持つことにすら二の足を踏む。

 縋り付いて泣き声を上げるだけで、それはいえなかった。



 本当は。


 好きな人ができたら、その人に好きといって、好きといってもらいたい。

 たくさん話して、手をつないで、抱きしめあって、笑いあって、キスをして。

 恋して、愛して、泣いて、笑って、はしゃいで、悩んで。

 そんな、普通の恋をしたかった。

 ありふれた普通の女の子でありたかった。




 私はどうあがいてもヒロインにはなれない。

 誰かとは幸せになんてなれない。

 少しでも油断をすれば、不幸をまき散らす存在となる。


 泣きつかれた私がお母様の腕の中で気を失うように眠り、その間にキシュタリアは今回の帰省の間、私とは接見禁止を言い渡された。








 ブックマーク、コメント、ご感想がございましたら下からどうぞ。

 読んでいただきありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想は受け付けておりません。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。