ORICON STYLE

黒よりも濃い、淡いピンク

夏になると思い出す。黒よりも濃い淡いピンク色なファーストキスの思い出。
16歳の夏、クラスの連中といった花火大会で僕とその子が皆とはぐれちゃったんです。
その子とは、よくバカを言い合う仲で、周りには「お前らが話していると夫婦漫才みたいだな」と茶化され、「付き合っちゃえよ」と囃し立てられては、「ふざけるな!こんな奴と」なんて、けなし合っていました。

それが、あの日は普段の制服とは違う浴衣姿のせいなのか、夏が持っているアバンチュールを誘う魔力のせいなのか、彼女を見ると「オレがこいつのこと好き」って言葉が頭の中に浮かんできて仕方ありません。気をまぎらわそうと頭の中で一人でしりとりを試みました。
「ナツ」→「ツル」→「ルス」→「スキ」

やっぱり「スキ」って言葉が離れないのです。
僕の心は、すっかり黒よりも淡いピンク色で染まってしまいました。

「もう、ここで花火見ようか?」
皆をさがすのに疲れた彼女は足を止めました。

「暑いねー」
「暑いな」
しばらくの沈黙
普段あんなにバカを言い合っているのに、会話が弾みません。
「なんか、しゃべってよ」
「おっおう!えっと……」
「なんか、気まずいね」
「……」
ダメだ、彼女の顔が見れない。悟られてしまう。頭の中が「スキ…スキ…スキ…スキ…」と、世の中の全ての「ス」と「キ」という言葉を僕一人で使ってしまったのではないだろうかというほどに「スキ」で埋めつくされてしまっている。
どうにかしなければ! すると彼女が突然、沈黙を破りました。

「村上ってキスしたことあるの?」
なんだ、この質問、必死で動揺を隠し
「え、あるに決まってんだろ」
「じゃあ、どういう時にキスするの?」
知ってる知識をふりしぼって答えました。
「そりゃ、お互い好きで、いい雰囲気で、片方が目をつぶりゃ、自然としてるもんだろ」「ふーん、好きでいい感じかぁー。今みたいな感じ?」
「うん、そんだな」

ん!? あれ今彼女何て言った? 俺、何言った? ヤバイ…訳が分からない。隣を見ると目をつぶっている彼女がいるのです。
(何だこれ!? キスなのか? からかってんのか? どうしていいのか分からない僕は思わず)
「これってキスって事?」そう彼女に聞いてしまいました。
「もう、雰囲気台無しだよ。分かんない、でも好き」
「えっ、あっごめん……」
恥を恐れず勇気を出した彼女にゴメンとはサイテーな言葉。それを聞いて彼女は
「そっかぁ…。やっぱり皆探そうか」
俺は、何をやってるんだ。頑張れ村上!
「ごめん…もう1回目つぶってくれる…俺もだから」
「え!?」
「だから俺も好きだよ」
言えたー言えたぞーーーーーー。
重ねた唇は、とても震えていました。
すると、勇気を出した2人に神様がご褒美をくれたのです。
「ヒューードン!! パチパチパチ」
祝福の花火があがりました。
でも、おかしいのです。いつまでもパチパチという音だけが鳴り止まないのです。振り返ってみると、はぐれたはずのクラスメイトがパチパチと拍手をしながらニヤニヤと近付いてくるのです。
「オメデトウ」「一時はどうなるかと思ったぜ」
なんと、僕は彼女とクラスメイトたちにはめられ、「真夏のキス大作戦」を実行されていたのです。
「ふざけんなーハメやがって! これだけは言っとくぞ…ありがとな」

これが僕のファーストキスの思い出だったら、今の僕は人を妬んだり、たくさんの嘘をついたり、妄想に逃げたり、卑屈な男になっていなかったかもしれない。
今の僕を築いたのは20歳まで童貞だったことが大きく関わっている…。

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『東京ベンチストーリー』

 都会の片隅にあるベンチを舞台に、男と女の甘酸っぱい恋愛が展開されるオムニバスストーリー。童貞感丸出しの誇張された“理想の恋愛”は、観た後に爽やかな苦笑をもたらしてくれること必至!!

監督・脚本・主演/村上健志

Vol.1
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Vol.2
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Vol.3
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Vol.4
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プロフィール

村上健志(むらかみ けんじ)

1980年12月8日生まれ、茨城県出身。B型。
2005年に相方の亘健太郎と共にフルーツポンチ結成。独特のナルシストキャラで人気を博すも、近年はあまりの運動神経の悪さから“ヒザ神”(※走る際にヒザが曲がらないことから由来)の称号を授かり、本人の意図しないところでブレイク中。

PROFILE

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