我儘令嬢VS悪役令嬢?
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
アルベルティーナは基本、それほど血の気が多くもないです。その分周りが切れやすい。そして、アルベルティーナがさらに冷静になるスパイラル。自分で怒らない。
久々にあったミカエリス・フォン・ドミトリアスは見事に枯れ木のようになっていた。
なぜー!!?
ドナドナされていったけど、その時は健康優良児だったよね!?
あの鮮やかな赤毛と紅顔の美少年っぷりも相まって、あの薔薇もかくやといわんばかりの華やかさは!?
その窶れっぷりに私だけでなく、キシュタリアもジブリールも狼狽して困惑している。
何が起こったのかと、びっくりするあまりキシュタリアにしがみついてしまう。ジブリールもしがみついていたが、それがベルトだった為、キシュタリアは必死に片手で降ろされそうなズボンを掴んでいる。
「ミカエリス、どうしたの・・・?」
「あ・・・え? アルベルティーナ・・・か・・・いや、その、忙しいこともあって余り食事が進まなくて。これは夢か?」
「忙しいからこそ、食事と睡眠はとらなくちゃだめですわ」
ミカエリスは私の髪や顔をペタペタ触り「夢? 白昼夢?」と虚ろな瞳でこちらを覗き込んでいる。現実ですわ。
確かにわたくし、ヒキニート令嬢ですけれど今回はお父様の許可が特別下りましたの。まあ、お父様の目的は頑張って作った保養所を愛する娘に見せて「流石お父様ですわ!」と絶賛されることですけど。もちろんしますけど。
それにしてもミカエリスの劇的ビフォーアフターは酷い。記憶にあるルビーを思わせる真紅の瞳は、どんよりして生気を失っている。ラティッチェにいたころもお父様にゴリゴリ扱かれていたと思うけど、さらにスパルタ化したのか。
あんまり触られると折角ジブリールと御揃いコーデをしたのに、乱れてしまう。ジブリールもそう思ったのかペチンとミカエリスの手を叩いた。
「レディに失礼よ、お兄様」
「す、すまない。ここにアルベルティーナがいるとは思わなかったんだ」
「アルベルで結構よ。それは、お父様からリゾート施設が出来上がったから招待をうけたのよ。貴方はご存じないの?」
ここ、ラティッチェ領じゃなくてドミトリアス領だ。領主であり伯爵の子息であるミカエリスが知らないのもおかしな話だ。
でも、そこにお父様の影がちらつくだけで納得してしまう。それがお父様クオリティ。
それにしてもさっきからキシュタリアが笑顔なんだけど妙な含みというか、圧を感じる。最近、なんか笑顔がお父様やジュリアスと同類化してる気がするんだけど、我が弟よ。幼い日々、私を恐怖とときめきの坩堝に追い詰めたエンジェルスマイルはどこに消えたの? まだ全然いけるけど。
「ああ・・・そういえば確か」
駄目だこれは。休ませなきゃ。
今はお腹が黒くなっている気配のするキシュタリアより、死相が出ているミカエリスだ。
「ミカエリス、お父様にはわたくしから伝えておきますわ。
貴方はすぐにお食事をして、歯を磨いて、お風呂に入ってお布団で眠るのよ!」
超越特権アルベルティーナの一声を発動します。この効力は絶大! お父様ですら逆らえない絶対命令だ。ごく一部にしか有効ではないけど!
「したいのは、山々なんだが・・・」
「なんですの?」
「原因はラティッチェ公爵ではなくて――」
「ミカエル様! こちらにいらっしゃったのね!」
疲れ切った顔をしていたミカエリスの表情がスンと抜け落ちた。能面みたいで超怖い。ミカエリスも攻略対象なだけあってかなりの美形なのだ。キシュタリアが甘いマスクの美男子だとすれば、ミカエリスは迫力の美丈夫というべきか。まあ、数年後の話だけど。
ミカエリスの表情を抜き去った声の持ち主は金色の髪を見事に巻いたちょっと釣り目がちの碧眼美少女だった。わあ、元祖悪役令嬢って感じ。真っ赤なドレスはボリュームたっぷりのフリルとレースをあしらったAラインドレス。色々なところにリボンやコサージュをぎっちり付けた、よく言えば華やか、悪く言えばど派手というかけたたましいドレスだった。
彼女は私やジブリールをちらりと見ると、旅行用のシンプルなドレスを値踏みするようにみて鼻で笑った。それに気づいたジブリールは「品のない方は品のないドレスをお召しになるのね。アルベルお姉さまのほうがずっと優雅で美人だもの」と静かに憤慨した。キシュタリアもアンナも頷いてないで、ジブリールを窘めて。私の可愛い弟妹達がさっきからちょっとおかしいの。
ミカエリスの腕をがっちりと絡み取られ、寄せあげたボリューミーな胸をぎゅうと押し付ける謎の令嬢。
「さあ、昼餐のご用意ができましたわ! テンガロン家の料理人が腕を振るいましたの! どうぞいらっしゃって!」
「いえ、来客がいらしてますのそちらをご案内しなくては。セイラ様はどうぞお先に」
断られるとは思わなかったのだろう「んまあ!」と大仰なほど、遺憾の意を表すセイラ様とやら。忌々しそうにこちらを見る視線は、ドーラを思い出す。とても嫌な視線だ。
ミカエリスは疲労のにじむ顔を何とか社交スマイルを張り付けている。ここまで来ると痛々しい。
キシュタリアは無言で私を庇うようにたち、ジュリアスは静かにさらに私を下がらせる。
「わたくし、テンガロン伯爵家のセイラ・フォン・テンガロンですの。
今から婚約者であるミカエル様と大事な昼餐があるので、ご遠慮いただけるかしら?」
ツンと細い顎をそらし、忌々しそうに白い羽飾りの大量についた扇をばさりと広げるセイラ嬢。縫製が甘いのか、ふわりと羽毛が舞う。羽も不揃いで野暮ったいし、少なくともローズブランドではなさそうね。
堂々と名乗っているけれど、セイラ嬢のおうちって公爵家より下やん。爵位は基本、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵という順番だ。その下に準爵や騎士候といった貴族階級や特権階級に準ずる身分もある。国によって若干差異はあるが、原則は変わらないはず。
絶好調で身分をひけらかしているセイラ嬢に、思わず冷めた一瞥を向けてしまう。何言ってんだ、こいつ。というやつだ。その視線にむっとしたのか、柳眉をはね上げるセイラ嬢。言動と目つきはあれだけど、結構美人さんだ。ジブリールのほうが超絶可愛いけど。
「貴女、見たことないわね。どこの田舎貴族かしら?」
そりゃ引きこもり娘だし、私に会わせる人はお父様とジュリアスとキシュタリアが徹底的に厳選している。出入りの商人すら、同じ商会でも屋敷に入れる人と入れない人がいる。
少し見る目がある人は、お父様と私がいたら、私に売り込んだ方が勝機があると知っているので全力で懇切丁寧にいろいろ紹介してくる。そしてそれを後ろで査定するのがジュリアスとお父様。
おそらく、実家であるラティッチェ公爵家や特例のドミトリアス伯爵家を除けば、私の顔を知っているのはあの誘拐事件があった時などにあった人たち。それでいて、物心のつく年齢でそれなりに年齢を重ねている人たちだけだろう。しかも王家の催し事に招かれるなんてごく一部。
ある意味SSR級に珍しい私を、伯爵令嬢ごときが知るはずない。
すると、隣からふっと笑う――嘲笑う気配がした。
「初めまして、セイラ嬢。僕はラティッチェ公爵が子息キシュタリア・フォン・ラティッチェです。隣にいるのは姉であるアルベルティーナです。
こちらはジブリール・フォン・ドミトリアス嬢。そちらにいるミカエリス様の妹君ですが・・・それすらご存じないと?」
お父様に似たアクアブルーの瞳が冷たく静かにセイラをみる。慇懃な一礼は、いっそ威圧的だ。
まさかの大物の名前にセイラはぽかんと口を開けて、扇で隠すことすら忘れている。ぽとんと指からすり抜けた扇が、床に落ちた。流石にラティッチェ家は知っているようだ。
「初めまして、セイラ様。ご紹介預かりました、姉のアルベルティーナ・フォン・ラティッチェですわ」
ドーラに定規やハタキの柄でバチバチ叩かれながら覚えさせられたカーテシーを披露する。
あれって今思えば体罰? 痣は残らなかったけど。
ドーラがいなくなった後、新たに来た作法の先生に絶賛されたこのカーテシーは私の自慢の一つであり令嬢としてできる数少ないスキルの一つだ。
しばらく頭を下げていたが、あちらは頭を下げる気配はないのでややあって頭をあげた。
本来、貴族の作法としてはあってはならないことだ。基本、身分の高いものが声をかけて身分の下のものが声を返し、挨拶を返すことが許される。もし、身分の高いものから挨拶されることがあれば、それ以上に深く、長い一礼をもってそれに報いらなければならない。
さらにジブリールが可憐なカーテシーの追い打ちをかけても、わなわなするばかりで挨拶を返さないセイラ嬢。これ、かなりイケナイことじゃないのかな。疎い私でも分かるの。
相手が身分を明かしたのに、それに対して棒立ちって。
「姉様、いこうか。どうやらテンガロン家のご令嬢は、碌に挨拶もできない方のようです。
そのような不作法な方をいつまでも貴女の視界に入れては、父様に合わせる顔がなくなってしまいます」
きっつー! キシュタリアってこんなにきつい性格だったけ?
幼いながらに整った顔に浮かぶのは侮蔑と冷笑。
後ろでようやく事態に気づいたセイラ様が何とか取り繕うそぶりを見せるが、私の腰を抱いて連こ・・・じゃなくてエスコートするキシュタリアと、ジブリールの肩を庇うように抱いて同じように足早にこの場を去ろうとするミカエリス。その表情は一見無表情だけど、鋭利で苛烈な光が宿っていた。とどめのように、ジュリアスが足止めすればセイラ嬢が追いかけられるはずもない。
あとで聞いたけど、どうやらあのテンガロンのご令嬢は、最近急激に持ち直してきたドミトリアス家に急接近してきて、過去にあったかどうか微妙な口約束を盾に婚約を迫っていたらしい。凄いガッツだな。
最近まで付き纏っていた叔父夫婦といとこがようやく大人しくなったと思ったのに、なんでこうミカエリスはどぎつい女に絡まれるのかな。宿命? 可哀想だわー。ミカエリスって、どっちかというと控えめで可愛らしいヒロイン系女子が好きそう。がつがつ肉食系は違うんじゃない?
あんまりにもパターンが似てたから最初いとこ筋のお嬢さんかと思ったわ。さっさと諦めてくれるといいんだけど。
だがしかしその日から、セイラ嬢はミカエリスから引くどころか、激しい猛アピールを開始した。
ラティッチェ家の顰蹙を買うか、ドミトリアス家を通して繋がりをもつかという二択で、彼女はしょっぱなから痛恨のミスをしたのだ。
もしラティッチェ家に取り入りたいのなら、絶好の相手が目の前にいるというのに、それを全力で無視してミカエリスを篭絡しようとかかっている。
ミカエリスだって、ラティッチェ家の顰蹙を買いまくるセイラ嬢と宜しくしたくないだろう。ミカエリス、あの子の声が聞こえるたびに表情が消えるもの。彼個人も、印象が良いはずもない。
「お馬鹿さんですわね、セイラ様は」
「僕としては、アルベルに余計な奴が近づかないほうがいいけど」
「あら、また姉様って呼んではくれないの?」
残念、と云うとキシュタリアは少し眉をさげてこちらを見て、苦笑を浮かべた。いつの間に、そんな大人びた表情をするようになったのかしら。
なんだか寂しいわ。昔は同じベッドで寝たことだってあるのに。主にジュリアスに怪談を聞かされて、私が泣いてせびって泣き落としてだけど。
ジュリアス、地味じゃなくて生粋のS資質よね。そしてチキンハートの主人をからかうとんでもない従僕である。だが、ジュリアスは言葉選びや語り口調が上手く、ついついいろいろな話に聞き入って、もっともっとと強請って聞き入ってしまうのだ。
でも、まだキシュタリアが来る前、誘拐事件の直後は暗闇が怖くて怖くて仕方なかった時、私が夜中に悲鳴を上げて飛び起きて、半狂乱になったときに大丈夫とだきしめてくれたのもジュリアスだ。お父様がくるか、部屋を明るくするまで暴れて悲鳴を上げ続ける子供の相手は大変だっただろう。
今でも暗いのや狭いのは怖いけど、前よりマシになった――多分。
相変わらずセイラ嬢からの猛アピールにさらにヘロヘロになっていくミカエリス。ジブリールは憤慨しっぱなし。流石に私やキシュタリアがいるときは一瞬大人しくなるが、隙を見て私を睨んでくる。本当にお馬鹿さんだ。これをお父様にみられたら、テンガロン伯爵家は容易く手折られてしまうというのに。
お父様にとって私を傷つけ仇為すものは須らく、消えなければいけないもの。
お父様の恐ろしいところは、それが手塩にかけた義息子や友人の息子だろうがそれに含まれそうなところだ。
娘である私さえ絡まなければ、顔良し・頭良し・家柄よしの栄華極める公爵。王家からも重用されるほど有能で、非の打ちどころのない完璧人間なのだけれど。
お父様によくわからない伯爵家を潰させるのはなんか悪役令嬢一直線感が半端ないので、そっとお父様をドミトリアス邸に行かない様にしむけた。
セイラ嬢についてはジュリアスにちょっと調べてもらって、親御さんに回収を要請しよう。
キシュタリアに頼みたいんだけど、なんか今ご機嫌斜めでオーバーキルの予感がするのよね。
最後まで見ていただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
ブクマ、コメント、ご感想がありましたら下よりよろしくお願いいたします。
楽しく拝見させていただきます!