3. 発覚6ヶ月前・突きつけられた離婚

ホテルの部屋に戻り、旬がお風呂に入っている間、私はバルコニーに出て海の風を感じながら航大に電話した。 20時半過ぎ、何度目かのコールで航大は電話に出た。 「あっ、もしもし？航大」 明るく彼に話し掛ける。 『…どうした？』 航大の声はまだ暗いまま。 「うん…。今、大丈夫？」 ちょっと怯んでしまう。 『勉強中だから、手短に』 「あっ、お疲れ様」 なぜか胸がドキドキする。 「あのね、旬と話して、1日早目に切り上げて帰ろうかなって思って…」 そう伝えると、電話越しからでもわかる航大の溜め息が聞こえた。 『杏、なんでそうなの？』 「えっ？」 『遊びたい盛りの男の子が、楽しい旅行から帰りたいなんて言うはずないだろ？杏がそう仕向けたの？』 「…し、仕向けたなんて」 グサッと胸にくるものがあった。 『……言い方はわるかったかもだけど、杏が失敗したり、暗い顔してたりで旬は敏感に感じ取ったんじゃないのか？』 そう言われて、思い当たる節は沢山あった。 『子供に気を使わせてどうする？』 思わず、唇を噛んだ。 恥ずかしい。 『予定通り行程を楽しんできたらいい。カード持たせたから金は大丈夫だろ？』 「…えっ…あっ…うん…」 『じゃぁ、切るよ？今、書類開けてるから』 「あっ、うん。ごめんね。ご飯ちゃんと食べてね」 『旬を頼む』 電話が切れると、私はバルコニーに設置されている椅子に座った。 いくら会社のことで頭がいっぱいだからって、酷いと思った。 だけど、航大が言ってることも一理はあって…。 バタバタッと音がして、旬が部屋からバルコニーの扉を開けた。 「お父さんと連絡ついた！？」 パジャマ姿の旬が元気に問い掛けてきた。 「あっ、うん…。勉強頑張ってるみたいで…。行程通り旅行楽しんでおいでって」 私が説明すると、 「そっか！じゃ、明日はお母さんの買い物付き合ってあげるよ」 旬は明るく返してきた。 その顔を見て、私だけがモヤモヤしているんだと気付く。 「…旬、マリンスポーツをしたいなら追加でどこか申し込むよ？」 「えっ？いいの！？」 「うん…。お母さん、丸一日買い物しないし」 「えっ、買い物大好きじゃん」 あっ、知ってる。 でも、航大の居ない買い物はしにくい。 「半日で大丈夫。お土産みんなの分一緒に選んでくれる？」 「いいよっ！！」 反省した。 航大の言う通りだと…。 ちゃんと旬が楽しめるようにするのが、今の私の役割だと思った。 私と旬は予定通り3泊4日の沖縄旅行をした。 空港に着くと、航大は約束した通り到着口の前まで迎えに来てくれた。 「お父さん！！」 旬が航大の姿を見付けて駆け寄る。 旬は旅行で楽しかったことを沢山話し出した。 「お疲れ、おかえり」 私を見て航大が声を掛けてくれた。 元に戻った？ 私も話そうとしたけれど、旬の米軍基地の話が止まらない。 結局、帰りの車内もずっと旬の独演会。 でも、そんなに喜んでくれたのなら、連れて行って良かったと思った。 航大も少し気分転換になったのかもしれない。 「お父さんが一緒だったらもっと楽しかったのになぁ～」 旬の言葉に、 「ごめんごめん。次は一緒に行こうな」 と航大は言った。