2. 現在 ・真実と事実

旬が生まれた時、私は19歳で航大は23歳。 航大は出産にも出来るだけ立ち会ってくれた。 難産で緊急帝王切開になり、その後も出血が止まらなくて、私は産院から地元の医療センターに運ばれた。 意識が回復した時、一番に見えたのは、航大の瞳だった。 目に涙を浮かべて、私の手を握り締め、何度も何度もお礼を言ってくれた。 『杏、ありがとうっ…ありがとうっ…俺の子…生んでくれてありがとうっ…』 って…。 後に聞いた話では、航大は「子供はいらないから杏だけは助けてくれ」と急変した私の出産に、医師へ必死に訴えたらしい。 旬の耳には入れられないけれど、当時の私はそれを母から聞いて、少し嬉しかった。 もちろん、私は命を引き換えでも旬を産みたかった。 我が子だもの。 だけど、旬ありきで進んだ結婚に、ほんの少しだけ不安があったからだ。 航大を信じていたけれど、事実がそうだったから少しだけ気になっていた。 でも、その話に、私は航大の愛を感じた。 私達は大丈夫だと、確信したの。 航大は旬のことも物凄く可愛がった。 若い父親で、周りの多くの友人はまだ遊んでいたにも関わらず、仕事に励み、育児にも積極的に参加してくれた。 仲の良い友人の神田さんも同じ時期に父親になっていたからかもしれないけれど、きっとそうじゃなくても航大は子煩悩だったと思う。 旬のお風呂は航大がいつも入れてくれた。 オムツも率先して換えてくれ。 旬がはじめて高熱を出した時は、一緒に救急に走ってくれた。 初めて旬が歩いた時は二人で手を取り合って抱き合って喜んだ。 保護者参観は幼稚園の時から皆勤賞。 PTAにも積極的に参加してくれた。 毎年夏には家族旅行に行って、旬の成長に合わせて旅行先を考えてくれた。 冬には思い出のホテルへ毎年泊まりに行った。 私の知る航大と今の航大は違いすぎて、受け入れられていなかった。