2. 現在 ・真実と事実

ドンドンドンッ―― 突然のノックにハッとした。 「杏ちゃん！？杏ちゃんいるの！？」 その声は……楓花さん？ 勢いよく開いたスライド扉。 私は力なく視線を上げた。 ぼんやりと楓花さんの顔が見えて、彼女の顔色が変わった気がした。 「杏ちゃんッ！！」 楓花さんが私に駆け寄る。 「何！？どうなってるの！？えっ！？」 楓花さんが真剣に私の様子を見て問い掛ける。 バタバタと向こうから音がする。 「…姉貴！？なんでっ」 航大がトイレの入り口から顔を出した。 「航大！！どういうことなのッ！？」 楓花さんは私を支えたまま航大を見上げて問い掛ける。 「…あ、姉貴には関係ないだろ―」 「そんな次元の話じゃないッ！！！」 航大の言葉を遮るように声を上げた楓花さん。 「アンタこんな状態の奥さんを放置してたの！？」 「……」 航大はばつの悪そうな顔をしてチラッと後ろを見た。 「旬、お前…学校は！？」 航大が声を上げた。 航大の少し後ろに、旬の姿が見えた。 「学校行ってなかったのか！？」 「旬ちゃんは正しいことをしたのッ！！お母さんが心配で、実家まで走って来たのよっ！？小学4年生でもわかるくらいの異常な状態をアンタは放置しているのよっ！？」 楓花さんの言葉に、涙がまた溢れた。 「杏ちゃん、とにかく病院に連れてくから…！」 楓花さんが私の肩を抱いて言った。 「航大っ！杏ちゃんを車まで運んでッ！！」 「えっ？」 「早くなさいっ！！！」 楓花さんの凄い剣幕に、航大は渋々私の元にやってきた。 少しでも当たると払っていた私を、抱き上げてくれるのだろうか…。 楓花さんに促されて、航大は私を抱き上げた。 「旬ちゃん、私の車だったら横に寝かせてあげられるから、玄関と私の車の後ろ扉開けてっ！！」 楓花さんの声に、旬が走っていく気配を感じる。 楓花さんはスマホを出して電話を掛けながら航大を誘導する。 「―あっ、もしもし？…すみません、救急で診て貰いたいんですけど――」 私は航大に抱き上げられたまま彼を見る。 航大は一切こちらを見ない。 それが悲しいのと身体が辛いのとで、私は目を閉じた。 久々に触れた夫。 世界で一番安心だった彼の温度を、こんな気持ちで感じる日が来るなんて…。 楓花さんは、実家のアルファードで来てくれていた。 うちの家の前に車がつけられていた。 航大の手で、私は後部座席に寝かされた。 こんな状態なのに私は彼の腕を取ってしまう。 そして私を見た航大。 何も言わずに反対の手で私のその手を掴み、離されてしまった。 直ぐに彼の視線は別に行く。 「旬、お前は学校に行け！！」 「えっ、でもっ！！」 「いいから！学校に行け！」 車の外で航大と旬の声がする。 「旬ちゃん、必ず学校終わった時間くらいに電話するから、携帯持って学校に行ってらっしゃい。ねっ？約束するから」 楓花さんが旬に言い聞かせていた。 私は、そのやり取りを聞きながら、そのまま意識を失った。