1. 発覚6ヶ月前・幸せな日々

日曜日の夕方、私は駅前まで航大を見送った。 週末に飲み会があって良かったと思う。 プレッシャーに押し潰されそうな時こそ、お酒を飲んで、仲間と話して、少しでも発散出来たらいいと思うから。 きっと神田さん達が、航大の気持ちに寄り添ってくれる。 「楽しんできてね」 駅まで送った航大に、私はそう声を掛けた。 「うん、ありがとう」 そう言いながらシートベルトを取る航大。 「帰りも電話くれたら迎えに行くから」 「いや、いいよ。遅くなるだろうし、先に寝てて？」 「大丈夫、起きてるから」 いつもなら引き下がるけど、ナイーブ航大だから少し過保護になってしまう。 航大は笑った。 「そしたら、杏を連れていかない意味ないじゃん。寝ててくれたらいいよ」 彼は優しく言って、私の肩に手を回し、私の唇に軽くキスをした。 「いってきます」 「いってらっしゃい」 そう交わして、航大は車を降りた。 駅のロータリーで、車を停車させて、運転席から彼を見送った。 航大は２度ほど振り返ってくれた。 ２度目の振り返りで私に手を振って、彼は駅の中に入って行った。 気分転換をしてまた前を向いてくれたらいい。 いいタイミングでの飲み会に感謝しながら、私は旬が待つ自宅へと車を発車させた。 その日、航大は帰って来なかった――