プロローグ

「半年前…いきなり、離婚と言ったのは、これが原因…？」 絞り出すように問い掛けると、航大は俯いたまま小さく頷いた。 視界がボヤける。 また、涙が溢れてくる。 航大が私に離婚を突き付けてきた時、彼は私に30項目近くのその原因を話した。 突然のことに驚いたけれど、どれも注意されたことがあったことや、直さなくてはと思っていた所で… 航大が離婚理由として提示したそれを、私は必死でメモし、直すから離婚しないで欲しいと懇願した。 バカな私は、本当にそれが離婚原因だと思い、この半年間必死でそれを直してきた。 元の航大に戻って貰えるように…。 誰にも相談しなかった。 …出来なかった。 原因が私だと本気で思っていたから。 「…その人が……好きになったの…？」 他に聞くことはあるはずなのに、私は涙を流しながら問い掛けた。 航大は私を見ることなく、俯いたまま小さく頷く。 手が震える。 身体も震える。 航大が他の女性を好きになった？ ダイニングリビングの飾り棚には、10年前の結婚式の写真もいくつか並べられていた。 私達、永遠を約束したのに？ “一生、杏を、守るから…。幸せになろう、二人で” そう言ってプロポーズしてくれたでしょ？ 航大は顔を上げて私を見た。 久しぶりに目を合わせてくれた。 こんな状態なのに、なぜかそれが希望にさえ感じる。 航大は、テーブルの真ん中に置かれた彼のスマホに手を伸ばし触った。 「全部、見たのか？」 ゼンブ、ミタノカ？ それが、数ヵ月ぶりに目見て問い掛けること？ 私は、航大の目を合わせたまま、涙で彼が見えづらくても、視線を外さなかった。 「…見た」 問い掛けられたそれに答えると、航大はスマホを回収し、パンツのポケットに仕舞った。 合っていた目は外され、彼はまた下を向く。 目を外されて、また傷付く。 「杏、そう言うことだから、別れてくれ」 到底理解出来ない。 息が苦しくて、寒くて、胸が痛くて、目の前が暗くなった―――