プロローグ

今朝、彼はプライベート用のスマホを置いて取引先とのゴルフに出掛けた。 トイレの棚に置きっぱなしになっていた彼のスマホを見つけたのは、航大が出発して小一時間経ってからだった。 結婚して10年。 彼の携帯電話を覗き見したことは一度もなかった。 だけど、どうしても、見なくてはと、思った。 見えてしまったLINEの通知ポップに、胸騒ぎがしたから。 トイレの鍵を閉めて、トイレに閉じ籠もり、彼のスマホをタップした。 航大はとてもせっかちで無駄な作業を嫌う人、スマホのロックでさえ嫌がる性格。 ロックはかかっていなかった。 震える手でその怪しい相手のポップをタップした。 ズラッと出てきた相手とのやり取りは、私をその場で崩れ座らせた。 あぁ…こう言うことだったんだ。 だから航大は、私に冷たくなったんだ…。 そう思って間もなく、 込み上げてくる吐き気、 悪寒、 悲しみ… それでも震える手でスクロールする指を止めなかった。 何を読んでいるのか途中わからなくなるくらい、私の知らない夫のやり取り。 だけど、途中で出てきた相手との写真で、やはりこれは事実なんだと痛感する。 知り合いとか、友達相手に交わすような内容ではない。 出て来た動画には、その女が裸で笑っていた。 航大の声が聞こえて、この動画は彼が撮っているものなのだと認識する。 これは間違いなく、浮気……不倫関係。 震える手を口元に当てて、私は涙を流しながら動画を見た。 知らない女。 豊満な胸に、女性らしい曲線。 夫の手が、その女へ伸びる―― 思わずスマホを投げ捨て、トイレの便器に嘔吐した。 吐いても吐いても気持ち悪さが襲ってくる。 涙と汗が入り交じる。 私は、頭の中が整理できないまま夜を迎え、帰宅した航大にスマホを見たことを告げた。