孤軍奮闘も徐々に疲弊した保健所
森田:接触確認アプリは、ある意味ですごくいい仕組みだと思いますし、特に今回の新型コロナウイルスよりももっと感染力が強くて致死率が高いウイルスが出た場合に、これを入れているかどうかで相当に効果が違うはずです。しかし今の状況で、こんな役に立たないものならばという形で評価がされてしまうこと自体が、非常に残念に思いますがいかがですか。
西浦:まさにその通りです。行政や保健所にも使い方やその有用性があまり機能的に伝わっていないのも問題なのです。というのも、感染者が増えてどうしようもないところで広く導入するものですから、悲しいことに、むしろCOCOAの情報が仕事を増やすような印象で受け止められてしまったようです。これは改善しないといけない。
森田:私自身はマイナンバーを活用し、今以上の情報データをきちんと収集し、できればリアルタイムで使用できるようにすべきだと提案しています。ようやく保健所の情報収集の部分を含め、コロナ禍で急速に検討が加速してきています。
西浦:残念ながら、日本の接触者追跡のキャパシティーはやはり高くないです。濃厚接触者を確認する保健所の人員が足りません。COCOAで登録される人が増えても、この部分がネックで、保健所に負荷をかけない形で実装しないと難しいという印象を持っています。現場を見ると、感染症疫学をトレーニングしてきた人がかなり少ないんです。
第2波の流行の初期、新宿区などはとても頑張ってくれました。ただ、だんだんと現場が疲弊していくプロセスを見ると、感染症疫学についてトレーニングを積んだ人がかなり少ないという状況が見て取れました。地域で展開できる人材プロが育てられてこなかったということです。
それなのに、地域がギブアップを表明し始めたところで流行拡大が認識され、そこで政治主導でワラワラと動き出すとよけいに現場が疲弊します。接触を追ったり、電話対応したりして地域を回せる人が一番重要なんです。長期的な視野に立って、保健所の仕事を軽減する策を計画的に練らないといけないのと、人材育成をもうちょっとやっておかないといけないんだなと痛感しました。
森田:限られた資源をどこにきちっと使うのが有効であるかなど、リスク管理の側面が科学的な分野だという認識をぜひ皆さんに持っていただかなければいけないと思っています。本日はありがとうございました。
西浦:ありがとうございました。
(まとめ・前濱暁子、編集・藤田正美)